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結局朝まで続いた航海の話しはベポとイルカの朝食の合図で幕を閉じた。
2人はマスクしながらシャチと話して、私は自室のハンモックで、キャプテンは船長室に戻って眠りについた。
お昼過ぎごろに目が覚めて医務室へ行くと、シャチはまだ眠っている。

全く…患者を寝かせないで朝まで語らせて、どうしよもない看護師と医者だな。

そんなことを思いながら苦笑し、次の島で補充するべき薬草の確認作業を始めた。
すでに今日の朝にキャプテンがベポとペンギンと話して浮上しており、甲板では仲間たちが一斉に甲板掃除に取り掛かっていた。

メモに必要な薬草をメモして、避妊薬のことを思い出した。
キャプテンが処方したと言っていたが、どのくらい調合したのだろうか。
必要があれば材料を補充したほうがいいのか。でも、それじゃあまるで期待しているかのようだ。
昨日は中途半端に火照った体はシャチと航海の話しをしている間にすっかり冷めきったが、下着が汚れていたため話しの途中で行ったトイレで交換した。

自分だって性欲もある。キャプテンと行為をしていなくてたった数日だが、あのまま流れてもいいとも思ってしまった。もちろん場所を変えてだが。
キャプテンは一人で処理したりしたんだろうか。

考えると少し火照ってきそうだ。
自分の邪念を振り切るように深く溜息をつくと、ドタドタと足音が聞こえてきて勢いよく扉が開いた。

「島が見えたよ!」
「ほんと?!」










シャチにはなるべく羽目を外さないようキャプテンから注意を受けていたが上陸の許可を得ていた。
物資の補充が済み次第、全員は自由行動とキャプテンからのお達し。治安の悪いこの街では最低でも2人以上ので行動することと、喧嘩するなら身の丈に合った喧嘩しろ、と。

私は補充する薬草のメモを握りしめて甲板に立った。久しぶりの陸だ。
みんなはすでに降りていて、私はつなぎの上にコートを着て、みんなに遅れながらも降りようと梯子に手をかけた。

「一人で行くんじゃねェよ」
「うぐ。あ、キャプテン」

後ろから首元に腕を巻かれて、引き寄せられた。
その腕をタップしながら解放してもらうと、帽子をかぶってパーカーにジーンズの軽装で鬼哭を肩にかけたキャプテンの姿を見てぶるっと体を震わせた。
他のみんなもつなぎ姿だったけど、本当にみんな寒さに強いらしい。

「お前はおれと行くぞ。目的は薬草の補充と医学書だろ?」
「はい!お願いします!」

確かに行く目的地は一緒だし、船医であるキャプテンが居たほうが医療品は揃えやすいし相談もしやすい。

私は鬼哭を持つキャプテンの隣を歩いた。私の腰には愛刀を括り付けてる。
あちらこちらで喧嘩の声が聞こえてくるし、グラスの割れる音も聞こえてくる。
港には海賊船がズラリと並んでいたし、間違いなく治安が悪い。

「おれから離れるなよ」
「はい」

こんなところに本屋があるのかも不安だが、しばらく歩くと薬屋が見えた。
だが、古びていていかにも怪しい。中では「げへへ」と笑う怪しげな男が店主だ。

「キャプテン…こんな店じゃまともな薬草は…」
「…確かにな」

店に入るまでもなく2人して顔を見合わせた。
その途端にわずかな殺気を感じ、私とキャプテンは刀に手を置いた。

「…さすがハートの船長さん。懸賞金2億の首と…懸賞金5000万の首」

路地から出てきた女性は白いスカートタイプの白衣に身を包み、私と同じ髪型をした綺麗な女性。スカート丈がすごく短い。けれど、その腰にはナイフが装着してある。

私は刀身を出すと、その女性に向けた。

「何の用…って、2億?えっ?!2億?!」
「額が上がったらしいな、お前の親父の仕業だろ」
「はあ…全く余計なことを…」

「お願いします!私をハートの海賊団に入れてください!!」

女性の高い声が響き、私は突然のその大きな声に驚いた。いや、発言にも驚いた。
私は困惑しながらキャプテンを覗くと、キャプテンは溜息と共に背中を向けた。

「断る」
「ええ?何でよキャプテン」
「うちの船にナースは二人もいらねェ。ほら、他の店行くぞ」
「あ、え?はい!待ってください!」

刀身を鞘に納めて慌ててキャプテンの後ろをついて行ったが、その私の後ろを女性がついてくる。

「私、アイリスって言うの。こんな島出身だから外科系には強いし、看護師としては使えると思うの。もちろん戦闘もできるわ」
「しつけェ女だな、バラすぞ。…てめェはいちいち気にしてんじゃねェよ」
「ぎゃっ!痛い!キャプテン痛いですよ!」

鬼哭の柄の部分で頭を殴られた。
痛い。かなり痛い。キャプテンはそれを凶器と思っていないのか。
殴られた頭頂部を摩りながらその背中を小走りで追いかけた。

後ろを振り返ると、アイリスは諦めたのか姿を消した。
結局、町の奥に少しだけまともな店を見つけ、薬草と医学書を購入するとキャプテンと荷物を置きに船に戻ることにした。
船番に人にお土産のおつまみを渡して、私はキャプテンと船の中に戻った。

「ペンギンとシャチで情報収集してるんですか」
「ああ。ここの島でコックの補充と船大工の補充を考えている」
「そうだったんですね!」

今、ハートは私を含めたら16人だ。何人来るのか楽しみだけど、そういえば先ほどの彼女はなんだったんだろう。アイリスって言ったかな。

「看護師は補充しないんですか」
「医療者はおれとお前が居りゃ十分だ」
「でも、優秀な看護師っぽかったですよ?」
「お前も優秀だろ」

口角を上げたキャプテンが立ち止まって言うと、私は抱きついた。

「キャプテン大好きです!」
「くく、能天気でお人好し過ぎるのが欠点だけどな」
「欠点じゃなくて私の利点です!」

医務室に着くと私は薬草を仕分けして、キャプテンは自室に医学書を置きに行った。
甲板に居る数名の仲間以外は全員上陸してるから、船内はもの凄く静かだ。
医学書を置いて医務室にきたキャプテンは、電伝虫でペンギンさんと情報を交換して、どうやらキャプテンと私の額が上がったのを祝いたいらしい。
ペンギンさんの声に交じってシャチの興奮した声も聞こえてきた。どうやらシャチの体は本当に全快してくれたらしい。

「夜に町の酒場で仲間と合流する」
「はい!また宴ですね!たっくさん地酒飲みたいです」
「弱いくせに」
「雰囲気だけでも味わいたいんですー」

キャプテンが電話を終えて、医務室のソファに腰掛けて言うと私は温かい飲み物をいれるためにお湯を沸かした。

「お茶にします?コーヒーにします?」
「コーヒー。砂糖入れんなよ、この間みたいに」
「それは未遂で終わったじゃないですか」
「やっぱ入れようとしてたんだな」

へへっと笑い、ちゃんと砂糖を入れずにブラックコーヒーを渡した。
私は薬屋で買ったハーブティーだ。

「キャプテン、避妊薬の薬草まで買ったんですね」
「まあ、一応」
「前の島でどのくらい調合したんですか」
「10日分」

それを聞いて、私は言葉を失った。
10日分もあるのに薬草を補充したのか。もしや、この島で毎日する気か。
キャプテンの隣に座った私は動揺を落ち着かせるためにもハーブティーを口に含んだ。
そんな私の動揺を知っているのか鼻で笑ったキャプテンが、私の肩を掴んで引き寄せた。

「とりあえず、ナマエ」
「はい?」
「夜まで時間はあるしな」
「…」
「抱かせろ」

私はストレートなキャプテンの言葉に笑って、キャプテンの指に自分の指を絡めた。

「喜んで」
「素直だな」
「この間、中途半端に煽られましたから」
「それはこっちのセリフだ」

自分からソファに座るキャプテンの膝の上に跨り、キャプテンの首に両手を巻きつけた。

「あの後、キャプテンは自分で処理したんですか」
「お前が居んのに、んな寂しいことできるかよ」

キスをされながらキャプテンの帽子を取った。
自分の頭にかぶせると、ふふっと笑った。

「今日からハートの船長は私だ」
「頼りねェキャプテンだ」
「なら、2億の首もらっちゃいますね」
「くくく、やってみろ。5000万の首」

噛みつくようなキスをされて反動で私の頭から帽子が落ちた。
自分から口を開き、キャプテンの舌を迎え入れると自分のそれと絡めた。
つなぎのジッパーが降ろされると、キャプテンが唇を離した。

「だからお前、着すぎだろ」
「寒いの苦手なもんで」
「脱げ」
「宿行かないんですか?」
「どうせ船内には誰も居ない。それに宿行く前にトラブルに巻き込まれたくねェ」

確かに先ほど本屋と薬屋行くまでに何人に喧嘩を吹っかけられたか。
帰りはキャプテンが能力を使ってさっさと帰ってきた。
船に戻ってきたときにキャプテンが、「お前が居ると能力使っても全然体力削られないな」なんて言ってくれたから嬉しくて嬉しくて。やっぱり必要とされると嬉しいし、この実を食べていて良かったと思えた。

「んなことより集中しろよ。脱げ」
「寒いし、ベッドがいいんですけど…」
「…ならおれの部屋行くか」
「そのほうがいいです。わわっ、ちょっとキャプテン!自分で歩きます!」
「うるせェ」

そのまま抱きかかえられたまま、隣にある船長室に入るとベッドに降ろされるまで私は戯れるように船長にキスをしていた。





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