金色の女神
社長出勤の英雄  [ 69/83 ]


入って早々にヴェルドが驚いた顔で見てきた。

「今日はソルジャーで待機だ」
「…」
「ラザード統括の下へ任務を確認しに行け」

執務室を見渡すと確かにタークスのメンバーがたくさん揃っている。
でもそんなこと言われてたっけ。まあ、いいや。
頭をぺこっと下げてさっさと出ていくと、更衣室でソルジャーの制服に着替えた。
メール連絡が来てないということは任務はないんだろうけど、まあ、一応ラザード統括のとこに行こうか。

ソルジャー司令室に着いて、部屋を訪問するとラザードは待っていたかのように嬉しそうに笑った。

「今日からしばらくソルジャーとして本社待機を頼むよ」
「そうだったんですね…」
「それと、セフィロス知らないかな?まだ出社してないみたいで」

なんてこと。あの後もしかして二度寝したのか。
名前はどう答えようか悩んでいると、ラザードは言葉を続けた。

「実はアンジールとジェネシスにも聞いたんだけど…昨日家に帰ってないみたいなんだよね」
「…2ndの寮に居ます…」
「そうだと思ったよ。君からも電話してもらっていいかな」

本当に何様だ!
名前はすぐにセフィロスにかけると、その主は寝起きの掠れた声で漸く出てくれた。

「おはようございます。今すぐ支度して出社してください!」
『…お前が起こしに来たらな』
「散々起こしました!甘えないでください!!」
『声でかいな。耳が痛い』
「もっと大きな声で怒鳴りますよ!」
『分かった。今から行く』

電話を切ると溜息をついて頭を下げた。

「私の指導官がご迷惑をおかけしました」
「ふふふ、しっかりした部下で良かったよ。今日、2nd達はアンジールに訓練してもらってるみたいだよ」
「やった!じゃあ、訓練室行ってきます!」

久しぶりにアンジールの訓練に参加できる。
スパルタではあるが、彼の指導や戦術は勉強になる。
何より親身になってやってくれるから尚更だ。

訓練室へ入ると、ウォーミングアップにみんな走り込みをしているところだった。

「アンジール!私もご指導お願いできますか!」
「おはよう名前。今日はこっちだったんだな」
「うん。アンジールの訓練は久しぶりだから楽しみ!じゃあ、私もみんなと走り込みしてるね!」

パタパタと走っていくレミの後ろ姿を見て、アンジールは笑った。
この間のお泊り会から距離が急激に縮まり、敬語もなく親しげに離してくれる姿はつい可愛がりたくなる。
もちろん、セフィロスのような可愛がり方ではなく、あくまでも部下としてだ。

2ndの中に合流するとすぐに仲間と笑い合って輪の中へ入っている。
性格も明るく、人懐っこいため可愛がられていることが多いが、容姿を見てやはり手を出そうとするソルジャーは後を絶たない。
本日の訓練も新人の2ndも居るため、セフィロスとの関係を知らない者も居るだろう。

アンジールは興奮している2nd達に剣を握らせた。

「ん?名前、ロングソードを使うのか?珍しいな」
「それが朝、バタバタしてて忘れちゃって」
「寝坊かー?」
「ちゃんと起きたよ。私はね、でも…友達が来てて友達が全然起きないの」
「マジか。名前んちに泊まりに来る友達ってどういう友達だよ」
「みんなは寝起きいい?起きない人にどうすれば起きてくれると思う?」

素振りをしながら皆で話をする。
起きるのが苦手な男性の意見をぜひ聞きたい。
それを参考に今度からセフィロスをたたき起こしてやる。
あれ、でも、私と出会う前って一人でちゃんと起きて行ってたんだよね?
だとしたら私に甘えてるのか…なんだか自分のせいでセフィロスが悪い方に変わってしまったようで…嫌だ。

「寝起きなぁ…」

「ああ、セフィロス。おはよう」

アンジールの声で全員でセフィロスに気が付き、敬礼をする。

「今日は2ndの指導か」
「ああ。お前も参加するか」
「そうだな…新しい2ndも居るのか」
「半分は新しい奴だな」

「なあ、名前」
「なにザックス」
「セフィロス持ってんのお前の刀じゃね」

ザックスの言葉通り、正宗と並んでいるためか小さく見える自分の愛刀が腰に括ってある。

や、やばい。ネクタイの二の舞じゃん…。
以前、忘れて行ったと関係を知られていないレノの前でネクタイを家に忘れて行ったと堂々と渡してきたが。
そのせいで名前にセフィロスとの関係を知られた。

「新しい奴か…」
「お前達、少し休憩だ」

アンジールの言葉で全員が壁際に座ったり、飲み物を買いに行ったり、汗を拭いたりとバラけた。
名前もザックスの腕を引っ張ると自販機へ向かった。

「何、もしかして泊まりに来てたのって旦那?」
「そうだよ。もうびっくりしたんだから…しかも、朝起きないし」
「それで忘れてきた武器を旦那が持ってたわけね」

ザックスはセフィロスのこと旦那って言ったりセフィロスって言ったり、なんだか統一しないな。
そんなこと思いながら微炭酸のスポーツ飲料を胃の中に流し込んでいく。
汗をかいた後はこの飲み物に限るわ―とか思いながらザックスを見る。

「お前美味そうに飲むよな」
「美味しいよこれ。飲む?」
「間接チューになんだろ!少しは意識しろよ!」
「わざとよわざと」

クスクスと笑って訓練室に戻ると、後ろからそのやり取りを見ていた新人2ndが声をかけてきた。

「なあ、お前ら仲いいよな」
「ん?そう?」
「まあ、俺ら2nd歴なげえし?」
「確かに、万年2nd」

ケラケラ笑うが悲しくなってきた。
二人と背後に居た2nd達は少し頭を下げ、アンジールとセフィロスの前を通り、中へ入っていく。
ザックスとともに肩を落としているとその2nd君達はとんでもないことを言い出した。

「お前ら付き合ってんだろー!」
「なんつーこと言うんだお前!」
「そ、そうよ!」

しかも、セフィロスの前で!
二人して顔を見合わせて、名前は恥ずかしくなって顔を赤くしてしまい、更に2ndにからかわれる。

「ほらー、名前だって満更じゃなさそうだぞ」
「顔赤くして」
「だからやめろってお前ら!」

アンジールが溜息をついて、セフィロスが歩き出すと名前とザックスの顔に焦りが見える。
とにかく良からぬことが起きそうで名前は走り出した。
その途端にセフィロスも走り出す。

「な、何で、追いかけて、くるんですか!」
「忘れ物を渡してやろうとしているだけだ」
「いいですいいです!来ないでください!」

ソルジャー達は茫然とそのやり取りを見ている。
名前は仕方なく、向き合って戦う決心をつけた。
構えて、蹴りを繰り出してみる。
もちろん簡単に避けられて、足元へ回し蹴りが来たが飛び避けて後退して間合いを取った。

「すばしっこい奴だ」
「セフィロスさんこそ、大きい体なのにどうしてそんな素早いんですか」

セフィロスが地面を蹴り、手を伸ばしてきたためその手を弾いて鳩尾目がけてカウンターをするために拳を振り上げた。

「もらったー!」

だが、もちろんその腕を掴まれて動揺した私の足を引っ掛けると、床に倒れる前にセフィロスが抱き上げた。
一瞬の出来事過ぎて頭が真っ白になっていると、口角をあげ、至極楽しそうなセフィロスの顔が近づいてくる。
あ、これキスされると思った瞬間、セフィロスの肩をアンジールが掴んで引きはがした。

「こんなところで盛るな」
「離せアンジール」
「…やった…」

ポツリと名前が呟いた。
アンジールの手を振り払って立ち上がったセフィロスとその隣に居るアンジールが首を傾げた。

顔を上げて名前は人生で最高の笑顔を見せた。

「今、回避できたよね」
「…」
「何がだ??」
「アンジール!今、この方は私に何をしようとしました?!」
「そ、それは…」
「そうです!あれです!そうなんです!ひゃっほー!勝ったーーー!!!」
「…アンジールの手によってだろ。ノーカウントだ」

セフィロスを無視し、名前は全身で喜び、ザックスが笑って近寄ってきた。

「おめでとう!」
「ありがとうザックス!ついに勝てたよ!」
「だな。いやー、アンジール、後で俺が説明すんよ」
「そうしてくれ…」
「ささ、訓練再開しましょう。指導お願いしますよ、セフィロスさん」

何も言わせずにこっそりとセフィロスの腰から刀を奪い、他の2nd達の元へ戻っていく。
その後ろ姿を見て、盛大に溜息をつくとザックスを睨んだ。

「貴様らのせいだ」
「ひで!阻止したのはアンジールだろ!」
「???よく分からんが、訓練付き合うだろ」
「やる気失せた。訓練終了後にあそこではしゃいでる俺の部下を執務室へ来させろ」
「あ、ああ」

不機嫌そうにしたセフィロスはさっさと訓練室を出て行った。
アンジールは戸惑うだけで、その後にザックスに経緯を説明され本日何度目かもわからない盛大な溜息をついた。


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