金色の女神
私はあなたのように偉くない  [ 68/83 ]


4人でヘリに乗り込んでからも沈黙が続く中、名前がセフィロスを睨みながら口を開いた。

「私がキスを10回、回避したら禁欲よ。そうね…1か月は禁欲してもらおうかしら!」
「むしろ1回でも回避してみろ」
「…大した自信ね」

腕と足を組みながら鼻で笑われる。
かなりの自信があるらしい。
名前は一枚の紙を取り出し、誓約書と書き始めた。

1回のキスを回避達成できた場合、1か月間のキス及びエッチの禁止
一か月間とは、任務期間で離れている間は含まない

自分の名前を下へ書き込み、セフィロスにペンとその紙を差し出した。

「さあ!サインして!」

その用紙を読んで、くくくっと笑うとレミの隣にサインをした。
綺麗な字で書かれたサインを見て、名前は満足気に微笑んだ。

「楽しみだな」
「ほんとね」

目の前のやり取りを呆れて見ていたザックスは盛大な溜息をついた。

「お前の先輩は大物だぞ」
「そうみたいだな…」

すっかり大人しくなったロッドはザックスの呟きに強く同意した。
セフィロス相手にビンタをし、禁欲を課す。
しかも、あんな敬語使って冷静だった女は英雄相手に強気に言い返している。
内容はおかしな痴話喧嘩だが、相手が相手だ。
世界の英雄ともいえる人物に誓約書まで書かせて…もはや、難易度の高い任務だと言えるのではないか。

「俺、センパイが負けるに100ギルかけるよ」
「それを言うなら俺もセフィロスが勝つに100ギルかけるよ」
「賭けにならねえ…」
「何よ!見てなさい!」








ヘリが到着し、4人でそれぞれのフロアへ降り立った。
ロッドを連れてタークス執務室へ着くと、さっそく指導報告書に取り掛かった。
ほとんどヴェルドへ報告した内容ではあったが、いつもの報告書よりスムーズに終わりそうだ。
カリカリとペンを走らせながらセフィロスとのことを思い出す。

でも、禁欲とか自分こそ我慢できるのかな。
エッチはちょっと控えてもいいけど、キスは好きだし…それこそあの蕩けるようなキスも大好きだ。
うーむ…でも、家であればすればいいんだし。問題は会社内であって。
いやでも待ってよ…エッチは家でもちょっと多い気がする。

やっぱり少しは禁欲をさせてみよう!

報告書を仕上げて、ヴェルドに提出すると「ご苦労」とだけ言われ帰り支度を始める。
時間は定時を大幅に過ぎた夜間だ。
ロッドとヴェルドに声をかけ、エレベーターを待った。

昨日は夜遅くまでDVDを見てしまったため眠気が襲ってきた。
帰ってシャワー浴びたらすぐに寝よう。



寮の前に着くと嫌な予感がしたため、一応車の確認をする。
高級車は止まってないし、神羅の社用車も止まってない。
外から自分の部屋の電気を確認したが、真っ暗なままだ。

この嫌な予感は気のせいか。

家のドアを開けて、すぐに制服を脱いでいきシャワーを浴びることにした。
更衣を済ませて、ドライヤーで髪を乾かした後に浴室を出た。
眠すぎる体をすぐにベッドへ沈めて、枕元にある電気のリモコンでスイッチを切った。
携帯でアラームを設定しようと画面を見れば、不在着信が一件。
メールでその相手におやすみとだけ打って、アラームを設定するとすぐに意識を手放した。


「ん…」

何時か分からないが、まだ外が暗い。
息苦しさを感じて眠くて重くなっている瞼を持ち上げた。
それはキスで塞がれていることに気が付くと、驚きで口を開けてしまう。
その瞬間を逃すまいと温かい舌が入ってきて絡まれた。
肩を押し返そうと力を入れたが、びくともしない。

散々口内を犯され、呼吸を乱されたまま突然の侵入者を睨みつける。

「はぁ、はぁ、何で…」
「電話に出ないでメールでおやすみだけとは、ずいぶん冷たいな」
「んっ、だって眠いし…疲れてて…」

くくっと低い声で笑われたと思えば、そのまま横に抱きかかえる様にして寝転び始めた。

「あれ、ここで寝るの?」
「会社でシャワー浴びてここでちゃんと着替えた」
「そっか…」

色々聞きたいことは山ほどあったが、もう眠気が限界にきた。
ぼやーっと見えるセフィロスの唇に自分からキスをして、すぐに意識を手放した。


朝になり、名前はアラームの音で目覚めて目の前の整った顔に驚き、鼓動を早めた。
寝起きにこの端正な顔を見るのはいまだに心臓が慣れてくれない。
体を起こしてアラームを止めると、隣を見た。
まだすやすやと眠っているセフィロスを見て、溜息をつくとベッドから抜け出して朝食作りに取り掛かった。
作り終えて、二人分のコーヒーを入れるとその大きな体を揺さぶりながら声をかけた。

「ねえ、起きて。もう朝だよ」
「…眠い」
「分かってるけど、ご飯食べて支度しないと」
「…」

くそ、低血圧め。
一緒に寝ていて、いつもこの寝坊助を起こすのが一苦労。
腕で目元を隠し、仰向けになって再び寝息が聞こえてくる。
一度起こすのを諦めて朝食を食べてタークスの制服に袖を通す。

そろそろ起こして着替えさせなければ。

「おーきーて!」
「煩い」
「あ!ちょっと」

腕を引っ張られてセフィロスの体の上に乗りかかり、抱きしめられる。
頬に手をやって今度はペちぺちと叩いた。

「二人で遅刻は嫌だよ。せめて一人で遅刻してよ」
「…」

また眠りついたのか起き上がろうと両手を突っぱねると、腰に回されている腕に力が入ったのを感じる。

「起きてんじゃん!もう!ふざけてる時間はないんだって!」
「…一緒に遅刻すればいい」
「どっかの誰かさんみたいに社長出勤なんてできないの!ほら!英雄さん!起きて!」

英雄さん!と何度も呼べば不満そうに顔を顰めながら目が開けられた。
やっと起きたと思ったがその瞳はまた閉じられた。

珍しいな。ここまで起きないのも。

「行きたくない…」
「ははーん。さては長期休みのせいで仕事行くのが億劫になったんだな」

昨日はザックスとアンジールが居たため、強制的に行く羽目になったが。
長期休みの後の仕事は嫌だという感覚を持っているとは、英雄といえでもやっぱり人間なんだな。
しかも、この人がこんな長期間休むことってなかったんじゃないかな。
クスクスと笑って、セフィロスに優しくキスをしてその下唇を甘噛みした。

「ほら、行こう」
「…そんなキスじゃ足りない」

こいつ起きる気ないんじゃないか。
仕方なく、自分の舌をセフィロスの口内に入れ込む。
絡め取る様に動かしてゆっくりと離していく。

「はぁ…はい、満足?」

今度は視界が反転されて、目の前に銀色の髪がパサッと落ちてきたかと思うと完全に目覚めているであろうセフィロスの楽しそうな顔が見えた。

「何考えてるの」
「セックスしようと」
「朝っぱら、から、ダメに決まっ、てん、でしょ!」

啄む様なキスを何度もされて、抵抗の言葉も途切れ途切れになる。
両手は拘束され、足はセフィロスの体によって動かすことが出来そうもない。
こうなったら唇に噛みつくしか…

キスがピタリと止まり、セフィロスの唇は首筋へ。

「んっ…ダメって!」

首筋にも鎖骨にも痕がつけられ、両手で拘束されている手は頭の上で一纏めにされる。
これは本当にまずい。
視界に入った時計を見れば、まだ間に合う時間ではあるがこのまま流されては絶対に遅刻だ。

「キスしたい!セフィ!」
「…噛みつくんだろ」

鋭いな!なんでバレたんだ!
制服の上着のジッパーが下ろされてシャツの下から胸へ手が侵入してくる。

「ねえ!今やめたら今夜セフィロスの家行くから!」
「…」
「夜に、んっ…いっぱいするから!今は駄目!」
「…」

胸を揉みながらどうしようか考えているようだ。
考えるか、揉むかどっちかにしてほしい。

「いいだろう」
「いつもながら偉そうな態度だ…」
「では続きをするか?」
「いえ!申し訳ございません!」

拘束が解かれ、セフィロスが体を起こすとすぐにベッドから降りた。

「もう先行くから鍵ちゃんと閉めてってよ!」
「ああ」

短い返事を確認し、緩めていたネクタイをしっかりと閉めてシャツをしっかりとズボンの中へしまう。
痕が隠れる様にきっちり着込んで、携帯を持つとすぐに家を飛び出した。

会社に到着すると、肝心な刀を持ってくるのを忘れたことに気が付いた。
まあ、今日は本社待機だし、急な任務が入ったら銃だけは持ってきているから銃で対応すればいい。
そう思いながらタークス執務室へ向かった。


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