―――空が紅から藍に変わり、チラチラと星が瞬きはじめると、私も忙しくなってくる。
いつもの様に夕餉の仕込みをしていると、外からパタパタと軽い足音を立てて、二本の尻尾を持つ妖猫、
私の可愛い娘、オメガが帰ってきた。

「あるじさま、ただいまー!!」
「ああ、お帰り。何処も怪我は無いか?」
「うん!」

そう言って無邪気に笑うオメガ。

「じきに夕餉ができる。オメガも手伝ってくれ」
「はーい!」

軽やかな包丁の音と、鍋から漂う良い匂い、うん、今日も美味しく出来ていると良いのだが。

―――夕餉が終わり、あらかた食器を片付けると、オメガは決まってそわそわと落ち着かなくなる。
私は、敢えてそれには気がつかない振りをして、洗い終わった食器の水滴を、綺麗な布巾で拭いてゆく。

「さて」
「ぴゃ!?」

私が仕事を終えてオメガに声を掛けると、オメガは至極分かりやすく尻尾の毛を逆立てた。

「オメガ、今日こそは大人しく入って貰おうか?」
「や、やだやだ−!!俺、あるじさまもあるじさまのお料理も大好きだけど、お風呂だけは嫌だよ−!!」
「こぉら!!観念しろ!」
「きゃー!!きゃっきゃ!!」

暫し、そうやって私はオメガと追いかけっこを楽しむ(?)
オメガはとっても良い子なのだが、生まれ持った猫の本質か、そもそも個人的なものかは私も分からないが
お風呂が大の苦手なのだ。
だから私は、毎回手を焼くのだ。

風呂は、自宅にも小さなものがあるのだが、それは小さいため一人しか入れず、照明も、裸電球だけなのでとても暗い。
だから私達は、いつも山の中腹にある、妖獣御用達の天然の温泉へ行くのだ。
元々ここら辺一体は、地下水が豊富らしい。それでいて、人里からも遠く、人間の目にもまず見つかりにくい。
私は、渋るオメガの小さな手を引いて、例の温泉まで来た。
元々私達は獣だから、裸なども余り気にしない。私もオメガも、直ぐに身に纏っている服を脱いだ。
脱ぎ捨てられてぐちゃぐちゃになっているオメガの着物を、私はため息を吐きながらたたむ。
これも、主の、母の役目だ。

「ほらオメガ、早く入っておいで。風邪を引いてしまう」
「うう・・・・・・やっぱり苦手だなあ・・・・・・」

そう言いつつも、渋々、という感じでたっぷり時間を掛けて、オメガは湯の中に入ってきた。

「うん、素直で良い子だな」

私がそう言ってオメガの頭を撫でると、オメガは嬉しそうに尻尾を振った。

広々とした温泉で、私はゆっくり身体を伸ばし、暫し日頃の疲れを癒す。
その時、オメガが、じいーっと私を見つめているのに気がついて、私は声を掛けた。

「どうかしたか?」

私の問いに、暫くオメガは黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。

「あるじさまのおむね、大きくていいなあ」

そう言いながら、オメガは興味深げに私の胸をつついてくる。何だかくすぐったいが。

「まあな」

私は短く返す。大昔、この肢体や胸を使って、三國の帝を誑かして回ったことは、まだこの子には伏せておくことにした。

「どうやったら大きくなるんですか?」

キラキラとした、純朴な瞳で聞かれると、自分のしてきた事はとても言えないなあといっそ後ろめたくもなる。
私は咳払いをすると、こう言った。

「そうだな・・・・・・好き嫌い無く、よく食べろ」
「それだけですか?」
「それだけだ」

・・・・・・うん、別に、間違ったことは教えてないはずだ。
オメガはふいに自分の、僅かに膨らみはじめたくらいの胸を触りはじめた。
どうやら大きくしようとしているようだ。その健気な努力に、いっそ愛おしささえ覚える。

「・・・・・・今夜は朧月だな」

ふう、と息を吐いて空を見上げる。此処で酒の一杯でもあれば最高だが、オメガも傍に居るし、今日は我慢しよう。
私は再び、ゆったりと湯船の中に身を放った。


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