大好きな私の彼氏

この日のためにラミと一緒に買い物に行って買った服。
ショートパンツに肩を出す服装は初めて着る。
本当はラミにミニスカートを進められたけど、試着してみて…

「これはお兄ちゃんが怒るやつかも」

とか言われて、よく分からないけど却下された。
ロー先輩はああ見えて嫉妬深いからって。嫉妬されたことなんてあったかな。
私には分からないけど、兄妹であるラミにはロー先輩の表情の変化が分かるらしい。

買った服を着て、お兄ちゃんとそっくりの赤い髪をヘアーアイロンをつかって毛先を少し巻いてみる。
ロー先輩は大人っぽいから隣に歩く私も少し大人っぽく見えるように。

昨日、ラミから教わった化粧もして部屋を出ると同時に隣のドアも開いた。
私の同じ真っ赤な髪の毛をガシガシと掻きながらお兄ちゃんが大きな欠伸をしながらこちらへやってきた。

「ん?ナマエどっか出かけんのか」
「おはようお兄ちゃん」
「はよ………ってお前その恰好は何だ!」

目を見開いたお兄ちゃんが私の肩と足を指差してきた。

「足も肩も出し過ぎだろ!」
「お兄ちゃんの元カノさんもこんな恰好の人居たよ?」
「お前にはまだ早いんだよ!」
「元カノさんなんて中学生でもこんな恰好だったよ?」

私の言葉に少し言葉を詰まらせた後、今度はお兄ちゃんの顔がはっとした顔になる。

「ま、まさか…お前トラファルガーと出かけるってんじゃないよな?」
「そうだよ」
「い、妹のほうだよな?」
「違うよ。ロー先輩とだよ」
「なにーーー?!」

耳がキーンとなった。
頭を抱えだしてぶつぶつと「だから昨日…あいつは…あんな気持ち悪ィぐらい…機嫌よかったのか…?」とか呟いている。
ロー先輩も楽しみにしてくれているのだろうか。
嬉しくて携帯を握りしめて鞄に入れると、お兄ちゃんに背中を向けて玄関へ向かう。

「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」
「なあに、お兄ちゃん」
「おれも行く!」
「ええ?!嫌だよ!ロー先輩と二人っきりがいいの!お兄ちゃん邪魔しにきたら嫌いになっちゃうから!!」

玄関を勢いよく閉めて、私は走り出した。
デートに兄が同行するなんて恥ずかしいこと、絶対にされたくない。


待ち合わせの駅に着いたのは約束の20分も早く。
ショーウインドウにうつる自分の髪の毛を少し整えて、携帯を取り出す。
連絡してしまうと急かしてしまっているみたいだし、5分前くらいになったら連絡すればいい。

「あれあれー?待ち合わせ?」
「?」

二人組の男の人が私の方へ向かってきて、私の目の前に並んだ。
人違いでもしているのだろうか。

「あの、私」
「すごい可愛いね。誰かと待ち合わせ?」
「おれらと暇潰さない?」

どうしよう。そんなに私、暇そうに見えちゃったのかな。ここの待ち合わせ場所から離れたら困るし、というよりこの人たちと何して暇をつぶすというのだろう。

「暇をつぶすというのは何をするのですか?」
「天然系だー、可愛いねー」
「…天然じゃないです」
「怒っちゃったよ可愛い」

私の両サイドに立つお兄さん達。
どうしたらいいのだろうか。




LAW side


『だからおれは聞いてねェ!』
「デートにいちいち兄貴の許可が必要かよ。前から言ってるけどな、過保護すぎると嫌われるぞ」
『うっせえ!』
「どっちがうるせェんだ」

強制的に電話を終了させて駅のホームから改札の方へ向かう。
まだ約束の時間より早い時間だが、ユースタス屋から電話があったということはすでに到着している可能性が高い。
早歩きで改札を抜ければ目当ての女は居た。
だが、その女を囲むようにして男が2人立っている。

おれはイラッとしたままその場へ駆け出して声をかけた。

「待たせたな」
「あ、ロー先輩」
「コイツに何か用か?」

睨みながら声を低くし、でもナマエにはおれの顔を見られない様に胸元に抱き寄せた。
ビクッと肩を震わせて逃げ去っていく男2人に溜息をついて、改めてナマエを見れば…声をかけられるのも納得いく。
スラリと伸びた白く細い足に、真っ赤な髪は少し巻いてあって、思わず引き寄せたくなるむき出しになった肩。
暑くなってきたこの季節には涼しくいいだろうが、こんな露出する服を着るのは珍しい。

「可愛いな」
「あ、服ですか?ラミが買い物一緒に行ってくれて」
「ああ…アイツの差し金か」

じゃなきゃこんな服自分から買うタイプではないだろう。

「本当はスカートタイプに私はしようかと思ってたけど、ラミがお兄ちゃんは怒るかもって」
「…くくく、よく分かってる」
「え?」
「おれ以外に見せたくない。本当はこの足もここも」

そう言いながら出ている肩に触れて引き寄せれば髪色と同じ様に赤く染まる頬。
ああ…クソ、可愛いな。

「今日はどこ行くんですか?」
「ルルポート」
「わあ、嬉しいです!」

手を叩いて喜ぶとニコニコしながらおれの隣を歩くナマエ。
本当にあの凶悪で図体のデカい男と兄妹なのかと疑いたくもなるが、この真っ赤な髪の毛はどう見てもあの男を思い出す。

ルルポートについてまず向かったのは映画館だ。
以前、ナマエが恋愛小説が実写化されたのを見たがっていた。

「ロー先輩、この映画…」
「見たかったんだろ?」
「ふふふ、ありがとうございます」

嬉しそうに笑うナマエの頭を撫でてチケットを買いに並ぶ。

「あ、私の分」
「いらねェよ」
「ダメですよ!」
「…黙って奢られねェんなら口塞いでやろうか?ここで」

顎を掴んで親指で唇を摩ると口を閉じてまた顔を赤くする。
ポンポンと頭を撫でて、歩き始めるとおれの手を握り、おれは口角を上げて指を絡めて握り返す。

「上映は昼過ぎだし、先に飯行くか」
「はい!」





昼飯を食べ終わってデザートを頬張るナマエに癒されている時に気が付いた、敵意の籠った視線。
どう見てもおれに向けられていて、そんな視線を寄越す男に思い当たるのはコイツの兄貴。
溜息をついて周囲を観察してみれば、帽子で隠しきれていない赤い髪にガタイのいい男がサングラスをしてこちらをじっと見ているのに気が付いた。

「ロー先輩、疲れちゃいました?」
「ん?いや、悪ィな。別にお前に溜息をついたんじゃねェ」
「何かありました?」
「いや。何も問題はねェ。それより…」

ナマエの後頭部を引き寄せて、鼻先についた生クリーム舐め取るとついでに唇の生クリームも舐め取る。

「甘ェな」
「ろ、ロー先輩…」
「んな顔すんな。もっと喰い付きたくなんだろ」

頬を撫でてゆっくり離れるとサングラスの男は頭を抱えてプルプルと腕を振るわせているのが見えて吹き出しそうになる。
まあ、後で撒けばいいし、それまではからかってやるかと、おれは内心笑いながらナマエが食べ終わるのを待った。

昼も食べ終え、少し雑貨屋を歩いた後に映画館へ向かう。
雑貨屋ではサングラスの男は相変わらずじっとおれらを見ていたし、ついてきていたがさすがに映画館までは来れないだろう。

ナマエが一番後ろの席がいいと言っていたので一番後ろの真ん中の席。
上映開始してから結構たっていた映画なので人も少なく、おれらの列は誰もいなかった。

予告が始まっておれの隣にやってきた奴をちらりと見て、再び噴出しそうになる。
運がいいのか悪いのか、まさか買ったチケットがおれらの隣だとはあちらも思わなかっただろう。

映画が始まり、暗くなるとナマエはおれの方に体を寄せて手を握ってきた。
おれも握り返し、肩を引き寄せると反対側から咳払いが聞こえてくる。

「あ、き、気が付きませんでした…ロー先輩…離れましょう」
「あ?離れる必要ねェだろ」

小声でおれの耳元で話すナマエに同じ様に小声で返す。
ついでにその可愛らしい耳にキスをすれば「ひゃうっ」と可愛らしい反応が返ってきた。
静かに笑い、ナマエを引き寄せて頭を撫でたまま映画の画面に視線を戻す。
正直、恋愛映画は面白くも見たくもなかったが映画館デートといえばこういう暗闇の中でのこうしたイチャつきができる。
そういう下心を持って誘ったのだ。

さすがにつまらない映画だったのかいつの間にか腕の中の彼女は小さく寝息を立てて眠っていた。

「…バレたら嫌われんぞ、おにーさん」
「誰がおにーさんっっっ……てめェ気づいてたのかよ…」
「あれだけ睨まれてりゃ気づくだろ」

おれの声に反応した反対の席に座っているユースタス屋に溜息をついた。

「…嫌われ…。確かに一緒について来たら嫌いになるとか言われた…」
「へェ。起こすか」
「待て待て待て!寝かせてやってくれ!昨日は夜中遅くまでなんか服出しまくったり、化粧の練習してたりしてたんだからよ」

それは…結構嬉しい。
それだけおれとのデートを楽しみにしてくれていたのか。
気まぐれに誘った休日デートだったが、そんな喜んでくれているとは…。

可愛い彼女の横顔を見れば、ドキリと胸を揺れ動かされる。
充分そのままでも可愛いというのに、自分のためにもっと可愛くなりたいと一生懸命になられるのはそれだけ想ってくれているのだと、自惚れてしまう。

「何もしなくても可愛いのにな」
「そーなんだよ。はー、んとに可愛いよな…寝てる時なんて天使のようなんだよ。たまにソファでうたたねしてる時なんか」
「人の女の寝顔見てんじゃねェよ」
「ああ?!てめェこそおれの可愛い妹にちゅっちゅと」
「ん……?」

おれの胸倉を掴もうとしたユースタス屋は瞬時に自分の席に座って反対側を向く。
腕の中にいるナマエが瞬きを繰り返して、体を起こした。

「あ、ごめんなさい。私寝ちゃいましたね…」
「いや。可愛い寝顔が見れたから良かった」
「ロー先輩…」

映画も終わり、出ていくときの人ごみの流れの中でナマエの手を握った。

「?ロー先輩?」
「走れるか?」
「はい!」

人をかき分けてナマエの歩調に合わせて小走りで出ていき、ルルポートを出ると鬱陶しい視線は消えて、上手く撒けた。
呼吸を乱しながら笑うナマエにおれも笑うと、ナマエが抱きついてくる。

「なんか追いかけっこみたいで楽しかったです」
「くくく、気づいてたか」
「あれだけ大きな声で騒がれたら起きますよ」
「どのあたりから起きてた?」
「お兄ちゃんがああ?!って声を荒げたところで起きました。すいません…お兄ちゃんが」
「お前が申し訳なさそうにすんな。別にあいつが居ようが居まいがおれのとる行動は何も変わらねェし」

抱き寄せて腕の中に閉じ込めると額に唇を寄せる。

「さて、そろそろ帰るか」
「はい!先輩ありがとうございました!」






家まで送り、また明日学校でな、とナマエを撫でて唇にキスをする。
艶々な唇がうまく感じて、その唇を食べるように、啄ばむようにキスをしていると玄関のドアが勢いよく開かれた。

「クソファルガー!!そこまでだ!!」
「………キスしかしてねェんだが」
「ったりめぇだろ!キスですら穢れる!ま、まさかテメェ舌いれてねェだろうな…」
「お兄ちゃん!!」

ナマエが怒ってユースタス屋の体を押して玄関の扉を強引に閉めると、おれに抱きついてきた。

「先輩、本当にありがとうございました」
「ああ。また行こうな、ナマエ」


》》》お兄ちゃんはストーカー


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