蒼い波の雫・・・・・・
照らす・・・月は冷たく・・・・・・

パチャ、と水を弾く音がする。誰も居ない、蒸し暑い夏の夜。学校のプールで。
暑くてたまらない、どうしても水で涼みたい、とオメガがねだるので、ボク(とオメガ)は、
夜の学校に居た。こっそり忍び込んでプールを使用している訳だから、ボクは内心とてもヒヤヒヤしていた。

そんなに入りたいなら、昼間学校に来て入れば良いのに、とは、オメガには言わない。
群れるのは苦手な、彼女の性格を知っているからだ。
彼女はこうやって、今のように、悠々と一人で泳ぐ方が似合ってる。
でも、流石に夜に女の子を出歩かせるのも心配だから、ボクも付いてきたわけで。

授業や部活に顔を出さない彼女は、学校指定のスクール水着を着ることも稀だ。
だから、まだ新品のようにも見える。

・・・・・・別に、それに乗じて、スタイルの良いオメガを眺めてるとか、そういう邪な心は無い。・・・・・・多分。

―――蒼い水底から、ぽっかりと浮かび上がり、空を見上げる。
無理を言って連れてきて貰ったが、水の中に入ると、何となく安心する。
それは遥か昔、俺も母親と呼べる女の胎(はら)の中、羊水の海に浸かっていたからだろうか。

蒼い空には、綺麗な満月が昇っていた。今夜も、蒸し暑い。
それでも水に浸かっている俺には、丁度良い気温にも思える。
アイツも泳げばいいのにな、なんて思ってから、俺はふと、イタズラを思いつく。それは実に名案だと思えた。

「イクス、」
ふと、名前を呼ばれてそちらを見る。水の中から顔を出したオメガが居た。
帰るのかな、ボクはそう思って普段は見学者用のベンチから立ち上がり、そちらへ歩いて行く。

「すまない、足が吊った」
オメガが言って、手を差し出す。引っ張り上げて欲しいのだろう。
仕方ないなあ、なんて思いながら、近づいて手を取る。次の瞬間―――

バシャアアアン!

一瞬の後に強い力で引かれ、気がついた時にはボクはプールに落ちていた。
パリパリだった白いシャツが一瞬で濡れる。肌に張り付いて気持ち悪い。

「もう、いきなり何するんだよ!」
忍び込んでいる事も忘れて、大きな声でボクはオメガに抗議する。
オメガはと言えば、イタズラが成功して、幼い子供の様にころころと笑っていた。
「でも、涼しくなったろ?」
笑って聞くオメガに、ボクはなんだか怒る気も無くなって、間抜けに濡れたまま棒立ちしている自分に気がつき、なんだか可笑しくなる。
月明かりの下、オメガと二人、顔を見合わせて笑いあった。

その日はそれで切り上げて、ボク等は帰路に向かう。
オメガの長くて綺麗な、濡れた髪からツン、と香る、塩素の匂い。静かな夜の町に響く、虫達の声。ああ、夏だなぁ、なんて。
「・・・・・・なあ」
ふと、隣のオメガが口を開く。何、と返事をすると。
「・・・・・・・・・連れてきてくれて、感謝する」
「・・・・・・!」
不意打ちで感謝されて、面食らう。暗くてよく見えないけれど、オメガは紅くなってるのか、ボクから顔を背けたままだ。

「・・・・・・うん。連れてきてあげる。これからも」
君が望むなら、いつだって。
夏はまだ、始まったばかりだから。

蒼い夜空・・・・・・
照らす・・・月は優しく・・・・・・

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