金色の女神
いってらっしゃい  [ 77/83 ]


夕食も取り、お互いにシャワーも浴びた後にいつものようにベッドで笑いながら他愛もない話していた。
布団の中に入り、セフィロスの腕を枕にしながら名前は今日のことを思い出して疑問を口にした。

「そういえば、今日の昼間にザックスに魔法ぶつけてたでしょ?なんで?」
「……あいつも男だってことだ」
「意味分かんないけど……。あ、そういえばセフィロスってたまに意味分かんないこと唐突に言い始めるよね」
「…」

目の前にある綺麗な顔の眉間に皺が寄せられた。
その表情に名前は笑いながら、得意げに鼻で笑った。

「ははーん、さてはよく言われるな」
「俺の言うことを理解できないお前が馬鹿なだけだ」
「今度は人のせいか!」

ここのところ俺様に拍車がかかっている気がする。
自分から見たら上司に当たるような人物たち、ヴェルドやラザードにも臆することなく…というより、まるで二人を下に見ているような態度で強く意見を言うこの人の上は居るのか。
社長ですらセフィロスに強く言えるのか怪しいところだ。

そもそも、セフィロスのここまでの我儘っぷりというか…唯我独尊なところは最早、今まで育ててきた会社が甘やかしたからだろう。

どうしよもないなぁ、と小さく呟くとセフィロスが溜息をついて私の両頬を片手で握った。
ひよこ口にされ、今度は名前が眉間に皺を寄せた。

「あにすんのよ」
「お前で妄想したあげく、勃ったらしい」
「……嘘でしょ…」

それは少しばかりショックだ。
ザックスは男というより友達で…しかし、あの時は自分はそんな密着したり煽ったりしただろうか。

「…まあ、今回はお前が、というより運悪くザックスが欲求不満で、たまたま目の前に居たお前が使われただけだろうな」
「だよね。私、ザックス相手にそんな色気とかださないもん」
「さっさと女で解消すればいいものを」
「…セフィロスさんもそうしてきたんですもんねー」
「…」

そのおかげで不安になったり、嫌気が差したりしましたもん。
ああ、懐かしい一年前。
でもセフィロスの過去の女性問題は永遠の問題だ。
まあ…セフィロスは過酷な任務や戦闘を強いられるため、人の倍以上のストレスを抱えているであろう。
その発散がたまたま容姿と名声に集まってきた女を抱いただけで、男だからしょうがないといえばしょうがない…のか?

いやいや、アンジールは女性関係の噂を全く聞いたことがないし。

そんな事を考えていたらセフィロスが再び溜息をついた。

「もう一年以上も前の話しだ」
「…それがなくなったのは私と付き合ってからだっけ?」
「お前と出会ってからだな。他の女ではイける気がしなかった」
「ふーん…」

一応、信じよう。
確かに最近こそは…というより私と付き合ってからは回りの噂を聞いても女遊びの噂はピタッと止まった。
その代りに金髪女と一緒に居るとかいう噂が瞬く間に広まったりはしていたけど。
それにそんな過去のことを言ったりしててもどうしよもないしね。過去は変えられないし。

…でも、私に絞ってくれたのは正直ちょっと嬉しい。
下手したらその性欲処理の一人になってたりしたかもしれない…っていうのはないか。今までのセフィロスが相手にしていた女性って結構グラマラスなタイプが多かった気がするし。

嬉しさにへらっと笑うと、触れるだけのキスをされる。

「セフィロスは明日仕事だもんね、おやすみ」
「おやすみ名前」







カチャカチャと音がして、目をゆっくり開けると着替えているセフィロスが目に入った。
窓から差し込んでくる朝日に目を細めて、その着替えを眺める。
ズボンを履いてベルトを締めているが、上半身は裸のまま。
朝からなんともかっこいい背中…

その引き締まった背中には昨日自分がつけたであろう爪痕が、白い肌のセフィロスにはかなり目立っていた。
髪で隠れてはいるが、動くたびに髪の間からちらちらと目に入る。

「…今日、上絶対に脱がないでよ」
「起きていたのか」
「うん、おはよ」

体を起こして、気怠い体を伸ばす。
セフィロスの家で見送りなんて初めてだし。そもそもセフィロスが出勤で自分が休みというのもなかなか珍しいことだが。
玄関の前まで見送るために体を起こして伸びをする。
一緒に玄関まで行くと、セフィロスがこちらを見てきた。

「今日はどこまで買い物に行くんだ」
「うん。ちょっと4番街のショッピングモールでもうろつこうかなって」
「一人でか?」
「うん」
「…小まめに連絡しろよ」
「りょーかい」

ドアを開けたセフィロスに、あっと声をかけた。

「何だ」
「いってらっしゃい」

セフィロスの髪を少しひっぱり、屈んだところにキスをする。
すると再びドアを閉めて、腰を抱き寄せられ、後頭部を掴まれた。

「足りない」
「んんっ」

唇を舐められて口を開けると舌が入ってくる。
舌を絡められて、離れたかと思えば角度を変えて再び絡められる。
漸く解放されると、満足そうな表情で頭を撫でられた。

「まったく…いってらっしゃい」
「行ってくる」

セフィロスの後ろ姿を見送って、出掛ける準備をする。
ズボンの腰に銃を隠し持ち、上から隠すように上着を着る。
いつも通り護身用の銃に足元にはナイフを隠し持ち、靴を履いた。

会社がある0番街に今までは寮があったため歩いてすぐだった。
ここは1番街で高級マンションが立ち並ぶ一角だ。
ちなみにショッピングモールは4番街のため、電車に乗ることになる。

本当は車に乗ってハイウェイでびゅーんと行きたいところだが、生憎まだ一人で運転するお許しが出ていない。
携帯で時計を確認し、家の鍵を閉めていざ出発。





電車のアナウンスが4番街を知らせたため、電車を降り立つ。

「すっごい…」

プレートの上である4番街に来るのは初めてだが、商業施設が立ち並び、巨大なショッピングモールが駅からでも見えた。
初めて来る場所に心が躍り、足取りも早くなっていく。
服や雑貨屋と様々なショップが立ち並び、 ついつい目移りしてしまう。
給料日までセフィロスに馬鹿にされていた財布の残高を確認する。

「え…」

明らか所持金より3万ギルプラスされている。
そんなことをするのは1人しか居ないし、この間10万ギルを突き返したばかりというのに。
ご丁寧にメモまで残してあり、《これでちゃんと食事をしろ》と。
10万ギルだったらさすがに財布の分厚さで分かるだろうけど、このくらいなら全く気が付けなかった。
セフィロスはそれも見越してこの額を入れたんだろうけど。
…今回ばかりはありがたく頂戴させてもらおう。

実は先ほどからクレープやらアイスやらの誘惑が多く、迷っていたところだ。
給料日がきたらセフィロスに何かお礼に何かを作るか、買えばいいか。
そんなことを考え、再びうろついているとポケットに入っている携帯が着信を知らせた。
画面を見ればそれはまさかの人物で、慌てて電話に出た。

「どうしたの?ジェネシス」
『今日は休みなんだってな』
「そうだけど…4番街で買い物してるの」
『すると昼過ぎには帰ってくるか』
「そりゃあ、夕方までにはね」
『お前、舞台に興味はあるか?』

舞台?そりゃあ興味はあるけれど…。
そんな舞台を見るようなドレスコード用のドレスなど持っていないため行ったことはない。

「見たいことは見たいけどドレス持ってないし」
『よし。じゃあ、今夜8番街に18時に来い。LOVELESS見に行くぞ』
「ええ?!いや、すごく行きたいけどドレス…」
『8番街に18時だ』
「え、ちょ」

通話が終了され、「だから何であんたらは勝手に切るんだ!」と叫びながら携帯を投げようとしてなんとか自制した。
セフィロスといい、ジェネシスといい…自分の用件を伝えると相手の了承もなく電話を切りやがって。要件人間め。
1stは人の話しを聞かないのか?いや、アンジールはちゃんと通話終了前に挨拶をしてくれるし、普通はそうだ。

舞台は確かドレスコードが必要だった気がする。
ドレスなんて持ってないし、用意できるようなお金もない。
でも、時間と場所を言われて無理やり切られたらこちらとしては無視できない。
ましてや一応は先輩だ。ん?上司か?
あ、セフィロスに報告しておいた方がいいか。

今日はジェネシスと舞台鑑賞するから夜遅くなるよ。
そうメールを送るとすぐに電話がかかってきた。

「はい」
『どういうことだ』
「どうもこうも…ジェネシスから電話がかかってきて、見に行こうって」
『…あいつ…』
「ん?」
『俺も行くからな』
「え、セフィロスが来たら舞台どころじゃ…って切るなよ!!」

また途中で通話を切られ、頭の血管が切れそうになる。
どうして切るかな!話し中だったよね今!
そもそもセフィロスがそんな人が集まるようなところにいったら混乱が起きるよね?!
何考えてんだ!まったく!

と伝えたところでセフィロスは聞く耳を持たないだろう。
盛大に溜息をつき、心を落ち着かせるためティータイムとすることにした。


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