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「うわあ…」
「すっごいねぇ…」

ベポと一緒に緑の蔦で覆われた遺跡にたどり着いた。
通路の両サイドは水が流れていて、その水をベポが掬って私が触れる。

「…海水だね」
「なら、ここには絶対に落ちないように気を付けないとね」

触れた先から脱力感、倦怠感が体を襲った。
能力者が海水に触れた時の症状だ。

その水を見た時に嫌な感じがすると思っていたが、やっぱり海水だったか。
ベポと一緒に先に進もうと思うが、これ以上は明かりがないと難しそうだ。

「ベポ、明かりなんも持ってないよね?」
「うん。火もないね」
「うーん…あ!私の能力をずっと発動してれば明かりになるかも」

“ケア”と呟くと手元に淡い緑の光が現れる。
そのままにすると確かに明かりにはなるみたいだ。
だけど、能力を発動させたままの状態を保つのは初めてだし、どこまで体力が持つのかも分からない。
…でも、ここまで来たら中がどうなっているのか知りたい。

「よし、進もう」
「大丈夫かな」
「やばくなったら引き返そう」

足を進めていくと少し開けたところに着いた。
そこには多くの色々な種類の薬草がみっちり咲き乱れており、思わずベポと二人で感嘆の声を漏らした。

「ちょっとベポはここで待っててね」
「うー、おれにここはキツイみたい」
「ははは、匂いすごいもんね。ちょっと離れてるか、外に出てもいいよ」

鼻を抑えながら少し離れるベポを横目に手袋をして次々と薬草を袋へ入れていく。
すごい、見たこともない薬草。
船に持ち帰ったらさっそく調べてみよう。

はぁっと一息ついて、呼吸が若干乱れてきていることに気が付いた。
やっぱり連続して能力を使い過ぎたな…。

明日は明かりを持ってまた来よう。

そう思い、ベポの元へフラフラする足取りで駆け寄った。

「はぁ、はぁ、ベポ」
「あ!ナマエ!もう無茶しすぎ!」
「ごめん…はぁ…」

ベポが私を抱きかかえてくれて、乱れた呼吸のままベポの足元を照らすように能力をそのままにする。
やばい、息が苦しいし、意識も朦朧としてきた。

「ナマエ!もう明るくなってきたからいいよ!」
「はぁ、はぁ…はぁ…」

能力を解除してぐったりと体をベポに預けて、視線だけ外へ。
だが、何だかがやがやと煩い。

「ここの薬草を全部狩ってうっぱらうぞ」
「あれ、頭!中から誰か出てきた!」
「そのつなぎにそのマーク…てめえらハートの海賊団だな!」

怠い頭を動かして目の前の男達を眺める。
ざっと15人程で、恐らく山賊か…海賊か…恰好的に賊なことは賊だ。
ああ、どうしよう。

「ベポ、私を置いて助けを呼んできて」
「そんなことできないよ!」
「でも、私よりベポのが早く走れる」

呼吸を整えて、ベポの手から降りた。
刀を抜くと目の前の賊に向けた。

「ああ?女一人で俺たちとやるつもりか?」
「楽しみましょ」

ベポの背中を押して、「行って!」と声を上げるとすぐに走り出した。
時間稼ぎをしなきゃ。時間稼ぎが目的だ。

「お頭さんはどなた?」
「ああ?俺だよ」
「山賊さん?それとも同業者の方?」
「俺がちんけな海賊なんかやるか!山賊だよ」
「頭、こいつ時間稼ぎのつもりじゃないですか。さすがにハートの海賊団が来られたら困るぜ」
「船長のトラファルガー・ローは億越えの賞金首だ。来られると厄介です」

しまった。あとはどうしようか。何かいい方法は…。
目の前の山賊下っ端の何人かがこちらにこん棒を振りかざしてきた。
もう諦めて、刀を構えて狙いを定める。

「“ドリップ”−ショット」

一人の山賊の腹部からかなりの出血が流れ出る。
その様子を見て他の山賊は私から距離を離し、頭が舌打ちをした。

「能力者だったのか」
「まあね」

やばい。足が震えてきた。
目が霞むし、手も震える。
先程の能力の浪費にプラスしてこの攻撃は結構体力が削られる。
立っているのがやっとの状態だけど、この能力が体力を消耗することを知られたくない。

「何の能力だ」
「さあ。教えると思う?」
「…さっきからずいぶんと汗かいているな。怪我でもしてるのか?」

まずい。
ああ…結構体力ついてきたと思ってたけどたった一週間じゃ変わらないか…。

「遊びは終わりにするか。近寄らずに銃で足でも撃っておれたちでまわしてからトラファルガーに返してやろう」
「悪趣味…」
「仲間が娼婦に成り下がっても果たして仲間として迎えてくれるか…見ものだな」

銃声が聞こえるのと薄い膜が私を包み込むのが同時におきた。
ドサッと地面への衝撃とともに、私が居たところには木の枝が転がっていた。

「うちのクルーに手を出すってことはそれなりに覚悟があんだろうな」
「やべぇ!トラファルガー・ローだ!逃げろ!船長自ら出てきたぞ!」
「くそ!」

駆け足で逃げていく山賊を見て、私は鼻で笑った。
その瞬間に頭に鈍い痛みが襲った。

「いだー!」
「テメェ、なに限界ギリギリまで能力使ってんだよ」
「い、いや、その」
「罰として明日は島に降りるな」
「ええ!何でですか!」
「おれを動かしたんだ。当たり前だろ」
「そんなぁ…」

歩き出したキャプテンを追いかけようと足を立てて、立ち上がろうとした。
しかし、思っていたよりも体力がないらしい。
そのまま地面に倒れ込んだ。

「…」
「…」

振り返ったキャプテンの顔が怖くてそのまま地面を見つめた。

「それで?」
「…」
「おれにどうしてほしい」

私の目の前にしゃがみ込んだキャプテン。
視界にキャプテンの靴がうつりこんだ。

「助けてください…キャプテン…」
「くくく、ほらよ」

目の前に差し出された手を掴み、引っ張り上げられると膝の裏に手を回し、持ち上げられた。
こ、これは…お姫様抱っこ…。

「掴まってねェと落ちるぞ」
「あ、はい、失礼します…」

キャプテンの首に両手を回して…私は欲が出た。
そのままぐっと腕に力を込めて、近寄って体を密着させる。
ああ…キャプテンめっちゃいい匂いがする…。

「キャプテン…ありがとうござます」
「ったく、なんでこんな能力使ったんだ」
「あの、薬草がたくさんある遺跡の中に入るためにですね…明かりが必要でしたので…」
「少しは先の事も考えながら能力を使え」
「はい…」

言い返すことも出来ない。
確かに少し過信しすぎたし、能力使い過ぎた自覚もある。

「すいません…」
「聞き飽きた」

ですよね。はい黙ります。
私を持ち上げたままキャプテンは不安定な足場でも問題なくスタスタと歩く。

「明日は…本当に島に降りれないんですか…?」
「…」
「じゃ、じゃあ、飲みに行きましょう!おごります!」
「もともとおれの金じゃねェか」

その通りです。
キャプテンにもらったおこずかい。てか、船のお金はキャプテンの金なんだから。

「まあ、飲みには行くか」
「はい!」

こうなったらキャプテンを潰す勢いで飲ませて明日はぐったりさせてやろう。
確実に私のがお酒弱いけど…てかキャプテン酔っぱらうことあるんだろうか。
昨日の夜だって…

思い出して顔を赤くする。
キスしようと…したんだよな…。
あれ?そういえば、キャプテン今夜を逃したら女性と絡む機会を逃しちゃうんじゃないか。
シャチが島に寄れば船番しているクルー以外は大抵が外に出るって言ってたし。
それってキャプテンが船番することないんだからキャプテンは毎回?

…いやいや、そうだよね。

「キャプテン、今夜って私なんかと飲んでていいんですか?」
「あ?」
「え、いや、だって…その、女の人と…」
「テメェはそればっかだな…」
「だってシャチが言ってましたし、私のせいで我慢させてちゃ申し訳ないって言うか」
「だからお前が相手すりゃいいんだろ」
「またそうやってからかうんですから!」
「くくく」

全く!もういいんだ!気にしないことにする!
正直、私もその方がいいし!







船に戻ると夜まで寝てろと言われて素直に眠った。
睡眠をしっかり取ることができた私の体は体力をある程度取り戻したようだった。

そして、今は静かな酒場に座ってキャプテンと一緒にカウンター席に並んで、お酒を飲んでいる。
この一週間で船長室にある本を一緒に読んだり、勉強したりしてたけどこういうところは初めてだから改めて緊張する。

「何で看護師なんだ」

突然の問いかけに私は目を丸くした。
他人にあまり興味なさそうと思っていたから。

そんなキャプテンの問いかけに少し考えて、お酒を一口含んで話すことにした。

「んー、内科医でも良かったんですけど…それならドラム王国に行くのが一番勉強にいいって言われたんですけど、島を出たくなかったので」
「矛盾してんじゃねェか。島出たかったんだろ」
「ドラム王国じゃなくて、世界を見たかったんです。別に勉強はどこでもできますし、むしろ色んな島を見たら色んな知識を学べるじゃないですか」

甘いカクテルをグイッと飲みながら、お代りを要求する。
こんな飲んだの初めてかもしれない。
そりゃあ、キャプテンと飲んでる緊張を紛らすためにも飲まないと。

「それに、この一週間でやっぱりこの船で自由に海を渡したいって思っちゃったので、もう私を降ろすことはできませんよ?」
「降ろすつもりはねェよ」
「この実を食べてて良かったです。この実がなかったら降ろされてましたし」
「は?別に悪魔の実を食っていようが食っていまいがお前を降ろす気はねェよ」
「…キャプテン…」

無意識に口説いてるとしたら性質が悪い。とんでもない男だ。
ドキドキ高鳴る胸をお酒で誤魔化して、キャプテンを見た。
あれ?私、結構酔ってる気がする。
ぐるぐるとする思考と、回ったお酒の所為なのか、キャプテンへの気持ちの所為なのか心臓が苦しいほど早まっている。

「…」
「…」

あれ、キャプテンが近い気がする。
フッと笑ったキャプテンの唇が私の唇に合わさって、私はすぐにキャプテンの首の後ろに腕を回した。
私の気持ちを伝わるように、キャプテンを逃がさないように腕に力を込めた。
その瞬間に深いキスに変わって、キャプテンの飲んでいたお酒がかなり強いことに気が付く。

「は…はぁ…」
「ナマエ、出るぞ」
「はい…」

ふらつく足をキャプテンが腰に手をやって支えてくれて、私がお財布を出す前にキャプテンがカウンターに札束を置いた。
私が奢らなきゃいけないのに、舌が上手く回らなくてキャプテンの服を掴んだまま。

お酒、飲み過ぎた。そう思ってももう遅かった。
でも、最早アルコールの回った私の思考はキャプテンとそんな過ちを犯しちゃってもいいんじゃないかと、欲望に素直になることにした。



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