ハートと麦わらの合同宴会

自室に戻るとすぐにさっとシャワーで洗い流し、まだ物足りないと感じる熱い体を冷やし、服を着替えた。
おれの自室に置いてあるナマエの下着を持って、つなぎを掴もうとして手が止まる。

頭をよぎったのは麦わら、ゾロ屋、黒足屋だ。
その3人はとくにナマエと年齢も近く、恋愛対象になってしまいそうなやつら。
比較的、誰とでもすぐに仲良くなるナマエは看護師としてコミュニケーション能力が高く、人の心にすっと入り込める。
看護師としては誇らしいことだろうが、恋人としては面白くないところ。

おれは新しいつなぎから手を離し、おれのパーカーとナマエの私服のジーンズを取り出す。
そういや、まだサボ屋の一件を問いただしてない。
あの場所に血痕が付いていたということは抱き締められたのか、抱き締めたのか。返答によっちゃぶち犯す。

医務室に戻れば、タオルケットに包まったナマエがまだ後片付けをしていた。

「あとはおれがやるから、お前は早く服着ろ」
「ありがとうございます。…って私のつなぎはなかったんですか?!」
「ああ。おれの部屋にはなかったからそれ着とけ」

首を傾げていたが、下着を着た後にハートのジョリーロジャーが入ったパーカーを素直に着て、ズボンに足を通した。
首筋にはすでに首を絞められて出来た痣は消えて、おれがつけた鬱血痕が見える。
ガキのように独占欲に駆られておれのパーカーを着せて、見えるところに鬱血痕をつけたが、察するのは黒足屋とゾロ屋ぐらいか。
麦わら屋なんかは男女関係に疎そうだ。

後始末を終えると医務室を2人で出て、甲板へ向かう道中で問いただすことにした。

「ナマエ、サボ屋の胸にあった血液はお前のだと聞いた。抱き着いたのか」

嘘をついても見破れるようにナマエの顔を見ながら聞くが、何とでもないかのようにサラッと理由を言ってきた。

「ロビンさんの上に瓦礫が落ちて来そうな時に、私が飛び出そうとしたんです。その時にサボさんが私を止めて、後頭部の傷が再出血してたの気付かず、ペタッと」
「そういうことか…」

それは怒ることは出来ねェが、別の問題が出てきた。

「お前また身を挺して助けようとしやがったな」
「…反射的にですよ」

これだから目に届くところに置きたくなるんだ。
目を離せばすぐに突っ走って、大怪我をしたり、命を危険に晒すのだから。

盛大にため息をつくと、ナマエがニッと笑いながら覗き込んできた。

「やきもち、妬いてました?」
「…馬鹿言うな」
「そういえばサンジ君もサボさんも頭ポンポンしてきましたけど、私の頭ってそんなポンポンしやすいですか?」

頭頂部を自分で撫でながらサラリと新たな事実を言ってくるナマエに思わず舌打ちした。
すぐにその手を退かすと、後頭部を掴んで噛み付くように唇を塞いだ。
すぐに舌でこじ開けて侵入させると、髪の毛がめちゃくちゃになろうがおれの匂いで上書きするように頭を撫でつけてやる。

「はっ、やめ、んんっ」

嫌がるナマエを逃げられないように腕の中に閉じ込め、髪の毛を乱しながら貪り続けた。
酸欠になりぐったりしたところで、最後に唇を啄んでからゆっくり離れる。

「誰にでも尻尾振るんじゃねェよ」
「はぁ…はぁ…ふってなんか…」

「トラ男ーー!!」

麦わら屋がしびれを切らして船内に侵入してきたらしい。
ナマエを腕の中から解放してやると、首の後ろで揺れるおれの昔から被っていた帽子をその頭に被せてやる。

「ふふ」
「あ?」
「なんか、こうしてキャプテンがこの帽子を私に被せてくれるの、好きなんです。おれの宝物って言われてるみたいで」
「…分かってんなら、奪われねェように自衛しろ」

おれはそう言うと目をまん丸くして、ナマエが嬉しそうに笑い出した。

「さっきからキャプテンがデレ発動しまくってて、幸せで死にそう」

調子に乗り出したナマエのケツを膝で軽く蹴ると、先に歩き出した。









「トラ男、おせーぞ!」
「大人しく治療を受けねェじゃじゃ馬相手だったんでな」
「そーか!そりゃ、しょーがねェ!」

麦わら屋を足止めしてくれていたシャチとペンギンに礼を言って、甲板に出た。
すでにうち船には麦わら一味が何人か乗っていたし、麦わらの船にもうちのクルーが乗っている。

うちのコックが黒足屋と話しながら甲板で料理をして、互いの船の上は敵味方が入り乱れて飲み食いしているのが見えて、つくづくこの一味といると海賊というものが分からなくなりそうだ。

おれも酒を受け取り、木箱の上に腰掛けると隣に麦わら屋が座り出した。

「何でナマエ、トラ男の服着てんだ?」
「…おれのもんだからだ」
「ふーん。アイツの能力すげーのな!怪我を何でもパパッと魔法みてェに治すんだ!」
「…やらねェぞ」
「ぶー。ケチー」
「ケチじゃねェ。なら、お前のとこの船医欲しいっつったらお前は差し出すのかよ」
「そりゃあダメだ!」
「それと一緒だ」

納得したように大きく肯く麦わら屋を横目に酒を飲み、ため息をついた。
アイツがおれの女でなくても、おれのクルーという時点で誰にも渡す気などない。
仲間を差し出すなど、自分には考えられないのだ。
いや、そもそも麦わら屋も本気ではないと思うが。

「…仲間が居るから、強くなれるのにな…」
「………そうだな…」

海賊万博での戦いを思い出しながら、麦わら屋の呟きを肯定する。
麦わら屋は目の前に居る、おれの仲間と談笑している仲間を眺め、おれも自分の仲間たちを眺める。

目の前に居る仲間たちは船長であるおれについて来てくれている。
麦わら屋のとこもそうだ。
信頼できる仲間が居るからこそ、心赴くままに行動が出来るのだ。
…それと、麦わら屋がバレットに言ってた通り、仲間が居なきゃこうして宴なんか出来やしない。

「トラ男も仲間好きか?」
「…好きじゃなきゃ、こんなとこまで一緒に船旅しねェだろ」
「ししし!やっぱ、トラ男いい奴だ!」

「ルフィー!んなとこで船長同士で雑談してねェで、こっちきて歌って踊るぞー!」
「おう!」

鼻屋に呼び出されて居なくなった麦わら屋の所に、とさっと誰かが腰を下ろした。
花の匂いと微かな薬品の匂い。
おれと同じような匂いで、顔を見なくても誰か分かる。

「船長同士で秘密のお話しですか?」
「…嫉妬か?」
「ふふふ。ルフィ君にキャプテン取られちゃったかあ」

酒を飲み干すと、隣のナマエが注いでくれた。
海風に揺れる栗色の髪の毛は、1年半前は肩につかないくらい短かったのに、今では肩甲骨ぐらいまで伸びている。
ナマエが着るには大きめのおれのパーカーから、綺麗な鎖骨が見えてそのすぐ上におれがつけた鬱血痕が見えて気分が良くなる。

「お前は誰と飲んでたんだよ」
「ゾロ君です。虐められただけですけど」
「…」

ゾロ屋は剣士でもあるコイツに興味があるのか、コイツの反応がいちいち面白いからか…ちょっかいを出している。
不愉快極まりないが、コイツ自身もゾロ屋にちょっかい出すからこそ、腹が立つ。

「あ、キャプテン。そういえばキャプテンって女性を横抱きにするタイプなんですね」
「?いきなり何だ」
「洞窟でロビンさんを横抱きにして走ってたじゃないですか。私のことはまるで荷物の様に肩に担ぐか、脇に抱えるのに」
「…」

顔は騒ぐ仲間の方を向いているが、少し唇を尖らせている。拗ねているような顔がどうしよもなく、可愛く思えて頬が緩んだ。

「嫉妬か?」
「…別にいいんですけど!」
「くくく、やってやるよ」
「ちょ、いいですって!わ、やめ、ひぃっ!」

抵抗しようとバタバタする体をヒョイっと横抱きにして持ち上げると、恥ずかしそうに両手で顔を覆った。

「掴まってねェと落とすぞ」
「い、言い方どうなってんですか!落ちるぞ、じゃないんですか?!」

文句を言いながらも顔を覆っていた両手がおれの首の後ろに回って、シャチやイルカが口笛を吹いて茶化し始めた。

「ハート恒例のイチャイチャっすね!麦わらたちには刺激が強いかもしれませんよー!」
「何もやんねェよ」
「チューぐらいならいくらでもどーぞ!」
「しません!!!」

面白いぐらいに顔を真っ赤にして「降ろして下さい!」と必死に抵抗しているナマエ。
それぞれが楽しんだ麦わら一味とハートの海賊団の合同大宴会。
海賊万博では色んなことがあって楽しむことは出来なかったからこの宴はいい機会だったのかもしれない。

楽しそうに笑う仲間たちと、ナマエの顔を見て、改めて仲間は良いものだと、心の底から思った。






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