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海軍本部を出て、私はキャプテンと共に甲板に降り立った。
甲板には誰も居なくて、寂しさを覚えながらもキャプテンに促されて船内に入った。
静かな船内に首を傾げて、それでも気配は感じるし先程からいい匂いがしてお腹が空いてきた。

見聞色の覇気を発動させれば、食堂に集まっているのが分かる。

「みんな食堂で何をしてるんですかね?」
「…見聞色の覇気か…アイツらも予想外だろうな」
「?」
「いいから食堂行ってやれ」

とりあえず食堂のドアを開けると盛大にクラッカーが鳴らされた。
食堂は色とりどりの食事と、折り紙の飾り付け、そして大きな垂れ幕に〔ナマエ、おかえり〕と書いてある。

「おかえり!ナマエ!」

ベポに抱きつかれて中に入れられるとみんなにめちゃくちゃに撫でられる。

「おかえり!」
「おー!色んなところが成長しちゃって!」
「髪伸びたなー!!」
「おかえり!」

「っ!みんなありがとうございます!」

髪の毛がボサボサになりながら、シャチにお酒の入ったコップを差し出された。

「じゃあ、クルー全員が揃ったということで乾杯!!」

シャチの乾杯の合図で始まった宴。
久しぶりのみんなの顔に泣きそうになりながらも、手元にあったお酒をグイッと飲み干した。

「おれらの位置、分かってたのか?」
「うん、覇気発動させてね。あ、でもまさかこんなことしてくれるとは思わなかったけど」
「すげェなあ。お前も覇気使いになったのかあ」
「戦闘するのが楽しみだな!」

笑い声が食堂に響き渡って、クジラさんの久しぶりのご飯も堪能して、色んな事を話して聞いて、私は久しぶりのお酒に舌鼓を打った。

「それにしても、この帽子懐かしいなあ!」
「キャプテンがまさか帽子をあげるとは思わなかったな。てっきりピアスとかかと」
「何かをあげるとは思ってたけどな、帽子かぁ」

私の頭に乗ってる帽子を見ながらみんなが話し始めた。

「あの熱烈なキスシーンからもう1年と半年も経ったのか…」
「…ね、熱烈…」
「再会のキスシーンは?」
「しません!!」
「キャプテーン!ナマエがキスしたいらしいでーす」
「言ってない!!」

ウニさんのデカい声が遠くの席でペンギンさんと飲んでいたキャプテンまで届いたらしい。
キャプテンと目が合うと心臓が痛いほど早くなって、恥ずかしさに視線を逸らせた。

「なら来いよ」
「い、行きませんよ」

「何だよー!素直になれよ!」
「キャプテンとこ行け!」

イッカクに背中を押されて、しぶしぶキャプテンの目の前に立つとドキドキと心臓が煩い。ついでに言うと外野も煩い。

「キス、して欲しいんだろ?」
「…」

キャプテン、酔っているのだろうか。
私の視線はテーブルの上のお酒に目がいった。
そこには今までにみたことのない酒瓶が転がっていて、ペンギンさんの顔を見れば、静かに首を振った。

キャプテンの顔はほんのり赤くなっていて、変わらない隈に、整った顔。私の帽子と同じ柄の新しい帽子はテーブルに置かれている。

「…ペンギンさん、キャプテン酔ってます?」
「酔ってねェ」

苦笑したペンギンさんを横目に、新しい酒瓶を手にしたキャプテンを止めようと手を伸ばした瞬間。
その腕を掴まれて引き寄せられるとすぐに唇を塞がれた。
あまりの早業に為す術もなく、仲間たちの歓声によって私はハッとなった。

「キャプテンっ!も、もう部屋行きましょう!」
「連れてってくれ、ナマエ。キャプテン飲み過ぎだ」
「分かりました、ペンギンさん」

ペンギンさんに水を持たされて、キャプテンが私の肩を抱いて立ち上がった。
仲間たちに見送られながらキャプテンの重い体を支えて、キャプテンと一緒に食堂を出て行く。
廊下を歩きながらずっしりと私の肩に体重を乗せているキャプテンに苦笑した。

「飲み過ぎですよ。てか、ペース早過ぎなんですよ…キャプテンが酔うなんて珍しいですけど」
「おれだって酔いたくもなる」
「どうしてですか?」
「嬉しいからに決まってんだろ」

あーもー、キャプテン好きだ。
こんなデレデレ期は初めてだし、私だって嬉しくて嬉しくて。あ、泣きそう。

「…泣くなよ」
「だって…キャプテンが私を喜ばすことばっかり言うんですもん」

船長室に入ると、酔ったキャプテンをベッドに転がそうとしたのに、腕を引っ張られてそのまま一緒にベッドに転がった。

力いっぱいに抱きしめられて、額と額をコツンと当てながら2人で見つめ合った。

「覚悟…出来てんのか…」
「もちろんです。キャプテンを護るために、一緒に戦うために修行してきました」
「……ほんと、いい女だな」
「ふふふ。誰の女でしょうかね」

唇を塞がれると今度は深いキスになる。
私の口内にアルコールの強い唾液が入ってきて、飲み込むと私まで酔いそうになる。
クラクラするのはキスのせいか。それともこのキャプテンの飲んだアルコールのせいか。

どちらにしろ、キャプテンに酔ってる私はどっちでもいいのかもしれない。

「今日はここで一緒に寝てもいいですか」
「聞かなくとも部屋を出すつもりはねェよ」

布団を手繰り寄せてキャプテンに擦り寄った。
こんなに長い年月を一人で眠っていたのだから、こんなにも人の温もりが安心させるとは思わなかった。

アルコールの効果もあって、私もキャプテンも意識が朦朧としてくる。

「明日、たくさんお話ししましょうね」
「ああ。話すことも聞くことも試したいことも山ほどある」

穏やかな気分で、眠りにつけそうだ。
トロンと目蓋が重くなってくると、自然と目を閉じた。

「おやすみなさい、ロー」
「おやすみ、ナマエ」

抱かれることもなく、それでもこんなに満たされる気持ちになるのは長い間離れていたからなのか。







目が覚めても隣には大好きな人の姿。
夢じゃなかったんだ。本当にキャプテンの元へ戻って来れたんだ。

抱きしめられたまま頭を少し動かしてキャプテンを眺めると、キャプテンの寝顔が見れた。
お酒のおかげもあって、本当にぐっすり眠っているのだが、眠っていてもその顔は整っている。

コスモスさんと過ごしたあの島で、キャプテンの事を忘れるぐらいの勢いで修行に没頭していたが、夜になると毎日思い出していた。
あの寂しかった日々が嘘かのように、今、キャプテンは目の前で眠っている。

それにしても隈、酷くなってないか?
みんなが私のいない間、キャプテンは動き通しだったと言っていた。働き過ぎだよ。ゆっくり眠る暇もなかったのかな。

逞しい胸板は1年半前と変わらないし、私を力強く包み込んでくれているこの腕も。

「ん…ナマエ…」
「キャプテン?おはようございます」
「…夢じゃねェ…」
「ちゃんとここに居ますよー」

胸にすり寄ればキャプテンの抱き締める腕に力が入った。

「今日は能力を見て、今後の予定をお前と…ペンギンたちに伝える」
「分かりました」

2人で戯れるようなキスを繰り返し、起きて交代でシャワー浴びて、着替えるとすぐに食堂へ向かった。
入った途端に仲間たちが一斉にこちらを見てきて安堵した表情になる。

「夢じゃなかったな」
「なんつーか、1年半も居ないと帰ってきたのが夢なんじゃないかと思って」

どうやら私とキャプテンだけではなかったらしい。
私はヘラっと笑うと、キャプテンと席に座ってみんなの顔を眺めた。

カイ君、イケメンに成長したなあ。
あとはみんな変わらないけど、みんなも強くなったのは今の私なら分かる。
隣に座るキャプテンなんか、私がどんなに鍛えても敵うことはなさそう。

「刀、新しくしたのか?」
「コスモスさんに頂いたんですけど。キャプテンの鬼哭と相性がいいだろうからって」
「…見せてみろ」

腰に括ってた紐を解いて渡すと、他の仲間も覗いてきた。

「妖刀か…」

私の刀は普通サイズなのにキャプテンが持つと小さく見えるな。

「食事が終わったら甲板に出る。試したいことがある」
「はい」





長くなった髪の毛を一つに纏めて、向かい合うキャプテンを見れば笑みが溢れた。

「初めて能力を試した日を思い出しますね」
「楽しそうだな」
「キャプテンの能力とどう作用するのか楽しみでしたので」

くくっと笑ったキャプテンがROOMを展開させると、私の体が淡く光り、2人して刀を抜いた。
手の空いてる仲間が見に来ているのだが、慌ててROOM内から出て行く。

「シャボンディの時みたいに真似して片っ端からキャプテンの能力を使ってみます?」
「いや、どうせできねェし。それより…シャチとイルカちょっと来い」

シャチたちはギョッとした顔になりすぐに勢いよく首を横に振った。ずりずりと後退する2人は、そのまま仲間同士で譲り合って背中の押し合いが始まると私はお腹を抱えて笑う。
私が笑っているとキャプテンがため息をついて、ROOMをさらに広げて、船全体を包み込んだ。

それでもまだ余裕のありそうなキャプテンを見る限り、どうやらだいぶ能力が強化されたようだ。

私は手に少し力を入れて、刀を振り下ろし斬撃を繰り出すとキャプテンも含めてクルー全員に当たった。
このくらいなら切れたとしても私の能力で治るくらいだろうと、加減したが…みんなの姿を見て青ざめた。

「あ、あ、ば、バラバラにしちゃった…」
「やっぱりおれには無効か」
「ぎゃあああ!キャプテン!みんなをバラバラにしちゃ…出血してない…」

みんなも首を傾げながら慣れた様子で胴体と足をくっつけていく。
さすが、バラバラにされ慣れている…じゃなくて!

「キャプテン!」
「ああ。お前もおれと同じようにROOM内でバラバラに刻めるみてェだな」
「面白い!みんなの首を取ってやるー!」
「ぎゃあーーー!!やめろ!」

私は笑いながら刀を振りまくるとキャプテンが鬼哭で弾いてきた。
金属のぶつかり合う音が鳴り響き、衝撃で私の手が痺れた。

「っつー…」
「調子に乗んな」
「メス!」
「…」
「カウンターショック!」
「…」
「タクト!」
「…」
「ROOM!」

甲板が静かになり、私のお尻にキャプテンの蹴りが当てられた。

「ぎゃっ」
「だから無理だっつってんだろ」
「バラバラにするだけじゃないですか!私!無能!」
「斬撃を作り出しただけでおれは充分驚いてるけどな」

結局、修行した成果で今のところ分かったのはバラバラに出来ることだけだった。
その後は私の覇気を見るために、キャプテンとの容赦ない手合わせで1日を終えた。







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