第1夜「叶わぬ月に想いを馳せる」
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世界はいつだって残酷だ。
「オニイサン、寄ってかない?」
声を掛けると、男は視線をゆっくりとこちらに動かした。
その動作がなんとも優雅で一瞬見惚れてしまった。
『アンタ、娼婦?』
イントネーションで彼が貴族だと伺える。
使う言葉で身分階級が一瞬でわかる英国の英語はとても便利だと、こういう時思う。
「ええ。それも、とびきり高級のね」
男をからかうようにそう言うと、彼は薄っすらと笑みを浮かべた。
『ヘェ……。いくらなの?』
***
「ン、あっ…あぁっ」
『ちゃんと壁に手をつけて。
……ボクを喜ばせるのが仕事なのに、君が悦んでどうするの?』
耳元でニヒルにそう囁かれると、彼の吐息があたって背筋がゾクリとした。
『あはっ、スッゴイ締め付け。君はこんな風に苛められるのが好き?』← → ページ数[1/2]
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