酒の肴に恋バナ

「「かんぱーい!」」

敵船から奪ったお酒をクルーで分けて、船の上で宴を開始したハートの海賊団。
イッカクと樽ジョッキをぶつけて乾杯するとぐいっと2人で口付ける。

「キャプテンってば過保護だなー!アタシに“くれぐれもそいつに飲ませ過ぎるな”とか言っちゃってな」
「まあ…あはは」

それはついこの間、飲み過ぎてキャプテンを煽るだけ煽って爆睡してしまったことがあり、それを根に持っているのかもしれない。
だが、そのことをイッカクに話すことも出来ず、私は笑ってごまかした。

「なあなあ。キャプテンってどうなんだよ?」
「んー?」
「2人っきりの時ってやっぱり甘えてくるもんなの?」
「んー…」

キャプテンがあまり甘えてくるという印象はない。
どちらかというといつも私が甘えるぐらいで…あ、でもたまーに本を読んでいる私の膝を枕にして眠る時もあるから、あれは甘えているというやつかもしれない。

「…あまりないかなあ」
「ふーん」

キャプテンのそんなところ、あまり漏らしたくはない。
やはりこの船の船長だし、威厳が…いや、でもあのキャプテンが威厳を崩すことなどないかも。
このハートのクルーは全員がキャプテンに惚れ込んでいるクルーばかりなのだから。

「なあなあ。ナマエってキャプテンとどうやって一緒になったんだ?」
「ん?私が海賊に襲われて、意識ない時にキャプテンが」
「違う違う。この船に乗ったときじゃなくて、恋人になった時のこと」

コックの作ってくれたツマミの揚げ豆をポリポリと食べながら、イッカクがニヤニヤして私に問いかける。

「そうだなぁ…私から好きって伝えたようなもんかなあ」
「そうなのか?シャチはキャプテンから伝えたって聞いたって言ってたぞ」
「キャプテンに?」

返答の代わりにイッカクは頷いた。
どっちからってあるのかな。私たちの場合はキスして想いを伝え合ったみたいなものだからなあ。
その後すぐに…しちゃったし。

「お互いにか!」
「そうかも」
「キャプテンとどんな話しすんだ?いつも2人でいることが多いだろ?」

確かに航路のこととか、作戦会議以外は医務室に来て私と調剤したり、あとは一緒に居てもお互いに本を読んでいるばかり。
確かに会話もするが…

「なんてことない会話ばっかだよ。医学書のことを話し合ったり、クルーの健康状態の話しをしたり…あ、お昼ご飯のこと話したりもするし…色々だね」
「色気ねーなー」
「色気のある会話ってどんなよ」

私が笑いながら逆に問いかけるとイッカクはケラケラと笑い始めた。

「お前可愛いなあとか、好きだとか、キスしたいとか」
「会話なの?」
「会話じゃないな」

全て言われた事があるにはあるが、そんなしょっちゅう言われることでもない。
それにキャプテンが私にそういう言葉を投げかけてくるのは大抵、そういう行為をしている時ぐらい。

「2人の時ってイチャイチャすんの?」
「…まあ、それなりに」
「どんな?どんな?」

詰め寄られて顔が熱くなる。
イチャイチャは結構する。互いに本を読んでいる時だってキャプテンの足の間に座ってひっついて読んでいることが多いし、ソファで隣に座っている時だって殆どの場合、私の肩やら腰にキャプテンの腕が回っていることが多い。
あれは、世間で言うイチャイチャだ。

「くっついたり?」
「どう?アタシがキャプテンだと思って」
「んー、こんな感じ」
「お!イチャイチャしてんなー!」

いつもしてるようにイッカクの足の間に座ると一緒になって笑う。
そのまま私たちは話を続けた。








「あれ?キャプテン珍しくペンギンと飲んでるんすか」
「なんだよシャチ。おれじゃキャプテンの相手はダメなのかよ」
「ちげーよ。ナマエは?」
「…イッカクのところだ」

おれが酒を飲みながらそう答えるとシャチはケラケラと笑いながらおれとペンギンの目の前に腰を下ろした。

「イッカクにとられちゃったんすねー」
「貸してやっただけだ」

船の裏側で2人で女子会をするとか言って、さっさと行ってしまったナマエ。
いつもだったら大抵がおれの横でちびちび飲んでいるのだが。

「心配してんすか?」

ペンギンにそう言われて素直に当たり前だろとは言えない。
だが、本音は心配だ。
飲み過ぎてねェのか。
あいつは飲み過ぎると甘えてくるし、いつもはその対象がおれだが今、二人きりでいる相手は同性とはいえおれ以外の人間だ。
別に同性だし仲間だからどーのこーのとかはならないと思うが…あまりいい気はしない。

「まあ、過保護過ぎんのもダメっすよ」
「過保護か?」
「ナマエに関しては結構。自覚ないんすか」
「……別に過保護でもねェだろ。過保護だったら貸してやらないもんじゃねェのか」

おれがそう言えば、ペンギンがまだ小言を言おうと口を開きかけ、シャチがペンギンを指差して止めた。

「違うぞ、ペンギン」
「…なんだよ、シャチ」
「キャプテンは正しい!アイツ相手にキャプテンがそうなるのも、ものすごーーーく分かる」
「何でだよ」

おれを挟んで2人で言い合いをし始めるのは昔はしょっちゅうだったのだが、仲間が増えて次第になくなった。
今、この雰囲気は少し懐かしく思う。内容はおれとナマエのことなのだが。

「だって、アイツ見ろよ!側にいても勝手に人助けしに行くわ、死にかけるわ、気がついたら医者たらし込むわ、拐われるわ…もう言い出したらキリがないくらい色々あったろ!」
「あ…確かに…気がついたら死にかけてたな…内科医に惚れ込まれたり…」
「医者を惑わせる看護師だ!」

くくっと笑う。
医者を惑わせる…確かに言えてるかもしれねェ。
内科医だけでなく、麦わら屋のとこの船医も欲しがってたし、他にもちょいちょい色んな島の医者が寄ってきていた。
それもこれも、アイツが馬鹿みたいにお人好しで助けに行くからだ。
まあ、医療の腕もいいし頭もいいし回転もいい。女としても看護師としても気がきくし、医者の補助も申し分ない。

「いい女だな…」
「うはー!キャプテンにそんなこと言ってもらえるなんてちょー幸せもんっすね!!」
「こりゃあ、手放せないっすね」
「手放せねェじゃなく、手放さねェよ」
「「かっくいーー!!!」」

シャチとペンギン酔ってるな。
おれの腕に抱き着いてくる酔っ払い2人を引き剥がすと、おれのジョッキにペンギンが酒を継ぎ足した。

「結構イチャイチャしたりすんすか?」
「イチャイチャ?」
「2人で船長室にいる時とか、こー、抱きついたりとかして来ないんすか?」
「…」

シャチに問いかけられて少し考える。
そういやアイツからこんな風に腕に抱きついてきたり、ベタベタして来ないタイプかもしれない。
おれが無理やり自分の懐に来させないと別の場所に座ろうとするしな…

「…アイツから来たことあったか…」
「ええええ!!マジか!アイツ女か?!」

淡白なのか?確かに普通逆だろ。
アイツ、本当におれのこと好きか?

「キャプテン、行きましょう」
「は?」
「行くぞペンギン。ナマエに説教だ!!」

おれから酒の入ったジョッキを奪い取り、シャチとペンギンに両腕を取られ、仕方なくイッカクと話しているナマエの元に向かうことにした。
どうせそろそろ返してもらおうと思っていたところだ。






「それでそれで?」
「えっとねぇー」

おい、イッカクの奴、おれの言ったこと全然守ってねェじゃねェか。
聞こえてくるナマエの声は明らかに酔っていて、イッカクのやつはザルなのだから酔うはずがない。

おれがため息をついて2人に近寄ろうとするが、おれの両腕を掴んでいる2人が人差し指を唇に当てて立ち止まった。

「キャプテンはねぇ、私のこといつも包み込んでくれてねぇ、すんごーく大切にしてくれるの、好きぃ」
「うんうん。嫌なとことかないのか?」
「ないから困っちゃうー。あ、でももうちょっと私のことどお思ってるか聞きたぁい」
「あんまり言わなそうだもんな、キャプテン」

舌ったらずの甘える声はおれだけで聴きたかったが、今はついペンギンとシャチと一緒に聞き入ってしまう。

「言わないの…。でもねぇ、言わなくても…伝わってくるんだよう…でも聞きたいんだよう…」
「言わなくても伝わるか…すげーな。さすがキャプテンとナマエだ。アタシもキャプテンの恋人がナマエじゃないと、もやっとする」
「えへへー、みんなそれ言ってくれるよぉ。嬉しいなぁ」

両隣で激しく頷いている。
なんだか小っ恥ずかしくなってきた。
だが、おれの戸惑いをよそに、酔ったナマエは話し続けた。

「あのねぇ、キャプテンはよくちゅっちゅしてくれるんだけどねぇ、私は恥ずかしくてくっついたり、自分からちゅっちゅ出来ないんだぁ。でも、私がしたいなぁって思った時は大抵…キャプテンしてくれるんだぁ」
「すげーな、同じこと思い合ってるってことか」
「へへへー、ロー大好きぃ」

シャチとペンギンがニヤニヤしながらおれを見てきて、おれは帽子のツバを下げて、片手で顔を覆った。
分かってる。ニヤついてるし、顔が熱くなってるのも分かってる。

「あー、おれこの2人マジで本気で尊いと思うわ」
「おれもだ、シャチ。キャプテン、なにがあってもおれらだって簡単に引き剥がしませんからね!」
「もうお前ら…」
「ああ!キャプテン顔赤い!え!貴重な顔!誰か映像でんでん虫くれーー!」
「シャチ黙れ」
「キャプテンが照れて…っ!」
「ペンギンも黙れ」

それだけおれたちが騒いでればイッカクはすぐに気がつき、隠れていたおれたちの元へ駆け寄ってきた。

「キャプテンたち、盗み聞きっすか?アタシにボーナス待ってますよ?」
「…気が向いたらな」
「アイアイ!ほら、シャチとペンギン!あたしらは行くぞ。あとはハート自慢カップルの二人きりにしてやろう!」

思わず頭を抱えそうになる。
元凶である発言をした奴を翻弄させるために、おれは酔っ払ったナマエの体を抱き寄せて愛を囁いた。



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