金色の女神
契約変更します  [ 70/83 ]


呆れたアンジールに執務室へ行くよう言われて、鼻歌を歌いながら執務室に向かった。
もちろん、タークスのデスクに隠してた誓約書を持って。
あまりのご機嫌さに隣のデスクのレノとルードに気持ち悪がられたが、今はそんなことも笑って過ごせる。

これで過度なスキンシップはなくなるだろうし、エッチがしばらくないとなれば体もゆっくりと休めるだろう。
たまには一緒にくっつきながらただ寝るのもいいし、あの付き合いたての頃のように。

セフィロスの執務室の呼び出しを押すと、名乗ってドアが開けられる。
デスクの横に立って書類を眺めていたセフィロスが、書類を置いて腕を組んだ。

「あれはお前が自分で回避したわけではない」
「でも、誓約書には誰がとか書いてないし。あれれ?神羅の英雄とも言われるお方が契約違反をされるおつもりで??」

まるでセフィロスより立場が上になったようで気分がいい。
誓約書を目の前に出して、綺麗なサインが書かれている箇所を指さした。

「どなたのサイン?」
「…調子に乗るなよ」
「あー!キス禁止だよー!!」

近寄ってくるセフィロスに後退しながら名前が誓約書を顔の前に持って行った。

「…一か月後…立てなくなると思え」
「今を生きる人間なので」
「…嫌と言っても犯してやる。何度でも、何度もな」
「うぐ…そ、そんなの」
「遠征や任務で嫌という程、お前の体がよく知っているだろう?我慢した後の俺を」

そう。あの二か月ぶりにした時や、ついこの間の遠征の時もそうだ。
我慢すればするほど、どこでもしたがるし…家であれば服を着る暇もないぐらい求められる。
だが、せっかく勝負に勝ったというのに何もないのも納得がいかない。

名前が考え込んでいると、いつの間にかセフィロスに密着されている。

「ちょっと?」
「キスはしてないし、セックスもしてないだろ?ただ抱きしめているだけだ」
「…」

何も反論できない。思考を戻そう。
そう、我慢すればするほど回数は多くなるし、声が聞きたいとかで何度も何度もイかせられる。
そういえば、レノの持っていた雑誌にも男性は小まめに出していれば性欲は薄まっていくとかあったような…ないような…。

「…じゃあ、えっちは一週間我慢して、キスぐらいなら…いいよ」
「契約成立だな」
「んんっ」

さっそくか!
顎を持ち上げられ口を塞がれる。
このキス好きなんだけどね…

そう思いながら両手をセフィロスの首の後ろへ回す。

「んっ、ふ…はっ…んんっ」

呼吸も奪われるようなキスに翻弄されて、力が抜けていく。
逃げる舌を追いかけられて絡め取られる。
卑猥な水音が耳を責め立てて、羞恥に顔を染める。

ドサッと音がして、ソファに押し倒されたことに気が付く。

ん?エッチ禁止と言ったよね?

「は、んんっ」

肩を突っぱねようとしてもキスは終わらず、押し倒されてはいるけど確かに触れては来ない。
でも、いつまでキスされるんだ。

「はっ…んんっ…も、もうっ…」

漸く離れたかと思ったら、お互いに呼吸が乱れていて、セフィロスは名前に跨りながら上体を起こして笑った。

「触れなくていいのか?」
「…いいんです」
「そうか…まだまだ体の調教が必要だったみたいだな」
「っ!なにそれ!」
「キスをすれば俺を求めるぐらいに」
「そこまで淫乱になりません!」

恐ろしい男だな!
そう思いながらその愉快そうに笑うセフィロスの顔に私は呆れた。

「…下着は変えなくて大丈夫か?」
「っ!大丈夫よ!!」

顔をかあっと赤くすれば、セフィロスが楽しげに笑いだす。
先程まで立場が上になったと思えたのに、さっそく立場が逆転している気がする。
仕事中であることを思い出して、体を起こすとソファから降りた。

「ほんとに仕事あるんでしょ?手伝うから」
「ああ…切り替え早いな…」
「遅刻した分しっかり働いてください、上官どの」




ひと段落ついてパソコンに集中していた視線を外し、体を伸ばす。
その様子に気が付いたセフィロスが後ろから画面を覗いてきた。

「終わったか」
「うーん、ここまで終わった」
「上出来だ。そろそろ定時になるし帰るか」
「うん。え?一緒に帰る気?」
「…今日の朝のやり取りを覚えてないのか。うちに来ることになっていただろ」
「あー、そうだった…ねえ、じゃあセフィロスの家でドラマ見ていい」

すごい嫌そうな顔をしたが、溜息をついて「ああ」と短い返答をくれる。
夕飯を…と考えて気が付いた。

「あ!私の財布返してよ!」
「お前の薄い財布か」
「一言余計だよ!」

セフィロスが楽しげに笑ったからつい怒る気も失せて立ち上がった。
引出から私の財布と思わしきものを取り出して渡される。

ん?なんか分厚くなっているような…

「あまりに見るに堪えない中身だったから足しといてやった」
「失礼な!い、いらないよ!なにこれ!10万ギルも入ってるじゃん!」
「指導者からのボーナスだ。受け取れ」

いや、そんなの嫌だ。
恋人からお金を巻き上げるみたいで。
財布から足されている10万ギルの札束を突き返す。

「私にも一応プライドがあんの!」
「なら、給料日まで毎日うちに来ると約束しろ」
「何でよ!」
「給料日までその財布の中身じゃ夕飯食べないつもりだろう」
「うっ…」

確かに朝食と昼食を食ってくのが精いっぱいの残高だ。
そもそもここまでお金ないのは日々、飲み代やら奢ったりするせいもあるのだが。
戸惑っている私の姿を見て、彼は溜息をついた。

「俺はお前の何だ」
「…恋人」
「なら、男の俺に少し頼れ。男を立てることもできないのか」
「…ありがとうございます」
「最初からそういえばいいんだ」

10万ギルは受け取ってくれたが、これから毎日行くとか…
ファンクラブとか、大丈夫かな。
執務室を後にし、エレベーターを待っている間にセフィロスが肩を抱き寄せて密着させられる。

「ねえ、あんま会社でくっつきたくないんですけど」
「真面目だな」
「いや、そういうわけでなくてですね。常識というものを」
「社内恋愛が禁止されているわけでもあるまいし」
「いや、それはそうなんですけど」

確かにソルジャーフロアでイチャついているカップルや食堂でイチャつくカップルもいますけども。
恥ずかしさとかないのかな。
私は一年たっても恥ずかしいものは恥ずかしい。

「…もしかして、今までの女の人もそうだった?」
「いや。俺自身が引っ付かれるのが嫌だった」
「じゃあどこでどうなってこうなったんだ…」
「お前と付き合うようになってからだな」

だからだからそれはどうしてなんだ!
額にキスされて、そのまま肩に手をのせられたまま二人でエレベーターに乗り込む。
もういいや。何言っても聞かないんだから。

1stの執務室から地下駐車場のボタンを押して、そのまま降りていくと高音の到着音が鳴ってソルジャーフロアに着いた。
名前はすぐに離れようとしたが、この男は力を弱めるどころか離れないように密着したまま力を入れ始めた。
あっと思った時には遅く、定時終わりの時間だ。
当り前のようにエレベーター前には大勢のソルジャーが驚いた顔で見てきた。

名前は固まって、向こうも固まる。
唯一、セフィロスだけが口を開いた。

「乗らないのか?」
「あ、いえ、失礼します」

何名かのソルジャーが乗り込んできて、ドアが閉まると顔の見たことある2ndが恐る恐る聞いてきた。

「名前、お、お前…セフィロスさんと…」
「…」
「付き合ってる。広めていいぞ、俺が許す」

名前の代わりに淡々と答えたのはセフィロスだ。
もう呆れて声が出ない。涼しい顔しているセフィロスの顔を口をパクパクして眺めるだけしかできない。

いや、許すとかほんと何様だ。

もちろん、その2ndだけではなくこのエレベーターに乗っている大勢のソルジャー全員が聞いているはずだ。

ああ…きっともう…ソルジャーには広まった。


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