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キャプテンがルフィ君に秘策について話している時に謎の少女が出てきたけど、いきなり飛んできた不思議な物体を見て気絶をし出した。
一体何が起きたのか分からないが、キャプテンは私とルフィ君を掴んで能力を展開させ、3人で頂上へ降り立つ。

キャプテンが私を後ろへ立たせてどっかり座っているドフラミンゴを睨みつける。

「一応…聞いておこうか…万が一ってこともある…」

ドフラミンゴが静かに語りかけるように口を開き、キャプテンとルフィ君に問いかけた。

「…三人ともここに何をしに来た?」
「お前をブッ飛ばしに来た!!」
「同じだ」
「同じです!」
「失望したよ」

私はキャプテンとルフィ君の後ろに立ちながら鍵の存在を探した。
何をしようにも私の手枷が外れなければ本当にただの足手まといだし、キャプテンの能力のサポートすらも、ルフィ君の傷の回復もできない。

ルフィ君の知り合いなのかベラミーという男についてルフィ君とドフラミンゴが話しているうちにドフラミンゴの周囲を見たりしていたが、目に見えるところに鍵はなさそうだ。
そう諦めようとしたが、後ろに立っている汚らしく鼻水を垂らしている大きなおっさんを見てハッとなった。

その鼻水男の胸元にネックレスのようにぶら下がっているのは鍵。
私の手錠の鍵なのかおしゃれのつもりでつけているのかは判断つかないが、今のところあれを手にしない限りは安心できない。

「トレーボルのところか…」

キャプテンがポツリと何かを呟いた。
もしかしたらあの鍵の存在にキャプテンが気が付いてくれたのかもしれない。
今のところ、あの鼻水男の名前なのかは分からないが。

ドフラミンゴが血だらけで涙を流しているルフィ君の知り合いの頭を掴み、持ち上げた。

「お前はどこまでいこうとチンピラなんだよ、ベラミー」
「何言ってんだ!ベラミーは変わった!!」

事情は分からないが、ドフラミンゴはとことん人を挑発するのが上手いらしい。
何の関係もない私ですらやり取りを聞いただけでハラワタが煮えくり返りそうだ。

「ベラミーを放せ!ミンゴォ!!」
「おい!麦わら屋!」

挑発に乗ってしまったルフィ君がキャプテンの制止を振り払ってドフラミンゴへ攻撃を繰り出した。
しかし、その伸びた蹴りを受けたのはベラミーという男の顔面。

「うわあああ!ごめん!ベラミー!」

両手で頭を押さえながら激しく後悔しているルフィ君にキャプテンが舌打ちをした。

「さっき約束しただろう麦わら屋!怒りや憎しみを出せば敵の思うツボだ!」

先ほどここへ上がる前にキャプテンが私とルフィ君に散々注意をしてきたのが、絶対に冷静でいること。
必ず奴は挑発をしてくるから、くれぐれもそれに乗るなと。

「冷静さを欠けば命を落とすと思え…!初戦のおれの様になるな!ドフラミンゴは非常かつ冷酷な男。いつでも一瞬の隙を狙っている!」
「フッフッフッ。初戦ではボロボロになったナマエを見て簡単に冷静を失ったからなァ…ロー」

自惚れたくはないが、やっぱりそうかと肩を落とした。
私が傷つくことでキャプテンが取り乱してしまうのではと、何となく危惧していたが、本当にその通りだったとは。

「べーへっへっへ!鼻水でたわ!ひ、瀕死のダチの顔面を…べーっへっへ!蹴ったー?んねーねー!蹴ったなぁー?間抜けめー!」
「何だとォ?!」
「耳を貸すな!」
「ルフィ君!相手にしちゃダメ!」

冷や汗が流れた。
キャプテンも結構挑発には弱いが、冷静な方だ。
けど、ルフィ君は冷静でいることが苦手なイメージだし、挑発にも乗りやすい。
よく言えば素直なのだが、悪く言えば単純だ。

「フッフッフッ。非情とは言ってくれるじゃねェか…。そうでもねェさ、おれは充分頭に来てる。お前たちのやってきたことを考えてみろ!」

声を荒げてドフラミンゴは指を折り曲げて続けた。

「パンクハザードの“SAD”破壊に始まり、ヴェルゴとモネを手にかけ…シーザーを連れ去り!このドレスローザじゃ国中のオモチャを解放した。今なお、麦わら一味はスマイルの工場を狙っている!!…もう充分だ」

鼻水おじさんとドフラミンゴはまるでこの状況がおかしいことのように笑い出した。

「怒りを通り越して笑っちまっているだけさ!終いにゃおれの首を取れる気でいる!お前らが現れてから散々だ」

ひとしきり笑ったドフラミンゴはキャプテンを見ながら、ニタリと気味の悪い笑みを浮かべる。

「まるで、13年前の絶望を再び味わっているようだ!」

キャプテンの顔に緊張が走った。
13年前…キャプテンがオペオペの実を食べ…コラさんがドフラミンゴに撃たれた…。

キャプテン同様、思わず私も顔を顰める。

「あの事件がなけりゃおれはこうしてお前の前に現れる事もなかった!」
「あの事件がなかったらお前は三代目コラソンとしてここにいたさ!」

ドフラミンゴは両手を構えると大量の糸を目の前に出し始めた。

影騎糸ブラックナイト
「また分身をっ!」

ドフラミンゴがもう一人現れて、キャプテンがすぐに鬼哭を抜刀し、鞘を放り投げる。
攻撃を受け止める鈍い金属音が鳴り響き、その後すぐにルフィ君が走り出した。

「じゃ、おれが本物の方だ!」

ゆったりと座って眺めていたドフラミンゴが口角を上げて腕を上げる。
ルフィ君がドフラミンゴの元へ攻撃を繰り出す前に、ベラミーさんが立ち上がってルフィ君へ攻撃をしてきた。

「えっ?!お友達じゃないの?!」
「おい!何すんだ!さっきのは本当に悪かっ…」
「麦わら屋!そいつは操られてる!」

キャプテンの言葉にドフラミンゴの方を向けば、指を動かしまるでベラミーさんを操り人形のように動かしているようだ。

趣味の悪い能力。
未だに自分では戦わずに分身や人を操って戦っているなんて。

「早く手錠の鍵を取り返さないと…」

この状況に気持ちが焦る。
だが、今のこの自分の状態でドフラミンゴのところへ突っ込んだところで殺されに行くようなものだというのはさすがに分かる。もどかしい。

口を出すのもためらわれて口を閉じたまま、ハラハラとキャプテンとルフィ君を交互に見る。
何度考えても海楼石によって能力すら使えない私には足手まといにしかならない。

「ナマエ、そんなところで突っ立ってないで、トレーボルのところまで来りゃ鍵を渡してやるぞ」
「てめェは絶対に動くんじゃねェぞ!!」

ドフラミンゴの言葉に反応したキャプテンが分身を相手にしながら私を一喝する。
ルフィ君もベラミーさんに足止めを食らっており、これでは全員動けない。
こっちがこんなに苦戦しているというのに、ドフラミンゴはまだ不敵な笑みを浮かべたまま椅子に座り続けている。

「麦わら屋!どういう知り合いかしらねェが、止めたかったら意識を失うまでブッ飛ばせ!」
「出来る訳ねェ!友達だ!」

ルフィ君の言葉を聞いたベラミーさんが涙を流した。
血まみれの顔なのに透明な涙ははっきりと分かって、ドフラミンゴのしている非道な所業を目の前に私は唇を噛んだ。

「もう一発であの世行きだろう…フッフッフッ、いい最後じゃねェか!昔教えたよなァ!ロー!見ろ!!“弱ェ奴は死に方も選べねェ”!」

その言葉をドフラミンゴの口から聞いた時に私の頭の中ではパンクハザードの風景が過った。
パンクハザードでキャプテンがたしぎさんに言った言葉だ。

「あの野郎!おれ達がここまで来たのにまだ自分では戦わねェのか!!」

ルフィ君はベラミーさんの攻撃を避けながらキャプテンの名前を叫んだ。

「もうブッ飛ばす!頭に来た!!」
「バカ!秘策だと言ったよな?!熱くなるなとも言ったぞ!!」

分身の攻撃を鬼哭で防ぎながらキャプテンがルフィ君を止めるために叫んだが、いい加減私も頭に来て声を荒げた。

「ルフィ君!いけー!!」
「んのバカ二人がっ!」

私の声でルフィ君が頷き、キャプテンの方に腕を伸ばしながら駆け寄っていく。
秘策のことを話している時に、キャプテンがルフィ君だけの合図では絶対に冷静になれないということで私の言葉を最終的な合図にしていたのだが。
変わらない戦況と、何よりドフラミンゴのしていることに私だって頭にきていたのだ。

「“ゴムゴムのー”!!」
「てめェら…覚えてろ!!」

キャプテンが分身を相手にしながらもルフィ君との距離を見て、能力を展開させた。
私たちの秘策がどこまでドフラミンゴに通用するかは分からないが、少なくとも少しでもダメージは負わせることができるだろう。

「“シャンブルズ”」

ドフラミンゴとキャプテンの位置が変わり、ルフィ君の炎と覇気を纏った拳がドフラミンゴの腹部にのめり込んだ。
そして、入れ替わったキャプテンがドフラミンゴの座っていた椅子に座って口角を上げた。

「“ラジオナイフ”」

能力を発動したまま繰り出したその能力、ラジオナイフは鼻水男を切り刻み、その男の首から一緒に斬られて離れた鍵をキャプテンが手にする。

「麦わら屋ァ!最悪だ、お前は!!」
「お前もその世代だ!」

二人のやり取りは私の気持ちを昂揚させた。
これで戦況が少し変えることが出来たのだから。

私の目の前にあった小石が鍵に変わり、すぐに飛びついて自分で手錠を外した。
ジャラッと重々しい音を鳴らして、私の腕から手枷が外れて一気に体が軽くなる。

やっとこれで私も戦える。






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