「あぁダメ……なんだか緊張してきた」
『ちょっと。ボクの顔に泥を塗ることだけはやめてよねー』
緊張している妻を励ます気もない。
チャールズの嫌味も今ではすっかり慣れてしまった。
使用人に手を引かれ、馬車を降りた先にあるのは
グレイ邸に負けず劣らずの立派な屋敷──…
ミッドフォード邸。
今夜はミッドフォード家で侯爵主催の舞踏会が催される。
チャールズは先日の仕事上の晩餐会で何か嫌なことがあったようで、行くのを酷くイヤがったが侯爵夫人に強制的に誘われ結局 参加する羽目に。
私は結婚以来はじめての社交界。
辺りを見回すと、たくさんの貴族で溢れかえっていた。
(私はチャールズに相応しい妻になれているのかな……)
そんな私の様子に気付いたのか、チャールズはウインクしながらそっと腕を差し出した。
『大丈夫。ボクがちゃんとエスコートしてあげるから』
最初はあんなに意地悪だったチャールズも、最近では前に比べれば少しだけ優しくなった気がする。
私は差し出された腕におずおずと手を回すと、背筋をしゃんと伸ばし夫と共に美しいワルツが演奏される広場へ入っていった。
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