金色の女神
ザックスの葛藤  [ 75/83 ]


雑誌をしまう音が聞こえなくなり、ザックスは名前の方を見た。
何やら一つの段ボールを潰すのではなく、黙って蓋を閉めている。
荷ほどきが終われば段ボールを潰すはずだが、蓋を閉めるということは何かが入ったまま。

…はっ!やべー!!!

すぐに名前の傍に行き、段ボールの蓋を開ける。
すると中身は思った通り、自分のお世話になっているものがずらりと入っている。

「名前…忘れてくれ」
「う、うん」

名前の顔を見ると恥ずかしそうに顔を赤くしながら、こっちを見てきた。
考えてみれば、名前ってほんと綺麗だよな。
でも、いつもセフィロスにイロイロとされてるはずなのに、こういう雑誌とかで赤くなっちゃうとか…
ちょっとかわいいな。

恥ずかしそうに視線を逸らす名前の長い睫と、赤く染まった頬、自然と近くにある唇に目がいった。

しばらく女の子とキスしてねえなあ。
そういえば、改めてこう見てるとすげえ美人だよな。
化粧もしてないのに透き通るような白くてきめ細かい肌に、長い睫、自分と同じ魔晄を浴びたブルーの瞳…まさに整った顔だ。

名前とキスなんて…ああ、セフィロスが羨ましい。
そのまま視線は少し下に。

少しふっくらとした胸元。
まな板とか言われたりしてて、レノとよく喧嘩しながら胸をコンプレックスに思っているのは知っているけど。
きっとヤる時も恥ずかしそうに隠すのかなぁ。

「ザックス?」

座っている名前が立ってる俺を見上げる。
俺のオカズを見つけて恥ずかしさによるものか、頬を少し赤くした名前。
その位置はまさに俺の息子あたりに顔がある。
ゴクリと喉を鳴らした。

きっと咥える時もこんな感じ…

ザックスはハッとしてすぐにしゃがみ込んだ。
いきなりしゃがみ込んだザックスに名前が驚いて、声を少し大きくした。

「ねえ大丈夫?!体調悪くなった?!」
「あ、いや、そ、そうじゃないんだ…」
「顔色悪いよ?あ、セフィロス。ザックスがいきなりしゃがみこんで…」

ザックスは一気に血の気が引いた。
まずい、セフィロスにこの状態がバレたら殺される。

「あ、ち、違うんだ。別に体調悪くなんか…」
「…だったらさっさと立ち上がって作業を再開しろ」
「い、いや、立てないってつーか…あ、足がつって…」

歯切れの悪い言い方にセフィロスは顔を顰めた。
しゃがみ込んで両手で股間を押さえているザックスに、セフィロスは一つの答えに導かれたのだ。
舌打ちをして、二人に近寄ってきた。

「名前、なんでそんな顔赤くしている」
「え?!い、いや…その…」
「…まあ、いい。お前はアンジールの手伝いでもしてこい」
「う、うん」

ああ…行かないで…旦那と二人にしないで…

ザックスがそう願っても、手を伸ばすにも伸ばせずに恐る恐る自分の前に立つセフィロスを見上げた。

「…だ、旦那?」

首根っこを掴まれて、立たされると慌てて両手でソコを押さえた。

「ち、違うんだ!これは!」
「いい度胸だ。俺の女で妄想するとは」
「ち、ちげえ!」
「何を妄想したのか言ってみろ。内容によっては許してやる」

その目は絶対に許す気がない目です。
むしろモンスターを見る目ですよ、英雄様。
この場に正宗があったらきっとすでに自分の首筋に刃先が向けられていたことだろう。

ザックスは言うまで見逃してくれなさそうなセフィロスに、納まってきた下半身から手を離してびしっと敬礼をした。
もうどうせ半殺しにされるなら、男らしく堂々と言ってやろう。
まるで任務報告をするかのように、背筋を伸ばしてセフィロスの目をみながらはっきりとすべてを報告をした。

「キスしたいとか、ヤってる時は恥ずかしそうに胸を隠すのか、咥えられたらどんなかって妄想してました!」
「覚悟はいいみたいだな」
「ひっ!ぎゃあああああ!!」








「え、サンダガ?」
「あいつら…人の家で…」
「まあ、セフィロスのことだからザックスに限局して放ったんだと思うけど」

セフィロスの言われた通り、昼食の準備をしているアンジールの横でサラダの準備をしながら言った。
きっと、あの雑誌を持ってきたことに怒ったのかな?
年頃の男の子なんだから、そんな怒ることでもないと思うんだけど。

「よく分かんないけど、男って思ってたより複雑だね」
「男の俺の前で言われてもな」
「ははは。ただの独り言だと思って聞き流して」

昼食前に気絶しているザックスにケアルガをかけてあげて、復活したザックスになぜか平謝りされた。
その後にアンジールの用意した豪華な昼食を食べて、今はケーキでコーヒーブレイクだ。

「それにしても、すごいマンションだね。さっきセフィロスの家に居た時、ザックスの煩い声が全く聞こえないし」
「まあ、1stの寮だからこそ防音もしっかりされている。普通の防音程度ではソルジャーで強化された聴覚で拾えてしまうからな」

アンジールのその言葉を聞いて少し安心した。
セフィロスはよく声を聞きたいと、行為の時に声を出させるが完全防音と聞いたら今までのも聞こえてないはずだ。
名前の安心したような表情にセフィロスが口角を上げた。

「安心したか?」
「何に!い、いや、言わなくていい!」

エスパーなのか?
この人はエスパーなのか?

笑いだすセフィロスを横目に目の前のリモコンを取ってテレビをつけた。
この間の遠征のニュースが流れ、やはり出てくる英雄という単語とセフィロスの姿。
しかし、瞬時に手元からリモコンを取り上げられてテレビを消される。

「あ、ちょっと」
「テレビを見るくらいなら帰るぞ」
「英雄の活躍見たかったなぁ」
「この間の遠征の特集だったなー。やっぱいいなー英雄」

ザックスの発言にセフィロスがため息交じりに言い返した。

「お前がなればいい」
「ほんと相変わらずだな」

普段から英雄という称号をよく思ってないのは知って、アンジールは苦笑した。

「でも、ザックスもアンジールもジェネシスも英雄に憧れてソルジャーになったんでしょ?」
「むしろほとんどのソルジャーがそうだろ」
「一般兵にもそれでソルジャーを目指している者も多くいるしな」
「すごいねー、英雄セフィロスさん」

ケラケラと笑う名前の頬をセフィロスが摘まんだ。
「なにするんだ!」と腕を払おうとすると今度は両手で両頬を摘まんだ。
摘まんでいる腕を掴んでも全く解放する気がないらしい。

「いひゃい!」
「もう黙るか?」
「ひゃい!」

やっと解放されて両頬を擦った。
そしてぼそっと呟いた。

「怪力暴君クソ英雄…」

セフィロスの綺麗な眉がピクッと動いた。
一瞬で肩に抱きかかえられて、立ち上がった。

「わあっ!」
「じゃあな、アンジール、ザックス」
「あ、ああ」
「ちょっと!まだ二人と話したいよ!」
「これから毎日隣に居るんだ。いつでも話せるだろ」

家を出て、隣のセフィロスの家へ着くと、突き進むのは寝室。
名前は本格的に暴れて抵抗した。

「ちょっとやだ!まだ寝たくない!」
「寝かせないから安心しろ」
「そうじゃなくって!下ろしてよ!」
「ああ」

ドサッと勢いよく下ろされたかと思うと、フカフカのベッドの上に下ろされたのだということに気が付いた。
すぐに起き上がり、両手で迫りくるセフィロスの体を押した。

「ちが!ここに下ろさないで!」
「我がままな奴だな」
「ねえ!契約を忘れたの?!」
「…」

ピタッとセフィロスの体が止まり、立ち上がったかと思うと一枚の紙を取り出してきた。
そして、マテリアが光り、瞬時に燃えカスになっていく。
茫然と眺めていた名前は我に返りベッドから降りて壁際に逃げながら、ドアの方に立つセフィロスを睨んだ。

「け、契約をなかったことにすると…」
「何のことだ」
「一週間禁欲の!」
「知らんな」

じりじりと横歩きでセフィロスと距離を取ろうとする。
一か八か、セフィロスの横を走り抜けるか…。
明日は休みだけど、ショッピングに出掛けたい。
こんな時間から始めたら、確実にその行為は長くなる。

「は、早めに終わらせてくれる?」
「…さあな」

無情にも寝室のドアをセフィロスが閉め、上を脱ぎ始めた。
その露わになった肉体美に思わず目が奪われたが、それどころではないと慌てて首を振った。
名前は引っ越し用に動きやすいようにとTシャツにショートパンツだ。

無言でセフィロスを見つめ、必死に考える。
この寝室に逃げ場はウォークインクローゼットか浴室。
あとはリビングに続くドアだけだ。

さて、どうするか。


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