(全く、嵐のような娘だ……)







名前が部屋を出て行ったのと入れ違いで、呑気な声とともにグレイが帰ってきた。












『ただいまー』



「遅かったな。何してたんだ?」



『ちょっと野暮用でね』










グレイは部屋に入るなり、コートを脱ぎ捨てると、ソファに勢いよくダイブした。







『そういえば、名前来てたんだ?さっきすれ違ったよ』




「お前が帰ってくるまで、部屋が葡萄酒臭くて大変だった……」




『ははっ、かなり酔ってたみたいだしね』








フィップスはため息混じりにさっきまでのいきさつを話すと、グレイは他人事のように笑った。







グレイといい、名前といい。どうして俺の周りには自分勝手な人間しかいないのだろう。









「……おい、なんだその痕は?」





ふと、グレイの白い燕尾服についた赤い血痕に気づいて指摘する。











『あぁ、コレ?』




「また考えなしに誰か殺したのか?」





『違うよ。この前の夜会で、アーノルド・レイとバーナード・ブラックを“虐めた”時についた血だよ。たぶん』




「……」














どこかで聞いた名だな……。









明るい口調で答えるグレイとは裏腹に、フィップスはグレイの話に違和感をおぼえ、書類を整理していた手を止める。









『アイツら……下級貴族と下町上がりの成金の分際で名前に近付くから、あんな目に遭うんだよ』








グレイはレイピアを鞘から抜くと、切っ先の部分を眺めながらボソっと呟いた。











………名前が今まで、恋人ができない理由と彼女に近づいた男たちが彼女を避けていく原因がフィップスは分かってしまった気がした。










『ねぇ、フィップス』











口元は笑っているけれど、目は笑っていない。





地獄の底から発せられたような声で名前を呼ばれ、フィップスは思わず背筋が凍った。














「……なんだ?」




『さっき名前が言ってたこと、聞かなかったことにしてあげるね』











フィップスはグレイの輝かしい笑顔に眩暈を覚えた。



彼はおそらく名前のあの発言のことを言っている。








“私たち付き合っちゃう?“













午前0時。

フィップスは改めて、相方の恐ろしさを思い知らされた。









「確信犯」
end.



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