バレンタイン
今年もやってきたバレンタインデー。
ソワソワする男子、ドキドキする女子。
この私はソワソワもドキドキもしないけど、毎年準備しているので今年もキッチンに立って作業をしている。

渡す相手達は内緒にしておきたいというのに、うちの合鍵を使って普通に侵入してきてリビングで寛いでいる。

「お、いい匂いしてきたな」
「フォンダンショコラに挑戦」
「ヘェ。味見は?」
「ローは甘いの嫌いでしょ。あ、ちなみに今年は2人ともどのくらいチョコもらったの??」

私の問いかけに2人して顔を見合わせて、鞄を漁り出した。
次から次へとチョコの入った箱が出てから出てくる。

「どーせてめェは選んだんだろ」
「手作りは全部断った」
「かー、嫌味なやつ」

ということは今年もローが貰った数が多かったのか。
まあ、そうだろうなあ。
顔も頭も運動神経もいい、性格はキッドのがいいと思うのになあ。キッド損してるよ。いや、キッドも充分カッコいいんだけど…まあ、ローと居るとねぇ…

「な、なんだよ名前!そのおれを哀れむ目は!」
「キッド、人は顔ではないよ。私はキッドが好きだよ」
「ちょっと待て。ユースタス屋の顔面に哀れんだのは分かったが、なんでそれで好きになるんだよ」

どうやらローは気に食わないらしい。
知ったこっちゃない。
私はキッドを応援するぞ。
たまにはローも女の子関係で苦労すればいい。

「イケメンがいい思いばかりするのはね」
「何だかさっきからおれは馬鹿にされてんのか…」
「あいつこそ無自覚に性格悪いと思わねェか、ユースタス屋」
「確かに」

聞こえてるぞ、そこの男子二名。
もう黙ってチョコ作りに集中することにしたが、図体も態度もデカい2人の幼馴染は我が物顔で我が家のソファに寛ぎながら、私の日々の文句を言いだした。

「自覚あるおれのがまだマシだろ」
「確かに、性格悪いと自覚してるトラファルガーのがまだマシだな」
「……。顔面がおれに負けてる自覚をしてるユースタス屋のがマシだな」
「……」
「……」

喧嘩になるんだからお互いのフォローし合わなきゃいいのに。
静かになったリビングに私のチョコレートを溶かすカチャカチャという音だけが響き渡って、甘い匂いが部屋を支配している。
この甘い匂いで二人の雰囲気も甘くなればいいのに…いや、ちょっと気持ち悪かったな。
でも、そういう世界だってあるんだし…よく見ればこの2人にもそういうのがあってもおかしくはないのかもしれない。

はっ!私が鈍感で気が付かなかっただけですでに2人はそういう関係なのかもしれない。
カモフラージュするためにいつも喧嘩をしているフリをしているだけなのかもしれない。
ありえる!ローならそうやって隠しそうだし、隠すのも、キッドを操るのも…

「2人ともごめんね…。私鈍感だったけど…気が付いたよ」
「?」
「何が」

キッドがこっちを見て首を傾げ、ローもこっちを見て問いかけてきた。

「2人がそういう関係なのもありだと思うし、世間がどう言おうと私は2人の味方だから」
「待て待て待て待て。どこをどうしたら行き成りそんな結論に至った」
「そういう関係?」
「ユースタス屋。アイツはおれ達が付き合ってると思ってやがる」
「はああああ?!どこをどうしたらそんなぶっ飛んだ結論に行きつくんだよ?!お前、黙ってチョコ作ってただけだろ?!何考えながら作ってんだよ!」

キッドが必死に否定すればするほど怪しく思えてきたな。
私の怪しんでいる表情を眺めていたローが私を睨んできた。

「おれにそんな趣味はねェ」
「おれだってねェよ!!」
「学校でクラスの子も言ってたし。幼馴染ってだけでも燃え上がるとか」
「クソ…女子中の悪影響を受けやがって…」

盛大に舌打ちをするローの相手はとりあえず置いといて。
チョコが完成すると、お皿に盛り付けて2人の目の前のテーブルに置いた。
目の前で粉砂糖を最後に振って、ミントを沿えれば…見栄えも完璧だ。

「どうぞ!」
「待て。食べさせろ」
「いいなそれ!おれも!」
「ええ!何でよ!二人でやり合えばいいじゃん!」
「不愉快にさせた罰だ」

腕を引かれてキッドとローの間に座らされると、2人にフォークを差し出された。
仕方ない。一年に一度のバレンタインデー。
甘い日なのだから、甘やかしてあげよう。

「じゃあ、先にキッド。はいあーん」
「あ」

大きな口をあけて待つキッドは中々見れたもんじゃない。
恐い顔してるけど甘いものが好きできっとこのチョコもいい反応をしてくれるに違いない。
私は期待を込めてフォークに刺した一かけらのフォンダンショコラを、キッドの口の中に放り込んだ。

「んー、おお!美味い!中のチョコもトロトロだな!」
「でしょ!キッドなら気に入ってくれると思ったんだ!はい、続きは自分でね」
「おう」
「じゃあ、次はローね」

くるっと体を反転させて今度はローに向き合った。
フォークに突き刺して、中の蕩けるチョコを掬い取りながらキッドより小さい口に放り込んだ。
それにしてもローは顔が小さいから口も小さい。
もぐもぐとしている姿は意外にも可愛い。

「甘ェ」
「…まあ、ローはそういうと思ってた。キッドに残りあげる?」
「いや、残りも食うから全部お前が食べさせろ」
「あ!ずりぃぞ!トラファルガー!」

悔しそうに言うキッドはすでに全部食べ終わってしまっている。
私は仕方なく、残りのチョコもローの口に放り込んでいく。
唇についたチョコを舐めるローは…なんというか…やはり色男だ。

「美味かった。名前」
「ほんと美味かった!!ありがとな!」
「えへへ。ローもキッドもお返し期待してるね!」

私の言葉にローとキッドが顔を見合わせて笑った。









Happy Valentine’s Day!



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