金色の女神
芸術鑑賞  [ 78/83 ]


セフィロスから有り難く頂戴したお小遣いで、少し高めのカフェでティータイムを過ごしていた。
高級な紅茶の香りが鼻をくすぐり、大好きなケーキを食べると荒んでいた私の心は洗われるようだった。
舞台といえばドレスコードで鑑賞が必須だったが、生憎自分にドレスはない。
ルーファウスからもらったドレスはセフィロスによって燃えクズにされたし。
買うにもドレスだけではなく全てを揃えるには足りない。

そしたらカジュアルな店でそれなりに小奇麗な服を選んで着て行くしかない。
そう考えたらすぐに行動。
ケーキを食べ終え、紅茶も飲み干すとすぐにカフェを出た。

ショッピングモールは高級なブティックはもちろんのこと、カジュアルでお手頃な値段の服飾屋も存在した。
かなり歩き回り、ワンピースにストール、シンプルではあるが光沢のあるパンプスで遠目から見ればドレスコードに見えなくもない。
まあ、遠目から見たらの話しだが。

トイレで着替えて、持ってきていた化粧品で多少化粧をする。
ストールを肩にかけて、いざ出発をした。

電車の中では痴漢が多いから気をつけろと言われてきたため、しっかり席を確保し、なるべく周囲は女性の席を選んだ。
無事に30分前に8番街へ到着し、劇場前で待つことにした。
待っていて数分経過するたびに様々な男に声を掛けられる。
ここ数年でナンパ撃退方法も学んできた。
そもそも、セフィロスから日頃、声をかけてくる男全員が下心があると思えと言われて警戒するようになったのだが。

「待ち合わせですか?」
「ええ。だから一緒に食事やどこかに行くって言うのはできないの。ごめんなさいね」
「ではその待ち人が来るまでお話し相手にどうでしょう」
「人と話したくないの」
「私の話しを聞くだけか貴女の話しを私が聞くだけの一方通行でも構いませんのでどうでしょう」
「しつこい男は嫌いです」
「ははは、辛辣な言葉だね」

中々しぶとい奴だな。
そう思っていると、前方から長身の男二人が見えた。
スーツを身にまとっていたが、セフィロスの目立つ長髪はコートの中に隠されており、フードを被っている。
だからなのか、いつもの黄色い声や視線はなかった。

「あ、待ち合わせの人来たので」
「ん?」

「ほらな、言った通り。ナンパされてる」

ジェネシスが呆れたように言うと私は顔を顰めた。
その男性は二人の姿を見てすぐに逃げて行った。

「何だ、それなりの服あるじゃないか」
「どうしたんだその服」
「今日買ったの。安い服をそれなりに合わせて」
「安い服も、着る奴が美人だと雰囲気出るな」

セフィロスに肩を抱かれて耳元で囁かれた。

「ずいぶんと盛ったな」
「…」

そうです。胸を盛ってます。
ワンピースを着たら胸元の寂しさに悲しくなり、大きくなったとはいえボリュームは足りない。
そのため、下着屋に行ってバストアップするような下着を購入したのだ。
店員さんがパッドも敷き詰めてくれたおかげで中々の出来になったと思ったが。
いちいちそこを指摘してくるとは、嫌な男だ。

ジェネシスの後ろをついていく形でセフィロスに肩を抱かれたまま中へ入っていく。
すると劇場ではなく支配人の名札をつけた人物が深々とお辞儀をし、別の通路へ案内される。

「ジェネシス様。本日はお連れ様がご一緒で」
「ああ。友人とその女だ」

支配人がセフィロスの顔を見てハッと気が付いたようだ。

「友人は有名人なもんでな。上は空いてるか」
「ジェネシス様からご連絡をいただき、開けてあります。どうぞごゆっくりとご鑑賞ください」

エレベーターに乗せられて上へあがると、思わず息を呑んだ。
舞台を見下ろす形でそそり上がり、そこには小さなテーブルに大きなソファ。
ソファから鑑賞すれば他の観客席からは見られないようにはなっているが、身を乗り出せば見えてしまう。
こんな特別席を簡単に用意してしまうところを見れば、いかにジェネシスが特別客だというのが分かる。

「すご…」
「まだ時間はあるから適当に寛げ」

二人してコートを脱いで、名前は身を乗り出して眺めた。
セフィロスとジェネシスはソファに腰掛け、さっそくお酒を飲みだしている。
ソファには座れそうもないし、そのまま立って観ようとしていたが、セフィロスに腕を引かれて足の間に座らされる。
ジェネシスも慣れているその光景に何も言わず、ワインを飲んでいるし、抵抗すれば痛い目みるため名前もそのまま観ることにした。

思っていたよりも舞台は楽しく、心が躍った。
自分にこういった恋愛ものは合わないと思っていたが、実際に見てみると胸が高鳴った。
舞台が終了すると拍手が聞こえ、名前も拍手をしながらジェネシスに笑顔で話しかけた。

「すごく面白かった!ジェネシス、ありがとう」
「くくく…ははは!そんな良かったか」
「うん!思ってたよりもずっと良かった!」

ジェネシスは名前のキラキラと輝かせた瞳と笑顔に笑いだし、その頭を撫でた。

「また連れてきてやる。…頭撫でるくらいいいだろ」

撫でていた手をパシッと無言で払われて、名前を後ろから抱きしめている男をジェネシスは睨んだ。
名前は立ち上がり、セフィロスを立たせるとジェネシスに笑いかけた。

「本当にありがとう。また誘ってね」
「いつでも」
「さっさと帰るぞ」










二人で家に到着し、食事もシャワーも終わった後でベッドに横になりながら今日の話しをした。

「ショッピングモールでいいカフェ見つけてね。もう優雅にティータイムしちゃって」

ベッドの中で向い合せになりながら、セフィロスの腕の中で話しを続ける。
話している最中、彼は自分の後頭部に大きな手を回し、サラサラと流れる髪の感触を楽しんでいるかのように触れていた。
その行動に気が付き、セフィロスの両頬を掴むと無理やり自分に視線を合わせた。

「聞いてるの?」
「聞いてる聞いてる」
「じゃあ、ん…」

適当な返事に気を悪くし、顔を顰めながら話しの内容を確認しようとしてキスにより唇を塞がれた。
触れるようなキスをされて、額にも唇を寄せられるとくすぐったくなり笑った。

そういえば禁欲の約束をしてもその誓約書を燃やされ…ん?ちょっと待てよ。

名前はあの時のやり取りを思い出していく。
ちゃんと確認はしていなかったが、本当に自分の作った誓約書だったのか?

そう考えるともう確認せずにはいられなくなり、セフィロスの腕を解いて体を起こした。

「どうした?」

セフィロスの問いかけに答えることもなく、クローゼットへ向かうと自分のタークスの制服の上着のポケットを漁った。
カサッと音が聞こえて、すぐにその紙を取り出した。

それは間違いなく自分の書いた誓約書であり、あの時の紙は全く違うものであったことに気が付いた。
すぐに上体を起こしたセフィロスに向けて紙を突き突けて、睨みつけた。

「騙したわね!」
「…」
「ほんとやられ…あっ!」

紙をひったくられれてビリビリと破られると、ベッドサイドにあるゴミ箱へハラハラと落としていった。

「何の事だ」
「…もう何でもありません…」

呆れて何も言えない。
騙されたこっちの落ち度もあるが、この人に契約とか誓約とか効果ないことを実感した。

腕を引っ張られてベッドに倒れ込むと、その上にセフィロスが覆いかぶさってくる。

「あれ?ちょっと?」
「本当はあのまま寝ようと思っていたが気が変わった」
「え…何で」
「気分が悪い」
「そんなの知らない!しかもそれはこっちのセリフでしょ!」

脱がされていく服に無駄な体力を使わないように無抵抗で目を閉じた。


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