▼▲立場




あんな事があってもあの医者は居る。

そして、あの女ももちろん居る。

あの二人は明らかに自分達の関係を壊そうとしている。






4.立場






「とにかく、一切、医務室には近づくな」
「了解」
「あの医者とも関わるな」
「了解!!」

ナマエは元気に敬礼をして、セフィロスを見る。
セフィロスは苦笑して敬礼を仕返した。

「そんかわし、セフィロスもあの女に血を与えるの禁止」
「無理だ」
「よし!!これで完璧・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・今、なんて言いました?」
「無理だ」

ガッツポーズをしたまま固まる。
聞き返してももちろん内容が変わるわけもなく、無理と聞こえる。

「何で」
「俺がソルジャーだからだ」
「私だってソルジャーだわさ!私の血は・・・・・・」
「お前の血は駄目だって前から言っているだろう」

このままだと繰り返しというのは確実だ。
ナマエは黙ってセフィロスを見つめる。

「何だ」
「・・・・・ちょっと来て」
「どこへ」
「医務室」

セフィロスの手を掴んでさっさと歩こうとするが、セフィロスは逆にナマエを引っ張る。

「俺の話を聞いてたか?」
「医務室には近づくなでしょ?」
「・・・・・・・・ああ」
「やる事ができたから行くのよ、今は」

全く諦めることを知らないに仕方なくついていく。
医務室へ続く道の中でブツブツと何かを呟きながら急に顔を赤くして頭をかいたりしている。

「何なんだ・・・一体・・・」







「おや?英雄さんが二人も揃ってお怪我でもなさったのですか?」

相変わらずの嫌いなクスクスと笑う声で笑いながら薬棚を整理している秀麗。

「だー!なんてうざい笑い方なんだ!その笑い方をやめて!」
「貴女の声のがうざいわよ」

今度は一番嫌いな女、弦歌が奥の部屋から白衣を着てやってきた。

「セフィロスさんは血を捧げにきていただいたのかしら?」
「残念だけど、セフィロスの血はもうあげないから」
「でも、彼はソルジャーだわ。私の契約書の中身にはソルジャー全員の血を選んでもいいと書いてあったわ」

一枚の書類を出して、ナマエに渡した。

「・・・・・・」

ナマエはさっと書類に目を通して静かに目を伏せた。
クスクスという笑い声は絶え間なく聞こえてきた。

「貴女も私に血をくれるとなれば最高なんですけどね」
「俺が許さん」
「矛盾してませんか?貴方が弦歌に血を与えるのは良くてナマエさんは駄目ですか」
「その通り」

ナマエは激しく頷き、セフィロスを見た。

「矛盾してんのよ。だから、その矛盾を壊そうじゃない」
「は?」

人差し指をピンと立たせ、ゆっくりと歩き出す。
そして、セフィロスを弦歌を指差した。

「貴女達は血をあげない。そして、私もシュウレイに血をあげない」
「ふざけんじゃないわよ。それじゃあ、この契約書に反するわね」
「契約書なんかクソくらえだわ」

汚い言葉を淡々をはいて、弦歌から書類を奪い取った。

「こんな書類・・・・たかが、紙一枚じゃない」
「その、紙一枚が私達がここに居てあげる契約の証拠なのにそんなにしちゃっていいのかしら?」

すると今度はナマエが笑った。

「当たり前じゃない」

愉快そうに笑いながら細かくなった書類を上に向かって放った。
紙切れはハラハラと舞い上がり、ナマエの頭に降り注ぐ。
それを見ながらフッと笑った。

「貴女達がここに居る理由は別にあるのでしょう?」
「・・・・・・・・それはどういうことでしょうか?」

黙り込んだ弦歌の代わりに秀麗が聞いた。

「簡単よ。あんたらは神羅に尽くしに来たのではないわ」
「その根拠は何なんでしょう?」
「神羅に尽くすならもっと行動的に表すはずだもの」

足元にたまった紙切れの山を蹴り上げる。

「壊したいと思われる行動ばかり取っている貴方達に“尽くしているの?”なんて疑問はただの戯言になるわね」

壁に寄りかかっての話を大人しく聞いているセフィロス。
何を言いにここに来たのかと思えば、正体を暴きにきたのか。

医務室は静かになり、全員が口を閉じた。

「図星?」
「・・・・・貴女は本当に賢い」

秀麗はを見て、軽く目を閉じた。

「私達の狙いは貴女方、英雄の血です」
「英雄の・・・血?」
「お兄様」

弦歌は顔を顰めて秀麗を止めるように呼んだ。
しかし、秀麗は表情を崩してニッコリと笑ってを見ている。

「不思議だと思いません?自分達の血について」
「思わん。思うのはお前ら、変態だけだ」

冷たいセフィロスの一言には噴出しそうになったが堪えた。
しかし、その言葉を聞かなかったというように秀麗は続けた。

「貴女方の能力は、ずば抜けている。ナマエさんは巫女の血もあり、最高の力を持っている」
「たかが化け物の血よ」

少し睨みながら言っているのにも関わらず、秀麗は何かに取り付かれたように嬉しそうに話す。

「英雄二人の血を手にし、二人の能力を私達兄弟が持てば最高の世界を作り上げることができる」

「でも、それじゃあここ(神羅)と一緒じゃない」

ナマエの一言に秀麗は目を見開く。

「一緒・・・・だと?」

初めて敬語ではない、低い声を聞いた。
少しばかり恐ろしい本当に低い声だ。まるで人間ではないような。

「ここと一緒?私達のしようとしていることが?」
「ええ。その通りよ。だって、結局は力で支配するのでしょう?ここと一緒じゃない」

正論を述べるの言葉が癇に障ったのか、秀麗は突然かまいたちを起こした。
ナマエはとっさにバリアをしたが、頬を一筋切られたらしく血が出てくる。
セフィロスはすぐにナマエの元へ行き、前へ出る。

「何のつもりだ」

機嫌が最高に悪い声だ。
ナマエは鳥肌が立った。

「感情が力を暴走させたらしいです」

何の悪気もなさそうに答える秀麗。
今度は弦歌が近づいてきた。

「私はお兄様とは違う考えよ」

歩いて近づいてくる女にナマエは顔を顰めた。

「無理して笑っている貴女が最高に腹立つ」

スラリと伸びた綺麗な指でを指差しながら言った。

「私が無理してるって・・・?」
「壊したい。貴女の全てを・・・・・・・・壊したい」

ナマエは弦歌の瞳を見た途端に反らせなくなった。
力強い視線の中で頭の中に何かが入ってくるような激痛に襲われた。

「ッ!!」
「!何をした?!」

突然頭を抱えて座り込んだナマエを抱き寄せる。
セフィロスは弦歌を睨みつけながらを立たせる。

「少しばかり感情に入っただけよ」
「感情に・・・・?」
「能力を教えてあげる。お兄様は風の能力。私は念力や他人の感情を勝手に動かせる能力」
「感情だと?」

「あああああ!痛い痛い痛いッ!!!」

頭を抑えていたと思ったら今度は心臓を掴むように手を握り締めている。

「!!!」
「セフィロス!痛いよ!痛い!」

涙を目尻にためて、歯を食いしばっている。

「何をする気なのよ!!」
「言ったじゃない」




『何もかも壊す』って。


何かがナマエの中から消え失せた。




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