KID side
「お願い、二人とも。ホワイトデーは2人で買ってきたものにして欲しいの」
昨日の夕食の時にそう言われて、おれもトラファルガーも思わず顔を顰めた。
何でコイツと二人きりで買い物なんて行かなきゃいけねェんだよ。
いつも別々にプレゼントしてんだろうよ。
「毎年、喧嘩してるの覚えてる?」
「…」
そりゃ覚えてる。
おれもトラファルガーもアクセサリーを渡すんだが、トラファルガーのものを着けているのが多い気がすると。
そんでもってトラファルガーも反対のことを言ってきて2人で喧嘩になる。
けど、トラファルガーの言い方も悪いだろ。
おれの選ぶものの趣味が悪ィとか、名前に似合わねェだとか。いちいちそう言われるんじゃ、おれだってキレたくもなる。
「だから!2人で1つ、買ってきて!」
「…分かった」
こうして、おれら2人で買い物に行くことになった。
ショッピングモールのフードコートで作戦会議のために立ち寄り、いつもだとこの場に名前が居るのに、今日はトラファルガーと2人きり。
コイツと二人で出掛けるのは小学生以来だな。
お互いに名前への恋心を自覚したからか…でも、まあ、普通の男友達よりも気が楽なのは確かだ。
何しろ生まれた時から一緒に過ごさせられてきたからな。
「んで、何にするか」
「ネックレス」
「…何でだよ」
「何となく」
出たよ。トラファルガーお得意の「なんとなく」
だが、長年の付き合いでコイツの何となくは良いことに転がることが多い。
それか、確信があっての「なんとなく」か。
「なら、アクセサリーショップだな」
「お前、いくら出せる」
「…トラファルガーはいくら出せるんだよ」
「おれは5000円出せる」
「ま、マジか…お前本当に中学生かよ…」
「お前みたいに無駄使いしないだけだ」
おれは買い食いすることが多く、こいつはあまりしない。チリも積もればってやつだな…
「…おれは2000円…」
「…ありえねぇ…だからてめェと共同で買いたくねェんだよ…」
「悪ィな」
「名前のお願いだから我慢するけどな、お前も5000円あれば1万のいいやつが買えたのに」
「トラファルガー…お前意外と貢ぐタイプだな」
「殺されてェのか」
おお、スゲェ睨んできた。
いや、だってそうだろ。愛は金額じゃねぇんだぞ。
そういうのは大人になってからだろ。
「背伸びしたい年頃か」
「頭のチューリップ引っこ抜くぞ」
本当に手を伸ばしてきたトラファルガーに、おれは慌てて髪を押さえながら離れた。
いや、コイツの顔は本気だ。
危うくスキンヘッドにされるとこだった。
LAW side
店員のにこやかな掛け声と共に、リーズナブルなアクセサリーショップへ入った。
ユースタス屋の無駄使いは今に始まったことじゃないし、おれが多く支払うのも今に始まったことじゃない。
なんとなく分かってはいたが…毎度毎度腹の立つ奴だ。
目の前でじっくりとネックレスを見つめる赤髪のケツを蹴り飛ばして、ショーウィンドウを覗き込んだ。
合わせて7000円で買えるネックレス。
「いらっしゃいませー。あら?プレゼント?」
「…」「…」
思わずユースタス屋と顔を見合わせた。
男2人でアクセサリーショップは少し恥ずかしいものがある。
「ネックレスあげるの?ふふふ、かわいー。お互いの彼女に?」
「いや…幼馴染。だから女一人」
「あらー!楽しそう!!可愛い坊やたちにいいこと教えてあげる。こういうアクセサリーは実は拘束アイテムとも言われるのよ」
「拘束?」
「アイテム?」
ケバい女がネックレス、ブレスレット、指輪を目の前に並べた。
「ブレスレットは手錠、ネックレスは首輪、指輪はもう永遠の愛でしょ?」
「「…」」
おれたちが選ぼうとしていたのはネックレス…首輪か。
いいじゃねェか。
思わず口角が上がるとユースタス屋がおれのことを引いた目で見てきた。
「…何だよ」
「お前…めちゃくちゃ好きそうだな…」
「まあ、お前が居なきゃな」
「あらあら。仲良し3人組なのね。高校生かな?」
「中学」
「可愛い。じゃあ、これなんてどう?シンプルかつ、値段も2000円」
安すぎだろ。
ユースタス屋は目を輝かせているが、おれは隣の4000円の方が気になる。
「トラファルガー!これにしようぜ!」
「安すぎだろ」
「中学生はこれで十分よ。残りのお金はその子を色んなところに連れてってあげなさい。中学生はまだ着飾る年齢じゃないんだから。何もつけてなくても、2人はその子のこと可愛いと思えるんでしょ?」
「そりゃ…」
「アイツは何つけても可愛いしな!」
そう言われればそうなのかもしれない。
仕方なく、二人して1000円ずつ出してラッピングしてもらうと家に向かった。
「わあ!キッド、ロー、ありがとう!!」
嬉しそうな名前の可愛い顔を見たら、確かにあの店員の言う通り、何をつけても可愛いと思った。
大人になったら個人的に高価なブレスレットやネックレスや指輪をプレゼントすればいい。
おれたちの買ったネックレスを見せながら、幸せそうに笑う名前を見て、おれもユースタス屋も自然と笑みが溢れた。
Happy White Day to someone special!
(素敵なホワイトデーを特別な人へ!)
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