Boy & high school girl


▼ 私と少年の自己紹介


とりあえず落ち着こう。
少女をソファに座らせて、冷たいお茶を二人分用意した。

「そのー…異世界?に帰った方が…いいんじゃないかな」

目の前の電波少女は異世界が家だと思っているんだから話しを合わせてあげよう。
兎に角、ここに居られるよりマシだ。

「…どうやって帰るんだ」
「あー…ああ!お金ね!いいよいいよ!電車賃ぐらいあげるから!」
「……お前信じてないだろう」
「え?!な、何が」
「…俺は正気だ」

少女は何を思ったのか私の頬を思いっきり抓ってきた。

「いだーー!!な、何するんだ!馬鹿力な少女だな!」
「何だと…」
「ひい!」

頬を抓っていた手は私の首元にやってきた。
軽く頸動脈を抑えられて、心臓がドクドクと鼓動を早めた。

「こ、殺さ、ないで!」
「そもそも俺は男だ。少女じゃない」

口をあんぐりと開けた。
こんな綺麗な男の人は見たことがない。
しかし、ここまで過剰に怒るということは、よく間違えられるのか…。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

首が解放されて心臓を落ち着かせるために深呼吸を繰り返した。
少女…じゃなくて、少年はそんな私の行動を目を細めて不機嫌そうに顔を歪めている。

「ここでしばらく世話になる」
「え?」
「…お前の耳は飾りか?」
「いえ!で、でも、私は一応花の女子高生なのに少年とはいえ男の子と一緒に住むのは…」

少し恥らいながら言うと少年は鼻で笑った。

「そんな貧弱な体に欲情しない」
「破廉恥っ……あれ、少年っていくつだっけ?」
「14だ。学習能力ないな」
「いやいやいやいや。少年、そんな破廉恥なこと言うんじゃないよ。それに私は18歳!年上!少しは敬ってください!」
「知らん」

くっそ生意気だな!
だけど完全に力は向こうが上だ。
細身な体のどこにそんな力があるのか謎だけど。

名前はお茶を喉に流し込んで目の前の少年を睨みつけた。

「少年、学校は?」
「少年って言うな」
「…じゃあ、小僧」
「殺されたいのか?」
「なんて呼べばいいのよ!」

綺麗な顔だけに睨まれると眼光が恐ろしい。
そういえば、少年の名前も聞いてなかった。

「セフィロスだ」
「やっぱ外人か…私は名前」

自己紹介も済んで、少年は世界史の教科書を手に取り始めた。

「とにかく、ここの世界の情報が欲しい」
「それならこっちの日本史読んだ方がいいよ」

ソファから立ち上がって鞄から日本史の教科書を取り出し、渡した。
少年は教科書を開くと、静かに目を通し始めた。

名前は諦めて夕飯の準備をするためにキッチンへ向かった。

キッチンで料理をしている間も少年の方へ何度か目をやる。
少年はソファに体を沈み込ませながら黙々と日本史の本を読んでいる。
外見が美しいだけに、読んでいるのは日本史の教科書なのに、おしゃれな洋書に見えてきた。
よくよく見てみれば、顔だけではない。
長い手足にスラッとした体形はまるでモデルのようだ。

本当に異世界から来たのではないのだろうか。
考えたくないが、外人にしては日本語が流暢だし、セキュリティーが厳しいこの部屋に侵入することは不可能だ。
鍵を壊されている様子もなければ、窓からの侵入はありえないくらい高層階だ。

うちのリビングに居たということがすでにおかしなことだ。

本日の夕飯はオムライス。
卵をのせて、ケチャップをかけて完成。

「セフィロス君、ご飯だよ」
「ああ」

日本史の教科書をソファの上へ置き、少年がオムライスを見つめている。

少年の世界にはオムライスがないのか。
あまりにまじまじと見つめられると、適当感が滲みでそうで慌てて声をかけた。

「お、お腹に入っちゃえばなんであろうと一緒だから」
「…そうだな」
「てか、オムライス食べたことない?」
「…ある」

じゃあ、何でそんな見つめる。
漸くスプーンを握って口に運んで行ったので安心して自分も食べ始める。

うん、普通のオムライスだけど。

恐る恐る少年の顔を見ると、意外にも黙々と口に運んでいる。
感想を求めていなかったが、ここまで黙々と食べていると少し気になってきた。

「美味しくない?」
「不味くはない」
「けど、美味しくもないと…」

もう作らないぞ!少年!
しかし、残すと思っていたお皿は綺麗になっている。
食べ終わると少年は再び日本史の本を読み始めた。

教科書をここまで真剣に読んでいる人は自分の人生で見たことがない。
いや、勉強は大切だけど教科書はテストのために勉強をする程度で、ここまで食い入るように見る人はいないだろう。
世界史の教科書を一応、置いといて名前は今後の生活について考えることにした。

少年がいつ帰るのか分からないが、家出少年なのだろうか。
家出少年が記憶消失…というか記憶障害にでもあったのか。
しかし、こんな芸能人のような少年が家出してたら目立つだろうし、どっかに探し人で張り出されてたら目に入りそうなものだ。

そもそもどうやって家に侵入したんだ?
もう聞きたいことはたくさんあるのに、少年のあの馬鹿力によってねじ伏せられてしまう。
少年のあの馬鹿力はいったいなんなんだ。
ああ、もう。
聞かなければ話しは進まない。

「あの、しょうね…ひい!」
「お前は馬鹿か。次に少年と読んだら首の骨、へし折るぞ」
「す、すいません」

今時の中学生は物騒だ。


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