指示されたことをしないと出られない部屋

*付き合ってると仮定した設定です







私は部屋に入って戸惑いを覚えた。
確か町の喫煙所に入ったはずが、どう見ても喫煙所にしては壁が白すぎる。
そもそも喫煙所の壁を真っ白にすると絶対にヤニで黒くなるのだから白くはしないはず。

なのにここは真っ白の部屋。
気になるのはドアがなぜか消えたということだ。

「ありえない…夢か…」

街の巡回中に喫煙所へ来たのが悪かったのか。
ほんの一本だけ吸おうと思っていただけなのに。

私は真っ白な部屋に落ち着かず、とりあえず部屋の中心にある存在感のあるソファに腰掛けてみた。
ふかふかで中々の大きさ。二人掛けのソファだ。

仕方なく煙草を取り出して火をつけ、心を落ち着かせるためにも煙を大きく吸い込んだ。
ニコチンが私の精神をゆったりと…

「あ?なんだここは」
「…」

突然、目の前にドアが現れたかと思えば男が一人入ってきて、開口一番にそう言いながら首を傾げた。

「あ!ドア閉めるな!」
「?ナマエじゃねェか」
「あああああ!クソ!役に立たん奴だな!!」

私の制止も間に合わず、ドアは無情にもパタンと小さく音を立てて閉まってしまい、そこには真っ白な壁があるだけになった。
なぜ消えた。そしてなぜコイツが入ってこれた。
色んな疑問が出てきたが、とにかくこの部屋に海賊と二人きりということが私をどっと疲れさせる。

トラファルガーは部屋を見渡して、首を傾げてなぜか私の隣にドサッと腰を降ろし、嫌味なぐらい長い足を組んだ。

「ここは何だ」
「知らん。シージー島の喫煙所だ」
「馬鹿言え。おれの船の上だったはずだ」
「馬鹿は貴様だ。なぜ私が貴様の船の上に居るんだ」

話しが通じない。
だが、話しが通じないのはしょっちゅうだ。

諦めてトラファルガーから視線を外し、煙草を吸いながら目の前の白い壁を見つめた。
すると壁に何かが浮かび上がってきて、それは文字となった。

「『指示されたことをしないと出られない部屋』?は?」
「…」
「トラファルガー、どういうことだ」

トラファルガーの方を向いて問いかけてもやつは首を傾げるだけで役に立たない。
仕方なくその文字を眺めていると今度は変形して違う文字になった。

「『お互いの好きなところ3カ所にキス』…なんだそれ、馬鹿馬鹿しい」
「いや、案外そういう能力なのかもしれねェ。別に減るもんでもねェし、やるぞ」

なぜか楽しそうに口角を上げながら笑みを浮かべて言うトラファルガーに、私は首を振った。

「やるわけないだろ」
「ん」

煙草の火を消して、携帯灰皿へ入れるとトラファルガーに反対の手を取られる。
その手を握られて手の甲にキスをされると、私はすぐに手を引っ込めた。
なんという奴だ。油断も隙もありゃしない。

「カウントが始まったぞ」

馬鹿言うなと呟いて先ほどの壁を見れば確かに青い文字が“2”と。
赤いのは“3”ということはあの赤い数字は私のカウントだというのだろうか。
馬鹿馬鹿しいが、トラファルガーは片足を乗り上げて完全に体を私の方へと向くと、続きを始めた。

「ほら、こっち来いよ」
「…三回とも手にすればいい。ほらやれ」
「あ?…」

もの凄く嫌そうな顔をした後、盛大な溜息をついて先ほどのように私の手の甲に今度は摺り寄せるように唇を寄せてきて、私はゾクゾクする。
なんて触り方をするんだ。触られているのは手なのに、まるで…その手を慈しむように…。
離れようと引っ張ったが、腕力の差でびくともしない。

「と、トラファルガー!やめろ!」
「あ?手にキスしろっつったのはてめェだろ」
「だがそんな触れ方っ、んっ」
「感度いいな…」

変な声が出てサーッと血の気が引いた。
早く終わってほしいといまだに私の手に舌を這わせたり、キスをしてくるトラファルガーの額を押しながらカウントを見てみれば青い文字は“2”のままだ。

「トラファルガー!カウントが減ってない!」
「だろうな」
「だろうな?!」
「同じ部位は効果ねェんじゃねェかって思った」
「それならそうと早く言え!」
「お前が聞かなかったんだろ」

やっと手を離してくれて、その手を抱きしめた。
まるで手を犯されたみたいだ。

「早く出てェなら素直に体差し出せ」
「クソっ!さっさとしろ!」

私がここで抵抗していても時間の無駄だ。
カウントを見る限り、本当にあれが0にならない限りは何なのかも何も分からないのだから。
近寄ってきたトラファルガーが私の後頭部を掴んで唇にキスをする。
もう何度としてきているのだから今更キスが何だ。
ちゅっと小さくリップ音をたてて離れると青い文字が“1”に、それに安心する。

「本当だな…」

トラファルガーの唇が私の頬を掠めて下にいくと、今度は首筋にちゅっとリップ音を立てる。

「んっ…」

また変な声が漏れてしまった。最悪だ。
私の首筋に舌を這わせているトラファルガーの息がかかり、笑われたのが分かる。

「も、もう私の番だ」
「おれと同じところか?それとも服脱いだ方がいいか?」

ニヤリと私の方を見ながら着ているパーカーを脱ごうとしているトラファルガーの手を慌てて握って止めた。
裸になんてさせたらなにさせられるか分からない。

さっさと終わらせるために刺青だらけの手に唇を押し当てて、トラファルガーの両頬を掴んで唇を押し当てて、そのまま首筋にも。
全てが一瞬の出来事。
それでもカウントはしてくれたようで「ぴんぽーん」と軽快な音を鳴らしてクリアという文字が浮かびあがった。

「ちっ」
「舌打ちするな舌打ちを」

極悪な面を更に極悪にしながらトラファルガーが舌打ちをした。
私に何を求めていたんだ、コイツは。

ドアが現れて、さあ出ようソファから飛び出してドアの目の前へやってきたが…ドアノブがない。

「…どういうことだ…」
「…どうやら、指示は一つじゃねェらしい」
「なんだと?!」

ソファに座ったままのトラファルガーはこれまた偉そうに足を組みながら文字を指差した。
次はドアノブを出してくれるというのか。全く。

溜息をついて私はソファに戻ると、壁の文字を見て絶句した。

「『ディープキスを5分間』だと…?」
「指示通りやりゃ部屋に変化があるってのは証明された。さっさとやるぞ」
「なんで貴様嬉しそうなんだ!」
「嬉しいだろ。お前と絡めることができんだから」
「言い方!!その言い方やめろ!」

喉を鳴らして低く笑うトラファルガーは本当に愉快そうだ。
私としては恥ずかしさで顔が熱くて仕方がないというのに。
だが、そういう私の恥ずかしがっている表情すら、トラファルガーにとっては興奮材料の一つに過ぎないらしい。
舌舐めずりして私の方に体を寄せてきた。

「どういう体位がいい?」
「体位言うな」
「エロいこと意識してんのはてめェじゃねェか」
「っ!」

そんなことを指摘されて思わずカッと熱くなる。
確かに意識し過ぎているかもしれない。
もうさっさと終わらせるにはこういう事に慣れているトラファルガーに任せてしまった方がいいのかもしれない。
私よりこういう男女のそういうことに経験があるのはトラファルガーなのだから。

「…どの体位のがいい」
「そうだな…とりあえずおれの上に跨がれ」
「わ、分かった…」

何故、上に乗らなきゃいけないのかも不明だが、ディープキスを5分間もしなくてはならないのだからこの体位の方が私が楽なのかもしれない。
コイツは意外にも私のことを優先に考えるおかしな海賊なのだから。

言われた通り、座っているトラファルガーに跨り膝立ちになる。
ああ、確かにこうしなければコイツは無駄にデカいからちょうどいい体位なのは間違いないようだ。

私の腰に両手を置いたトラファルガーがニヤニヤしている。

「おい、トラファルガー。その顔やめろ」
「悪ィな。生まれつきだ」
「嘘つけ嘘を。ニヤつくな」
「やり方分かるか?」
「私をバカにするな。舌を出せ」

私の発言に更にニヤつくトラファルガーの舌に自分の舌を絡ませ、トラファルガーの動きに合わせて動かす。

「んっ、ふ…はぁ…そろそろか」

トラファルガーが私の舌に吸い付いていたせいで大きなリップ音を立てた。
跨っている体勢だと振り返らなくてはカウントが分からない。
だが、まさかのカウントはたったの15秒しか経過していなかった。
絶望に打ちひしがれていると頬に刺青の入った手が触れて、グイッと正面に戻される。

「おれがカウント見てやるからやめんな」
「私が見えるようにしたい!トラファルガーでは信用出来ん!」
「あ?…なら交代だ」
「うわっ」

ひっくり返されて私がソファに触らされると、私の体のすぐ横に膝を立てて後頭部を掴まれ、唇を塞がれる。
出会った頃からだが、コイツのこういう時の手際の良さは尊敬に値する。

すぐに私の唇を割って舌が侵入してきて、私の舌を強引に絡めとられた。
口内いたるところに舌が動き、その度に聞こえて来るぴちゃっと音がダイレクトに耳に入ってきて破廉恥な気分にさせられる。

「はぁ…と、ら…んぅ」

息継ぎの為に少し離れても、すぐに塞がれる。
いや、そもそもこの息継ぎは私の為ではなく自分のためか。

ぎゅっと目を閉じ、苦しくて涙が出てきた。
腰辺りがずっとゾワゾワとしてるし、頭もクラクラして、いつの間にかカウントなんて見てる余裕をなくして。

「ふっ…ぁ…んん…はぁ…」

ソファに倒されて、私の体の上にはトラファルガーが乗りかかる。
駄目だ。何も考えられない。

「はっ…とら、ふぁ…」
「ナマエ…まだ…喰わせろ」
「んんぅ…」

口の中がビリビリする。
こんなに長いキスをするのは初めてかもしれない。
いや、間違いなく初めてだ。

流れ込んでくる混ざり合った唾液を懸命に飲み込み、これは私だけでなく目の前の男も時折こくっと嚥下音が聞こえて来る。互いに互いの唾液を飲みあっているようで…とてつもなく卑猥なことをしている感覚だ。

だが、私のシャツの裾から手が入ってきた時点で一気に目が覚めた。

「んんっ?!んーーー!!ぷはっ!やめろ!」
「ちっ」

目の前の舌打ちした男を睨みつけ、カウンターを見れば0になっているし、ドアノブだってある。
いつ終わっていたのかわからないが、確実にコイツは終わってることを知っていて続けたに違いない。
そういう男だ。

「出るぞ!」
「…はぁ…いつんなったらヤらしてくれんだよ」
「…いつかな」
「……へェ。ヤらしてくれる予定はあんだな」

少なくともこんなところではごめんだ。
私は不満げだったのに私の言葉一つでニヤつくトラファルガーとともに無事に脱出を成功させた。


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