あなたからキスして(ロー)



柔らかい感触を自分のそれと合わせる事で愉しみ、舌を侵入させれば互いの唾液が混ざり合って、それを健気にこくっと飲み込む様子が堪らない。
ナマエとのキスはまるで麻薬なんじゃねェかと思うくらい、夢中になって、いつでもどこでも求めてしまう。

「んっ」

この鼻にかかった声も、おれに応えようと絡めてくる舌も、倒れないようおれに縋り付くように掴んでくる両手も、そのすべてが愛おしい気持ちにさせる。

と、毎回馬鹿みたいにそう思うのだが。
シャチにこの間の宴の時に、「アイツって結構恥ずかしがり屋じゃないですか、アイツからキスされたことあるんすか」という質問をされて改めて思い返してみたが。
そういや、数えるほどにしかされたことがない。

行為の時にはお互いにどちらからともなくキスをすることが多いし、たまーに甘えたように触れ合う様なキスはされることはある。ごく偶に。
だが、考えてみればアイツからおれを激しく求めるようなキスをされたことはない。

それで考えた末、思いついたのは押してダメなら引いてみろ、だ。

なかなか耐えるのがキツかったが、三日目にしてじわじわとおれを見てくる視線を感じるようになった。
そして、その視線を感じるたびにおれのことで頭いっぱいになっていることを嬉しくも思い、だんだんと愉しくなり、いつの間にか耐えることに余裕が出てきた。





「キャプテン」
「ん?」
「顔、ニヤついてますよ」

ペンギンにそう指摘されて思わず口元を片手で覆い隠した。
今、甲板でペンギンと次の島のことを話していたのだが、少し離れたところにシャチとナマエが来たらしい。

じっとおれの背中を見つめるナマエの視線に、愛おしさが込み上げてきて口元が緩んでしまっていたらしい。

「…ナマエですか」
「くく…アイツ可愛いな」
「珍しく惚気ますね」

呆れたように溜息をつくペンギンに、肯定するように一笑する。
昨夜も大人しく部屋に帰らせて、しかも別れ際に寂しそうな顔を見せてきた。

帰りたくない、と言わせたかったが素直に帰りやがって。

だが、そのおかげで昨日は悶々としながら過ごしたのだろう。
おれだけのことを考えて。

そう思うだけで本当にいじらしく、可愛らしく、愛おしい。

「ほどほどにしてやってくださいよ」
「分かってる。おれもそろそろ限界だしな」
「?よく分かりませんけど、喧嘩しないでくださいよ」
「しねェよ」

視線が感じなくなり、ふと振り返ってみればシャチの奴がナマエの肩を抱き寄せて何かひそひそと話している。
あの二人は友人として仲がいいのは分かっているし、シャチに下心が…今はないのは分かっている。だが、自分の女の肩を抱かれるのはあまり気分のいいものではない。

「そうと決まればいざ、キャプテンのとこに!」
「いけいけー」

「おれが何だって」

声をかければ瞬時にシャチがナマエから距離を取った。
ナマエの顔を見ればうっすらと隈が出来ていて、笑いそうになる。
一晩中、おれのことを考えていたらしい。

話がしたいと訴えてきたナマエに心が躍ってしまう。
やっとおれを求める決心をしてくれたらしい。

船長室へ向かう前にシャチに近寄り、ナマエに聞こえないよう耳打ちをする。

「しばらくおれの部屋に来るなよ。何かあれば電伝虫で言え」
「…アイアイ」

今日こそは部屋に帰す気などないし、ベッドから出られなくなるだろう。
もう充分、満足感の得られたおれは彼女が激しく求めてくることを想像しながら、彼女に顔を見られないよう前を歩いて期待を胸に自室へと戻っていった。



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