金色の女神
一緒に居れば怖くない  [ 66/83 ]


映像に食い入るように見ていたが、ホラー映画を侮っていた。
心臓が爆発するのではないかというほど鼓動を早めていたし、突然の音声に体をびくっと震わせてしまう。
そのたびに後ろから笑いを堪える声が聞こえていたが、無視した。

ザックスに至っては、イチイチ叫ぶためその声にも名前は驚いたりしていた。
セフィロスと離れて見ていたが、自分の背中が怖くなり後ろを振り返った。

「…」
「どうした」
「さ、さっきみたいに座らないの?」
「くくく、抱きしめて欲しいのか?」

セフィロスの言葉に恥ずかしくなって首を横に振って、再び映像に視線を戻す。
アンジールは眠気と戦っているのか、頭がコクコクとなっている。

「アンジール…寝たら?」
「ああ、悪いな。先に寝るぞ」
「な、なあ名前。お前はまだ起きてるよな」
「うん、続き気になるし…」

ザックスは名前が座るベッドサイドの前にズリズリとやってきて、ベッドを背もたれにしながら座った。
名前自身もザックスが傍に居てくれた方が安心できた。

「名前、横になって見ればいい」
「い、いいよ」
「こっち来い」

腕を引っ張られて名前はセフィロスの前に側臥位になり、抵抗もせずに抱き寄せられた。
後ろから包み込まれるように抱きしめられて、布団を掛けられる。
片手は腕枕をしてくれて、もう片方は腹部に添えられた。

映像に集中していると、セフィロスの手が腹部から徐々に足元へ、太ももを撫でまわす。

「…」
「何だ」

振り返って睨みつければ眉間に皺を寄せるだけで、太ももの手は止まらない。
もう無視して映像に集中する。
物語はクライマックスに差し掛かっており、ザックスの叫び声の頻度も多くなってきて、私の体もビクッと震わせる。
それは恐怖映像のせいもあったが、太ももを撫でている手が静かに局部の方に回って来たのだ。

布団で隠れているとはいえ、目の前にザックスが座っているというのに。
避ける様にお尻を後ろへずらすと、お尻に当たる熱のこもったもの。

「…セフィロス」
「だから何だ」

察せよ!と恨みを込めて睨んだが、分かっているであろうセフィロスは鼻で笑うだけ。
もうすぐ終わりそうな映画に集中するためにその手を掴んで触れられないよう、指を絡めて手をつないだ。
やっと映画が終わり、ザックスは振り返って笑いかけてきた。
その笑顔につられて、私もへらっと笑ってしまう。

「名前どうだった?」
「もう怖すぎて…一人で夜歩けなさそう…」
「ほんとこえーのなんのって…旦那も見てたの?」
「ああ。もう寝るぞ」
「ふあーい。おやすみ二人とも」
「おやすみ、ザックス」

そのまま瞳を閉じようとしていたら、体を持ち上げられセフィロスの体の上を通り、壁際に寝かせられる。
ああ、ザックスがすぐ下で寝てるからかな?
体を反転させ、向い合せになるとセフィロスを見上げた。
後頭部に手が回されて触れるだけのキスをされると、小さなリップ音が鳴った。

「…頼むからおっぱじめないでくれよ、旦那」
「なら外で寝るんだな」
「そんなことしません!」

叫ぶように否定して、さっさと眠ろうと重くなってきた瞳を閉じた。



朝、アンジールの作ったホテルの朝食のような食事を済ませ名前は翌日でタークスの制服に袖を通した。
いつの間にかつけられている首筋のキスマークを隠すようにきっちりと制服を着て、ネクタイを締める。
浴室を出れば堂々と着替えるソルジャー三人の姿。

朝から肉体美を見せられて、顔を背けた。

「なあ、名前!誰が一番体つきいい?」
「セフィロスって言うに決まってるでしょ!」
「ちぇー」

いや、ここでザックスとかアンジールとか言ったらどんな仕打ちが来るか分からんし。
満足そうにフッと鼻で笑ったセフィロスに、全員でドアから出た。
周りのソルジャーがそりゃあもう見てきたけど、セフィロスだけでなくアンジールとザックスが居てくれたおかげで疑惑の目では見られなかった。たぶん。
正面玄関からみんなでエレベーターを待っていると、後ろからジェネシスがやってきた。

「何でこのメンバー…」
「ジェネシスさんおはようございます。それが昨日…ふぐっ」
「たまたまそこで会っただけだ」

セフィロスに手で口を塞がれて、塞がれた口よりも密着するように腕が回っているのでそこに焦る。
腕を掴んで剥がそうにもびくともしない。
その腕を離してとでもいうようにタップしてもそのままにされる。

「…まさか、4人で名前か子犬の家でお泊り会とか楽しいことしてないよな?」
「当り前だろ。なあザックス」
「そ、そうだよな、アンジール」
「…でもお前らは昨日、家に帰って来てないよな…」

ジェネシス抜きで名前の家に泊まったなど知られれば確実に面倒なのは、1st組は分かっている。

「俺はこいつのとこに泊まりに行っただけだ。アンジールや子犬とはそこで会った」
「俺はこいつと朝まで飲んでいただけだ」

セフィロスとアンジールが涼しい顔して返答していたが、ジェネシスは納得していない。
エレベーターが来ても離す気のないセフィロスの手を噛みつこうにも歯が届かず、舐めてみる。
しかし、ニヤッと笑うだけで腕を外す気がない。

「んー!」
「それでセフィロスは何で名前の口を塞いでいるんだ」
「ごちゃごちゃ煩いから塞いでいるだけだ」
「名前は事の真相を語ろうとしているのではなく?」
「いや、昨夜俺にされたことへの愚痴だろう」

いやそれもぜひとも言いたいけども!
ソルジャーフロアに到着すると、セフィロスとザックスとセフィロスに腕を回されたまま名前も降りた。
納得のいっていないジェネシスをアンジールが苦笑しながら1stのフロアへ向かう為、エレベーターに残させた。

いまだに腕を回されていたが、さすがに他のソルジャーの目があるため離れようとジタバタと抵抗してみた。

「んんんんー!!(離してー!)」
「ザックス行くぞ」
「そのまんまで行くのか」
「何か問題でも?」
「んんんん、んんんんんー!!(問題、おおありだー!!)」

ものすごい力で離す気のないまま、歩き出した。
他のソルジャーが目を見開いてこっちを見てきたため、セフィロスの腕から手を離して、腰についている銃を取り出した。
その瞬間に口は解放され、構える銃を掴まれた。
その銃ごと抱き寄せられて、距離を詰められればさすがに刀も抜けないし、お尻を片手で持ち上げられて抱き上げられた。
床から足が離れて、反射でセフィロスの首に両手を回してしがみ付いてしまった。

「な、な、な」
「だ、旦那、今日強引だな…」

一体何が起きたのか理解できない。
周りに居るソルジャー達は目の前のやり取りに唖然としてるし、セフィロスは涼しい顔してブリーフィングルームを目指して歩いているし。
名前は目の前にあるセフィロスの耳元で囁くように怒った。

「ねえ、怒るよ!」
「くくく、囁かれるのもいいな」
「ザックス!助けてよ!」
「ま、まあもう着くから」

やっと到着した部屋にはまだ一緒に行く予定の2ndが立ち上がって敬礼した。

「あ、せ、セフィロスさん。よろしくお願いします」
「ああ」

2ndの視線が痛いくらい私の背中に当たっている。
そりゃあそうでしょうね。
セフィロスが抱きかかえる様に私を持ち上げているのだから。

漸く床に足を下ろしてくれて、銃を渡された。
一体何がどうしてこうなったのか理解が出来ないでいると、優しく頭を撫でられた。

「ジェネシスにこいつらが来たことは言うなよ」
「はい…じゃなくて、どういうつもりですか!」

泣きわめいている私を無視し、席に座ったためもう諦めて反対側の席に座る。
ザックスは少し迷った後にセフィロスの横に座った。
すぐにタークス新人のロッドが入ってきて、セフィロスを見て驚いていたが、すぐに名前の隣に座り始める。

「センパイ。今回の任務は俺の任務なんで」
「分かってるわよ。手は出さないつもりだし、なるべく口も出さないわ」
「そうそう。俺のペースでやらしてもらうんで」

新人の態度にザックスが驚いて名前と顔を合わせる。
名前は溜息をついて首を横に振った。
そして、ふと思い出した。

そういえば、この間髪留めもらったんだ。
庶務課の友人に二つの髪留めをポケットから取り出して二つに結び始める。

「あれ、そうしてると可愛いっすねセンパイ」
「そりゃどうも新人君」
「…その新人君ってやめてもらえます?」
「気を付けるわ、新人君」

パソコン画面から目を離さずに言うと、隣の新人は舌打ちをして書類に向き合った。
この新人は昨日から態度が悪かったが、レノや他のタークスに対しては態度が違うのに気が付いた。
つまり、私にだけこんだけ態度が悪いのだ。
相手にするのもバカバカしいが、こうもバカにされたり下に見られるといい気はしない。

ラザードが来ると、セフィロス以外は全員で立ち上がり挨拶も済ませると今回の任務について説明された。

「ソルジャーは1stのセフィロス、2ndがザックス」
「本当に英雄に同行かー!すげえ!座っているからもしかしてって思ったけど」

ロッドの言葉にセフィロスが不快そうに眉を少し動かしたが、そんな変化に気が付くのはザックスと名前くらいだ。
ラザードは苦笑して、ギシッと椅子を軋ませながらロッドと名前を見た。

「ははは、元気だね。彼がタークスのロッドで、補佐として名前がつくよ」
「ま、補佐というかただの監視役?」

ロッドの言葉を無視して立ち上がった。

「じゃあ、行きましょうか」
「センパイ、英雄との任務の経験は?」
「しょっちゅう」
「ふーん…」


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