キャプテンの体にしがみついて能力で移動すれば、目の前にあの巨大なクールブラザーズの姿。
しかも、良く見てみればフランキーさんを掴んでいる。
巨大な目が私たちの姿を捉えると、必死にこちらへ縋り付いてきた。
「おお!お前たち、いいところに!今、麦わらのルフィがここに!」
どうやらルフィ君に手こずっているらしい。
そりゃそうだろう。
彼はここ2年でレイリーさんに修行をつけられた実力者だ。
しかも、クールブラザーズは体ばかりが大きいだけで対して強くない。
ここ2年で私も人と対峙すれば自分との実力差か大体分かるようになってきた。
以前は雰囲気で読んでいたが、今では覇気なのだろうか。対峙した相手の実力が明確に分かる。
そして、このクールブラザーズは会うのが初めてではないが、初めて会ったときから「私でも勝てる」と感じていた。
「ナマエ」
「アイアイ」
キャプテンが顎で私に合図すると、私は刀を抜いて振り上げた。
私の斬り出した斬撃がスパッと胴体と下半身を切り離して、目の前で巨大な体が倒れ込んでくる。
「ぬあっ!このアマ!何のつもりだー!!」
ナイフが私とキャプテンに振り上げられると、今度はキャプテンが私に鬼哭を預けて飛び上がる。
「“カウンターショック”」
巨大な体とはいえ、体の中を巡る電気がクールブラザーズの意識を奪っていった。
バリバリと手に電流を纏っているキャプテンには近寄らないように雪の中に落ちたフランキーさんを起こす。
「あ、ありがとう!…あ、違う!あんた私の体返してよ!」
「あ、ナミか」
「ナマエ!あんた恨むわよ!!」
「ええっ?!私のせいじゃないのに!」
両手を鎖で巻かれているため顔をグイグイと近寄らせてきた。ナミではない変態…あ、いや、フランキーさんに迫られているようで、鬼気迫る勢いだ。怖い。
「お前たちナミを助けてくれたのかー!」
ルフィ君が来ると、私の首元にキャプテンの腕が回り引き寄せられ、私はナミから離れていく。
その間にルフィ君が、中身はナミでフランキーさんの体に巻かれている太い鎖を噛み砕いているのが見えたのだが…ギョッとしてしまう。
信じられない。顎の力半端ない。
ザクザクと雪道を歩く音を鳴らしながら、少し離れたところにキャプテンが立つと、肩に鬼哭をかけてルフィ君の方を向く。
私はそのすぐ後ろに立って、キャプテンの話しに耳を傾けた。
「少し考えてな…。お前に話があって来た。麦わら屋」
「?」
「お前らは偶然ここへ来たんだろうが…この島には新世界を引っ掻き回せる程の、ある重要な鍵が眠っている」
それはここに潜入する時にキャプテンから聞いた。人工の悪魔の実を作り出す機械のことだろうか。
雪が降り続いてキャプテンの鼻もルフィ君の鼻も少し赤い。呼吸をするたびに白い吐息となって目の前に現れるのが、ここの寒さを物語っているようだ。
キャプテンの言葉にナミもルフィ君も続きを待っている。
一息ついたキャプテンが言葉を続けた。
「新世界で生き残る手段は二つ。四皇の傘下に入るか…挑み続けるかだ」
そう言い切るとキャプテンは口角を上げた。
「誰かの下につきてェってタマじゃねェよな、お前」
「ああ!おれは船長がいい!」
即答で答えたルフィ君の言葉は予想通りだったらしく、そのままキャプテンは強く言った。
「だったらウチと同盟を結べ」
「…同盟?」
「ええっ?!」
私が声を上げるとギロっとキャプテンに睨まれる。
慌てて自分の口を両手で押さえてから頭を下げて謝った。
いや、だってそんなん驚くでしょ。
…まあ、ハートの船長はキャプテンなのだからキャプテンが決めたのなら全員従うだろうけど…いきなりだな…。
もしかして先程決めたのか?こんな短時間で?
確かにルフィ君は信用出来るのかもしれないけど…というかキャプテンが一番誰も信用しなさそうなのに。
「お前とおれが組めばやれるかもしれねェ…四皇を一人、引きずり降ろす策がある」
雪が降り続ける中、風が吹いて手がどんどん冷えていく。
手袋でもするべきだった。キャプテンもルフィ君も素手なのに全然寒そうでないのは何故だ。
私が手をすりすりとすり合わせるとナミが興奮して声を上げた。
「同盟ですって?!あんた達と私たちが組めば四皇の誰かを倒れるの?!バカバカしい!何が狙いなのか知らないけど、ダメよルフィ!こんな奴の口車に乗っちゃ!」
フランキーさんの大きな体がキャプテンを指差しながら、ルフィ君の肩を揺らす。
それでも、ルフィ君は何かを考えているかのように黙っていた。
「いきなり四皇を倒せると言ったわけじゃない。順を追って作戦を進めれば…そのチャンスを見出せるという話しだ。どうする?麦わら屋」
「その四皇って誰のことだ?」
ずっと黙っていたルフィ君は静かに問いかけてきた。
「ちょっとルフィ!何興味出してんのよ!こんな奴…いくらナマエの船長だって言っても、信用できない!」
ナミの言い分も分かる。
私たちはいくら助け合ったとはいえ、敵同士なのは変わりようもない事実なのだ。
吹雪の中、キャプテンの口からその四皇の名前が出ると、ルフィ君は笑みを浮かべた。
「そうか…。よし、やろう」
「えー!!!」
ナミの叫び声が山に響き渡り、とりあえずルフィ君の他の仲間の元に合流する為に私たちは歩き出した。
「おい、手痛ェのか」
「あ、はい。寒すぎて…ルフィ君もキャプテンもよく痛くなりませんね」
吹雪いてきた外で行われた船長同士の話しは問題なく進み、海賊同盟とかすごい話に発展したものだからアドレナリンが出ていたのだろう。
だから、ひと段落ついた今になって手が冷たくなっているのに気がつき、凍傷のように痛みも生じている。
私の能力は治すことは出来ても痛みを取り除くというのは出来ないのだから中途半端。
手を擦り合わせていると、キャプテンの手が私の手を包み込んだ。
「冷てェな…凍傷になりかけてんじゃねェか」
「キャプテンたちすごいですね…何ともないなんて」
「お前が柔すぎんだよ。そっちの手はポケットに入れとけ」
片手はキャプテンに握られ、片方は言われた通りポケットに突っ込んだ。
先程より全然いい。
「ありがとうございます」
「ああ」
少し前を歩くルフィ君とナミを見失わないように、私はキャプテンの温もりを手に感じながら歩き続けた。
「ええええーー!!!」
私とキャプテンは同時に耳を塞いで麦わら一味の叫び声をやり過ごした。
着いてからルフィ君の発言に、主にウソップ君とサンジ君?いや、頭にチョッパー君の絵が書いてあるからチョッパー君かな?が衝撃に声を上げたのだ。
「ハートの海賊団と同盟を組むー?!!」
ウソップ君はルフィ君の胸ぐらを掴むとグラグラと揺さぶりながらキャプテンを指差した。
「ナミを奪い返しに行っただけで何でそんなエキセントリックな話になってんだよ!!こんな得体の知れねェスリリング野郎と手を組んだ日にゃおれは夜もオチオチ眠れねェよ!!」
「ほらねルフィ!みんな反対でしょ?!やめましょう!こんな危ない話に乗るの!!航海には私たちのペースってものがっ」
「そうだルフィ!大体まだ四皇を視界に入れるなんて早すぎるよ!戦えるわけない!」
どうやら麦わらの一味では反対派が多いらしい。
となるとやはり同盟の話はなかったことになるのか?
できるならキャプテンの提案通りにことが進んで欲しい。
「ルフィ、私はあなたの決定に従うけど…海賊の同盟には裏切りが付き物よ。人を信じすぎるあなたには不向きかもしれない」
ロビンさんはさすが麦わら一味の中では大人なクルーだ。
その言葉を聞いてルフィ君はすぐに私たちの方を見てきた。
「お前ら裏切るのか?」
「いや」「いいえ」
二人して即答で答えながら首を振るとウソップ君が泣きながら「あのなぁ!」とツッコミを入れる。
仲間たちのそんな反応も、ルフィ君はいつもの笑顔でニッと笑った。
「とにかく海賊同盟なんて面白そうだろ?トラ男もナマエも、おれはいい奴だと思ってるけどもし違っても心配すんな!おれには2年間修行したお前らがついてるからよ!!」
そんなことを言ってもキャプテンはガラ悪いし、敵同士なことは敵同士。
先程のロビンさんが言っていたように騙される可能性だってあるのだから、いくら船長がそんなことを言ったからってクルーが納得するわけ…。
「や、やだもールフィったら照れる」
「そりゃあな、おれたちは頼りになるけど」
「よ、よしルフィ!おれ達にドーンと任せとけ!ゾロ達もビビってやがったらおれ達が説得を!!」
「…」
「…」
思わず私とキャプテンで半口開けて唖然としてしまった。
これが麦わらの一味か…。
「“シャンブルズ”」
体を元に戻したが、ナミだけは体をサンジ君が持っていってしまったため戻せずこちらに向かって怒ってきた。
「何とかしてよ!!」
「体がねェと無理だ」
キャプテンがナミに背中を向けると、ナミの矛先は私の方へやってきた。
「ちょっとナマエ!この体、どうしたらいいのよ!」
「わわ!な、ナミ近いよ!顔近い!」
「ん?顔赤いわよ?」
「当たり前でしょ!ナミは今サンジ君の顔なんだよ?!」
ぐいぐいと近寄る顔に顔を真っ赤にして背けていると、じーっと私の方を見てくるキャプテン。
ハッ!あ、あの目はまずい。
私は血の気が引いてすぐにナミから体ごと離れてキャプテンの元へ駆け寄って行った。
「…コイツらか…」
「ああ!助けてェんだ、コイツら!」
眠っている子ども達がうっすらと目を開けだして麦わら一味がギョッとし始める。
「やべェ!チョッパー!目が覚めるかも!」
「ま、麻酔を!」
「ナマエ」
「アイアイ!」
能力で出現させた麻酔薬を手元で握ると、子どもたちにかける。
金色の粉が舞い上がり、子どもたちはすぐに元の穏やかな寝顔に戻っていった。
「す、すげェ…!お前すげェな!!傷治すだけじゃねェんだな!」
「ま、まあ…一応…」
「すげェー!!仲間に欲しー!」
「やらねェよ。それより、こんな厄介なモンほっとけ。薬漬けにされてるらしい…」
あの悪魔のような科学者を思い出して奥歯をギリっと音を鳴らして噛み締めた。
こんな罪もない子どもたちを人体実験をしたのだから。
思い出しただけで悔しさに手を握り締め、なにも気が付かず、なにも出来なかった後悔が押し寄せる。
暖かい手が私の頭の上にぽんと、乗せられると涙が溢れそうになった。
何も言わないけど、キャプテンのその行動だけが私の心を軽くしてくれた気がした。