ロー誕生日(2019)


私はおこずかいを貯めていたブタの貯金箱のお腹にある蓋を外して、ジャラジャラと振り落した。
そのお金をお財布に入れて、ランドセルを下ろすとすぐに部屋を駈け出した。
目指したのは隣りにあるキッドのお家だ。

インターホンを押してキッドが出てくるとニッコリと笑った。

「お財布持った?」
「持った!行くぞ!」
「うん!」

手をつないでキッドママに行先を告げると、二人でショッピングモールへ向かった。





おもちゃ屋さん、本屋さん、小物屋さん、服屋さん。
たくさん店舗を回って疲れた私たちは休憩のためにフードコートで無料の水を飲みながら一息ついた。

「ローの欲しいものってなんだろう」
「あいつ物欲ねぇからめんどくせーな」
「キッドは男同士なんだから分からないの?」

んー…と唸りながら悩んでいる赤毛の幼馴染を少し呆れながら見て、私も考えた。
こういうことを考えるのはいつもローの役だから、頭の足りない私たちには難しい。難題ってやつだ。
「そういえば…」と呟くキッドに私は期待に満ちた顔で見た。

「いがくしょが欲しいっつってた気がする」
「いがくしょ…」
「…いがくしょコーナー行けば分かるんじゃね?」
「私たちにわかるかな」
「わかるだろ」

私よりいつもテストの点数が低いキッドに言われても、とちょっと馬鹿にする。
でも、とりあえず見てみないと分からないのでその案に乗ってみることにしよう。
先程もサラッと覗いた本屋さんに入って、医学書コーナーを見上げた。
ずらっと並んだ難しい漢字は全く読めない。
そもそも種類がありすぎてどれがいいのかも、どれをローが求めているのかも分からない。

「…」
「…」

茫然と立ち尽くしていると、近寄ってきた店員のおばちゃんに声掛けられた。
仕方なくおばちゃんに友達の誕生日プレゼントですと説明すると、なぜか歳を聞かれた。

「10歳です」
「ええ?!10歳で医学書を読むの?」
「そうみたいなんです」
「うーん…10歳で医学書…うーん…」

大人でも難しいらしい。
キッドは頭をボリボリ掻くと目の前の一冊を手に取り始めた。

「これでいいんじゃね?」
「もー!キッド適当過ぎ!」
「でもあいつの欲しいもんなんて全くわかんねーし」
「だいたいそれいくらなのかも…」
「ん?それは3500円だね」
「…」
「…」

おばちゃんの言った金額に思わず黙り込んでしまった。
そんな私たちの様子に気が付いたのか、おばちゃんはふふふと笑った。

「医学書はほとんどがそのくらいするのよ」
「…ありがとうございました」

キッドの手から医学書を戻してお礼を言うと、私はキッドの手を引いて本屋を出て行った。

「キッドにいがくしょが欲しいって言ったのは嫌がらせのつもりかもしれない」
「おれもそう思った」
「…いくらローが勉強好きって言っても…ああ!!そうだ!」
「なんだよ。いきなりでけえ声出すなよ」

ビクッと体を揺らしながら私を見てきたキッドをにんまりと笑う。

「勉強道具を買ってあげよう!シャーペンとかボールペンとか!」
「おお!それいーな!」
「ローは白熊アニメのベポを気に入ってたからベポのボールペンとか!」
「ほんと顔に似合わず可愛いもの好きだなアイツ」
「確かに」

二人してケラケラと笑い、本日三度目の本屋さんへ入った。
ベポのボールペンとシャーペンと消しゴム、あとメモ帳を買ってレジに差し出すと先ほどのおばちゃんが笑って受け取った。

「プレゼント用に包むわね」
「お願いします」
「お前あといくら残ってる?」
「200円くらいしかないよ?」
「おれと一緒!帰りにジュース買って帰ろうぜ」
「そうしよー!」

プレゼントの袋を持って、渡すときのローの反応を予想して盛り上がった。

「嬉しくて泣いたりしてな!」
「そんなのローじゃないよ。きっとねぇ…お前達で選んだのか…ありがとう…とかちょっと照れながら言うんだよ」
「目に浮かぶなー」





ローママに呼ばれてお誕生日会が始まると私もキッドもそわそわした。
早くプレゼントを渡したくて、ローの反応が見たくて。

ろうそくの日をローが吹き消すと拍手して私とキッドでプレゼントを出した。

「え?」
「私とキッドで買いに行ったんだよ!」
「めっちゃ悩んだんだからな」
「………お前達で?」
「そうだよ」
「ふーん…ありがとう」

やっぱりそうだ。
ちょっと照れたように顔を赤くしたローが私とキッドの手からプレゼントを受け取ると、すぐに包装紙を開けた。
その姿にローママとローパパが「ローがすごく喜んでるな!」「やだ、ちょっと、何このやり取り!可愛すぎる!」とか興奮してた。

「ベポの文房具…」
「へへへ、このメモ帳も可愛いでしょ?」
「可愛い…」
「おばさんからあげ食っていい?」
「もうじゃんじゃん食べなさい!キッド君!本当にありがとうね、キッド君も名前ちゃんも」

ローママの手料理をお腹いっぱいに食べて、ゆっくりした後に三人でローの家にお泊りすることにした。
いつものようにベッドにローと私で寝て、下に布団を敷いてキッドが眠ると布団に入りながらしばらくお喋りしてた。
キッドの返事がなくなって、私とローでクスクスと笑った。

「ほんとにありがとな、名前」
「うん!喜んでくれて良かった」
「あとさ…プレゼントもう一個欲しい」
「なあに?」
「…名前からのチューがほしい」
「へへへ、いいよ。去年もその前もずっとしてたもんね」

幼稚園の誕生日の時から、私からのプレゼントで毎年やってきた。
ローの柔らかいほっぺにちゅっと唇を当てた。

「お誕生日おめでと、ロー」
「ありがとう、名前」


_5/54
戻る


この話しの感想あれば



- ナノ -