Boy & high school girl


▼ 私と少年とゲーセン




ヘアスプレーに、洋服に寝る前のジャージに、下着に歯ブラシに…

「何か欲しいものある?」
「…別に」
「うーん、物欲がないなぁ」

トイレに入って少年の髪の毛にヘアースプレーをかけていく私は溜息をついた。
銀色の髪の毛が徐々に黒くなっていく。
真っ黒になると、眉毛も化粧品で黒くして。うん、ちょっと顔立ちが日本人離れしてるけどハーフっぽい子の完成だ。
スプレーと化粧品を仕舞い込み、服も着替えてもらい、出てくると私は息を呑んだ。

「かっこいいじゃないか、少年!ぎゃあ!痛い痛い!死ぬ死ぬ!」
「少年はやめろと言っただろ」
「ぐあー!」

腕を後ろに回されて背後に回ると、少年は首を思いっきり絞めてきた。
少年の手をタップしながら解放を望むと、呼吸困難から解放された。
死にそうな思いだ。
兵士が一般市民に容赦なく首を絞めるとは、どんな教育を受けているんだ。マジで。

ぜーはーと肩で息をしながら痛む腕と首を擦って、少年を睨みつけた。
しかし、少年はすでに違う場所に視線を送っていた。

「何だあのうるさいのは」
「へ?ゲーセン行ったことないの?」
「ゲーセン?」
「ゲームセンターの略だよ。ちょっと覗いてみる?」
「ああ」

買い物も済んだし、少年を引きつれて久しぶりのゲーセンに足を踏み入れた。
ユーフォ―キャッチャーにプリクラ、メダルコーナーにアーケードゲーム。
色んな音に顔を顰めながら眺めている少年はシューティングゲームの前で足を止めた。
画面には気持ち悪いモンスターが映されて、それを撃って進むゲームだ。
その隣にはゾンビを撃っていくゲームも並んでいる。

お金を取り出して「やってみる?」と聞くと少し考えた後に頷いたため、二人分のお金を入れて銃を取り出した。

「私、けっこう上手いんだよ」
「画面に向かって撃てばいいのか?弾は?」
「ないよ。ゲームなんだから…実弾は出ませんよ」
「…?」
「とりあえず撃って倒して、リロードするならこう」

銃を上に向けて振るとリロード出来るためそう伝えて、ゲームスタート。
すると私は再び驚いた。
見事な反射神経と的確な射撃。銃を構える姿は確かに様になっている。

「す、すごい」
「こんなのがモンスターか」
「げ、ゲームだから…」
「…平和な世界だな」

飽きてしまったのかつまらなそうに銃を構えだした少年に苦笑して、クリアをすると銃を戻した。

「リプレイなしにクリアするのは初めてだよ」
「お前は標準がずれてる。構え方からして実際の銃だったら反動で体が吹っ飛んでる」
「…実際の銃を扱う予定は全くないからいいんですよーそもそも刀を使うんじゃないの?セフィロスは」
「武器は一通り使えるし、銃なんてコツを掴めば楽に扱える。殺傷能力は低いが」
「さっしょう…のうりょく…」

なかなか使わない物騒な単語に、やっぱり少年と住む世界が違うと実感した。
殺傷能力なんて殺虫剤の説明書ぐらいでしか聞いたことない。
銃の話しからそんな単語が出てくるなんて、物騒な世界だな。

銃を置いて少年を連れてゲーセンを出た。
ゲーセンを離れれば離れるほどゲーセンの喧噪が離れて、少年の眉間の皺も和らいでいった。
すごく煩かったらしい。

「耳が痛くなりそうだ」
「そんな煩いかな?」
「ソルジャーは聴力も一般人と違って強化される。拾おうと思えばあの夫婦の会話も聞こえる」

そう言いながら少年が指を指したのは100メートルは離れているだろう老夫婦。
そんな動物じゃないんだから無理に決まってるでしょ。と呆れながら見ると少年は私を見て溜息をついた。

「お前が俺の世界に来たら3日も持たずに死ぬな」
「うん。私はそちらの世界では生きていけないから絶対に行きませんとも」
「能天気貧弱女」
「ちょっと!私の聴力でもその悪口は聞こえますよ!」

ボソリと呟くように言っても地獄耳な私の耳には入ってきた。
貧弱だとう?能天気だとう?くそっ!否定出来るほどの語彙力もなければ少年を馬鹿にするような単語も思い浮かばない!ガッデム!
せめてもの対抗心で置いていくように足を速めると、息も切らさずに後ろから普通についてくる。
むしろ嫌がらせと感じてないのか、涼しい顔して通る店舗に目線をやりながらスタスタとついてくる。

くそー!少年のくせに!









無駄に早歩きをしたため、帰る頃にはくたくたになってしまった。
ソファでぐったりと座り込むと「体力ないな」と再び悪口を言われ、更にどっと疲れが出てきた。
休日は一緒に居られるから問題はない。
そう、問題は月曜日から私は学校で少年は1人でここに居てもらうことになる。
そもそも元の世界に戻るための手がかりなんて何もない。

夕飯のご飯を向かい合って二人で食べながら、口を開いた。

「何か手がかりってないのかな」
「恐らく、あのマテリアが鍵なんだろうがこの世界にはマテリアなどないのだろう」
「マテリアってあのビー玉でしょ?あんなの見たことないよ」
「見たところ魔晄もなければモンスターも全く生息していない」
「つまり?」
「今のところ手がかりが全くないということだ」

少年のいう通りだ。
マテリアというものの存在もないし、魔晄など聞いたこともない。
マテリアがどういうものかは、少年のマジックショーで分かったけど魔晄って何だ。

「魔晄ってなに」
「星のエネルギーだ」
「?太陽エネルギーみたいな?」
「太陽光とは全く違う。星には俺達の体の循環のような、生命の巡りがある。魔晄というのは…」
「…」

セフィロスが魔晄について細かい説明を続けて話していたが、途中で口を噤んだ。
ダメだ。私の知能ではちっとも理解できない。
私のその顔を見て少年は溜息をついて頭を振った。

「お前に話しても時間の無駄だ」
「い、いちいち辛辣だね、君は」
「そもそも説明してもお前には関係のないことだったな」

その通りです。
私には関係のないことだし、その知識を理解したところで何の役にも立たない。
それよりもこの頭には他の知識、苦手な数学の公式を詰め込んだほうがよっぽど今後のためになる。

少年が「馬鹿そうだしな」と失礼な呟きをして、今後の共同生活が更に不安になった。
私のストレスが爆発してしまいそうだ。




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