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夜まで我慢するつもりだったが、抱きしめられてキスされたらその温もりと、ナマエの匂いに沸き起こされた欲に勝てずに抱いてしまった。

互いに裸で抱き合うと、安心するこの温もりが戻ってきてくれたのだと実感し、愛おしい目の前の体を無我夢中で求めた。一応、意識を奪わないよう自制はした。
抱えてみてその体の軽さに不安も感じた。しばらく寝たきりだったというその体は最後に抱いた時より頼りなく、強く腰を打ち付けると壊してしまうのではないかと。

今後の予定のことも考えると戦闘能力をお互いに高める必要があるし、ナマエに至っては覇王色の覇気に当てられて意識を失うぐらい。せめて耐えられるほどの強さは必要だ。

着替えながらそんな事を考えていれば、目の前でナマエが不安げな表情でおれを見ていた。
落ちた体力と筋力に実感して、恐らくこの先のことを考えながら不安になっているのだろう。危機感を持っているのはいいことだ。この先の海は今まで通りといかないし、今ですら何度もコイツは命を危険に晒した。

とりあえず飯を食わせて体作りから始めるか。

「2人分の食事を持ってくるからここに居ろ」
「私も」

麦わら屋のとこのクルーから借りたと言っていた服は露出が多く、落ち着いた今、改めて見ると…面白くねェ。
その服を取り上げて、待つように言うと素直にベッドの上に膝を抱えた。

下だけ穿いてそのまま部屋を出ようとすれば慌ててナマエがベッドを降りて、おれの前開きのパーカーを取り出して着せてきた。
肩と背中に行為の跡が出来ているらしい。顔を真っ赤にしながら指摘され、仕方なくパーカーを羽織った。





「あれ?キャプテン早いっすね」
「…2人分の飯を取りに来た」
「あー、なるほどー!休憩っすね!」

シャチの何かを察したようなニヤニヤ顔がウザく、ケツを蹴り飛ばしてキッチンへ向かった。

「クジラ、2人分の夕飯を頼む」
「あ、キャプテン。もしかしてナマエの分か?」
「ああ」

おれが頷くと手元を動かしながらクジラは少し考えて、俺の方をちらりと見た。

「ならカロリーの高いもんだな!特別メニューだ。随分と痩せ細ってたが、大丈夫なのか?」
「しばらくはカロリーの高いもんを食わせて、体も動かせる。だいぶ体力と筋力が落ちてるからな」
「任せてくれ!カジキ、甘いもんを作っとけ。おれは追加で何品か作る!キャプテン少しだけ待っててくれ」

カウンターに座るとおれの両隣にシャチとイルカが座り、酒を差し出され、おれは口角を上げてその酒を口に含んだ。

「マジで拾ってくれたのが麦わらで良かったっすね」

シャチの言葉に「ああ」と返事をする。
確かに人魚に助けられた奇跡があるとはいえ、それが他の海賊だったらと考えるだけでもぞっとする。こうして生きてこの手に帰ってきたこと自体が信じられないぐらいの奇跡だ。あそこのクルーは新聞の情報では世界政府をも敵にするような酔狂な海賊だと思っていたが、ナマエの馴染み具合とあの時の麦わら屋の一味を見れば悪い意味での新聞を騒がしている一味ではない気がした。

おれが麦わらのことを考えていると、イルカが隣から自分の食べていたつまみをおれの前に差し出してきた。

「キャプテンもちゃんと飯食わないとダメっすよ。ここんとこあんま食ってないし、寝てなかったんですから」

シャチとイルカに挟まれるように咎められたが、確かにここ数日は満足に眠ることが出来なかった。
目を閉じればアイツの最悪な状態ばかりが思い浮かんで、ベッドに入れば無意識に温もりを探して…本当にだいぶ苦しめられたな。それもとりあえずは今日で終わりだ。おれの気が晴れるまで、しばらくは女部屋に戻すつもりはない。

「イッカクに、しばらくアイツはおれの部屋で寝るって言っとけ」
「アイアイ!」

イルカが席を立ち、イッカクの方へ行くとシャチがそれを見ながら口を開いた。

「キャプテン、部屋一緒にしたらいいんじゃないっスか?」
「アイツが嫌がるんだよ」
「あー…ったく…もう全員に知られてんだからいいのに…」
「特別扱いみたいで嫌なんだと」
「欲がねェなあー」

シャチの言う通りだ。
もう開き直ってその立場を甘んじればいいものを。まるで意地を張ってるかのように寝室は別にしたがる。
それに特別扱いするぐらいだったら甲板掃除や戦闘にも参加させようとしねェよ。あいつの特別扱いの基準は何なんだ。

「あっ!それかもしかして、キャプテンががっつき過ぎるとか?」
「…」

それは…少しあるかもしれねェが…抑制する気はサラサラない。好きな女の温もりを求めて何が悪ィ。確かに回数は多いし、頻回に求めすぎてる気もしないでもないが…
いや…本当にその理由で寝室を別にしたがるのか?

「あれ、キャプテンもしかして心当たりあるんスか」
「…ないとは言えねェな」
「ナマエ羨ましい!!おれらのキャプテンなのにー!!」

酔ってんのかコイツ。
おれの腕にまとわりつくシャチをそのままに今後の予定を考えた。

せめて武装色の覇気ぐらいは習得させたいし、できることなら見聞色もかじらせてェ。
覇気習得もそうだが、あいつとおれの能力で戦闘に使えそうな攻撃も強化させなければ。
ここのシャボンディ諸島ではたくさんの賞金首や賞金稼ぎどもがゴロゴロ転がっている。そいつら相手にアイツもおれも戦闘能力の底上げをしていくか…。

「シャチ」
「はぁーい」
「…明日にでも海軍は落ち着く。大きな戦争を控えているからな。その隙におれとナマエはしばらく船をあけるから、船を頼む。戦争が始まったら戻ってくるから連絡しろ」
「…アイアイ」

酔っぱらっていても真顔で返事をする辺り、大丈夫だろう。
あとで操舵室にいるペンギンやベポにも伝えておくか。

「キャプテンお待たせ!」
「…シャチ、運ぶの手伝え」

想定外の量だ。絶対にアイツとおれじゃ食いきれねェよ。








ベポとペンギンに伝え、料理を部屋に運ぶとナマエはシャチにお礼を言ってソファに座ったおれの隣で食事を始める。
黙々と食べている姿を眺めて、おれも料理を食べながらも口を開いた。

「ヒューマンショップで気絶したのを覚えているか」
「はい。あれってなんでですかね。あのおじいさんの姿を見てたら気が遠くなって」
「覇王色の覇気ってやつだ」
「覇気…あれが…」
「知ってるか」
「はい。父から話しは聞いてます。覇王色、武装色、見聞色の覇気があることとその特徴などは聞きました。実際に武装色と見聞色については見せてはもらいましたが…父だから出来るものかと思ってました」

そこまで聞いてんなら話しは早い。

「鍛えれば恐らくお前にも使える。ちなみに今後、お前には武装色の覇気を纏えるようになってもらいたい。欲を言えば見聞色もかじっておきてェ」
「…覇気を…?でも…私に出来ますかね…」

不安そうに俯くナマエの頭を軽く小突いた。

「出来るようにするんだよ。いいか、おれとこの先も一緒に居てェのなら守り合うことや治療し合うことも大切だが、時には攻撃も必要になる。攻撃は全ておれ任せっつーのはお前も嫌なんだろ」
「もちろんです。私も戦いたいです、守られるだけでは絶対に嫌です」
「なら、本格的に鍛えるぞ」
「アイアイ!」

元気よく挨拶したナマエは目の前の食事に集中して、意外にも大量にあった食事が消えていく。

「よく食うな…」
「これ、クジラさんとカジキさんが私のことを考えて作ってくれたんですよね」
「ああ。特別メニューらしい」
「だからです。食事はエネルギーの源ですから、しっかり食べて今後に備えないと」

もぐもぐと咀嚼していると目の前に肉を差し出された。

「キャプテンもちょっと痩せましたよね」
「…」
「あと、隈が酷くなってます。今夜はたっぷり眠りましょうね」

目の前に差し出された肉を素直に口に入れて、咀嚼すると飲み込んで、デザートのケーキを頬張っているナマエの肩を引き寄せた。

「寝んのは食後の運動をした後だな」
「そうですね。そうしましょう」
「…ずいぶんと素直だな」

おれが口角を上げて言うと、少し考えた後に頬を赤く染めながらナマエが食べる手を止めずに口を開いた。

「…あの運動も全身を駆使しますし、体力と筋力つくりには確かに最適だと思ったので。能力をつかって、私も動きます。今後に向けて準備運動といきましょう」
「…」
「私はルフィ君の船で充分すぎるほど安静にしっかりと休むことが出来ましたから、後は鍛えるのみです」

思わぬ幸運だ。先ほどのシャチの発言もあって少しは自制しようと思っていたが、必要がなくなった。
それにその運動が確かに本当にいい運動になるのは分かっている。アドレナリンが出ているから夢中で動き続けるし、全身の筋力を使うことになるし、体力の激しい行為でもある。医学的に見ても効率のいいトレーニングでもあるかもな。

「ここまで煽っといて始まったら抵抗はなしだからな」
「そんなことしません。今夜はキャプテンにもう勘弁してくれと言わせてやるぐらいの気合が入ってます」
「くくく、そりゃ楽しみだな」






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