STEP5
「“ディープキスを5分間”…これが最後ですね」
「ほら、またここに来い」
膝を叩きながらキャプテンが私を見てきたが、膝の上は少し抵抗がある。
何しろお題がディープキスだ。
先ほどのようにイチャイチャではなく、完全に行為の前の行動でもあるディープなキス。
ということは先ほどの体勢になれば、キスだけでは済まされない可能性がある。
私はもう一度モニターを見上げた。
“ディープキスを5分間”
それだけしか書かれていない。
つまり、行為をしてはいけないとも、行為をしろとも書かれていないのだ。
きっとキャプテンなら「してはいけないとは書かれてねェんだからいいだろ」というはずだ。
出来ることなら指示以外のこと、余計なことはしたくはない。
「キャプテン、約束してほしいんです」
「あ?」
「キス、以外はしないと」
私が自分の唇を人差し指でトントンと当たると、キャプテンは舌舐めずりをして口角をあげた。
「約束は出来ねェ」
「…」
「………分かった分かった」
折れない私にキャプテンの方が諦めてくれたらしい。
ため息混じりのその返答に、私は苦笑しながらも先ほどのように足を開いてキャプテンの膝に乗り上げる。
私の腰を掴んでぐっと引き寄せられると、下半身がピッタリとくっつき、密着した。
これだけでももの凄くエロいと感じるのは、キャプテンが色っぽいからなのか。
「ほら、口開けて舌出せよ」
「…い、いつも見たいに勝手に強引に奪ったりはしないんですか」
「おれが主導権握ると勃つ」
「………」
どうせ私からしても主導権なんか握らせてくれないくせに、言い方がズルい。
私はキャプテンの両肩に手を置いて、じーっと見てくるキャプテンの視線に耐えきれず、片手でキャプテンの目元を隠した。
「何だよ」
「み、見られると集中できません。あと、口開けてください」
「ん」
口を少し開けたキャプテンの顔が可愛くて、胸がキュンキュンと締め付けられる。
目元を隠したまま、唇を合わせて舌をキャプテンの口内へと侵入させた。
いつもキャプテンにされているように、舌を絡めとる。
卑猥な水音が耳について、私の羞恥心が爆発しそうだったが、このキスが気持ち良くて夢中になって絡め合う。
2人の混ざり合った唾液が落ちていくのもお構いなしに、私はキャプテンとのキスを求めた。
肩に置いていた両手を滑らせるように、キャプテンの首の後ろに回して抱きしめると、私の腰にあったキャプテンの手がお尻を撫で始める。
「んんっ、はっ、はぁ」
「はっ、まだ、5分経ってねェ」
「んっ」
後頭部を掴まれ、結局こうしてキャプテンの好きなように口内を荒らされるのだ。
ぴちゃっと音を立てるのはきっとわざと。
私が恥ずかしそうに身を捩れば、キャプテンの後頭部を掴む手に力が入る。
「はっ、はぁっ、きゃぷ、てん」
「逃げ、んな」
「やっ、んんー」
ぐるっと体をキャプテンと入れ替わり、私がソファに座りキャプテンが私に乗り掛かるような体勢に。
すぐに顎を掴まれてキャプテンの方を向かされると、噛み付くようにして唇を塞がれた。
やっぱり主導権を握らせてくれないんじゃないか、と思ったが、私の反論は一言も発せられずにキャプテンの口内に消えていく。
「んぅ…ふぁ…」
こくっとキャプテンの喉が鳴って、私の唾液を飲まれたと思うと何だか腰が疼いた気がする。
舌を絡める音以外にじじっとジッパーを下ろす音が耳に入ってきて目を見開いた。
その途端に『ぽーん』と軽快な音が部屋に響き、私がキャプテンの胸を押すとリップ音を立ててキスから解放される。
「はぁ、はぁ、も、もう終わり、ました」
「ちっ」
やはり盛大な舌打ちをしたキャプテンは私の横にドサっと腰を下ろした。
「そ、そんなイライラせず…」
「あー、抱きてェ」
「とりあえず、部屋を…」
『ピンポンパンポン』とリズム感のいい音が聞こえると、電球が5本点滅を繰り返し、ドアノブが現れた。
私もキャプテンもそのドアノブを捻ってみれば、なんの抵抗もなく回り、ガチャっと音を立てて扉が開く。
その先はいつも通りの船内で、キャプテンと同時に振り返って部屋を見るとそこはいつもの医務室の景色が広がっていた。
「…夢だったんでしょうか…」
「…さあな」
摩訶不思議な指示される部屋事件はこうして幕を閉じた。