金色の女神
写真は思い出に  [ 65/83 ]


「そろそろ俺にも敬語抜きで話せばいい」
「でも、アンジールさんは上官ですし」
「1stになるんだろ?それにザックスを見てみろ」

名前は料理を教わりながら食材を切っていく。
鍋に向かってアンジールが笑いながらザックスの言葉づかいについて話し始める。

「じゃあ、敬語を外すようになったら料理を教えよう」
「あはは!もう意外と強引!わかったよ!」

声を出して笑って、アンジールにレシピを教えてもらった。
自炊をして生活をしていたが、こんな手の込んだ料理のことは全く知らなかった。
アンジールが教えてくれる料理は節約も出来て、味付けも完璧だ。
1stって全員が贅沢しているのかと思っていたから、こんな節約レシピを知っているアンジールに驚いた。

「俺は貧乏性なんだ」
「なんか身近に感じる」
「そういえば、お前も自炊してきたんだってな」
「そうなの。もともとスラムで何でも屋やりながら自活してたからね」

私の言葉にアンジールは驚いたように見てきた。

「いや、まあ、一般兵からの出ではないとは思っていたが…」
「すごいんだよ。ある日タークス総出で誘拐に来たんだから!主任やツォンまで!」
「それは…それほどお前が重要視されていたということか」

アンジール自身の納得がいった。
名前の戦闘能力はソルジャーになったからというだけではない。
もともとの戦闘力がなければここまで実力はつかないだろう。

へへへっと照れた笑いをする名前の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「わわ!何を!」
「お前は強い奴だな」
「アンジールから言われるとちょっと嬉しいかも」

「随分親しくなったな」
「ひいっ!」

後ろから抱きしめられて耳元で囁かれたものだから、心臓が飛び跳ねた。

包丁を持っているというのにこの男は。刺したろか!
しかし、そんなことをしようとしても呆気なく回避されてしまうのだろうけど。

「セフィロス、俺にまで嫉妬するな」
「ふん」
「ちょっと、包丁使ってるから危ないっての」

離れる気のないセフィロスをほっといて、引き続き包丁で食材を刻んでいく。
アンジールは呆れたように溜息をついて、名前の後ろから名前の首元に腕を巻きつけて抱き着いているセフィロスに指を指した。

「お前は少しは我慢と節度というものを」
「名前。アンジールの説教を止めろ」
「少しは聞きなさい」

名前が黙るとアンジールは手を動かしながらセフィロスが普段から名前にちょっかいを出し過ぎだと説教を始める。
もはや離れてザックスのもとに行けばいいのにいまだに抱きしめる腕の力は弱まらない。
食材をアンジールへ渡し、味付けしていくのを見ながらメモをし始めた。
今後も作っていきたいし。この料理のバリエーションは本当にすごい。
テキパキと説明をしながらこなしていくアンジールに尊敬の念を感じた。

普段から部下の面倒見の良さもそうだが、そうじゃなくてもこの1st達のお世話も素晴らしいものだ。
やんちゃですぐにあちこちに喧嘩をふっかけ、自由奔放に行動するジェネシスに。
こちらも自由人で言うことの聞かない、唯我独尊で、私のすぐ後ろの人の相手をたった一人でしているのだから。

「アンジールってすごいよね。私だったらジェネシスさんとセフィロスの相手なんて身がもたない」
「最近はセフィロスの世話をお前がしてくれるから助かっている」
「ぜんっぜん言うこと聞かないけどね」
「お前こそ俺の言うことを全くきかないだろ」
「もー、いい加減離れて!」
「嫌だ」

でた!嫌だ嫌だ!セフィロスの嫌だって子どもみたいだけど、してることが全然可愛くない。
料理が出来上がり、お皿に盛りつけてテーブルに並んだ。
色とりどりでバランスのいい料理に思わず携帯で写真を撮った。
これはしっかりと保存しておこう。

ついでにザックスとアンジールの写真も撮った。
楽しそうに笑い合っているこの写真は最高だ。

「なあ、四人で撮ろうぜ!」
「どうやって!」
「腕を伸ばして…ほらみんなでくっつけば」

カメラの音が鳴って四人の顔が見事に撮れた。
その場で全員に写真を送っておいた。

「ふふふ、宝物」
「待ち受け画面にしちゃいてー」
「ダメダメ!誰かに見られたらどうするの!セフィロスが写ってるんだから」
「冗談だよ」

ケラケラ笑うザックスを恨めしげに見て、目の前の料理に手をつけた。



料理の片付けも終わり、今度は全員でザックスも持ってきたゲームをすることになった。
いつものように後ろから抱きしめる様に座って、名前もベッドに体育座りをしながらそのままゲームに夢中になる。
レースゲームだが、何回やっても1位がセフィロスで2位がアンジールで3位がザックス、後はCPが続いて最下位に私だ。
セフィロスは初めてやったと言ってたのに操作方法を教わっただけですぐに出来るなんて、さすがというか、なんというか…。
悔しいため、何度も挑む。

「もう一回!」
「もう飽きた」

セフィロスがコントローラーを置いて、名前の腹部に腕を回して溜息をついた。

「やだ!セフィロス勝ち逃げでしょ!ずるい!」
「じゃあさ、チーム戦にしよーぜ!」
「それがいいな。そうするか」

アンジールまでノリノリなのは驚いたが、名前はコントローラーをセフィロスに渡してにこっと笑いかける。

「よろしくお願いします。セフィロスさん?」
「…俺の指示通り走れ」
「了解」

結果は何度やってもザックスとアンジールチームが勝った。

「セフィロスにまたまた勝った!よっしゃー!!」
「…お前のせいだ」
「いた!噛みつかないでよ!」

首筋に噛みつかれて名前は離れようと体を動かす。
しかし、力強い腕にお腹を引かれて再び姿勢を戻された。

「だー!俺も彼女ほしー!アンジール!」
「勝手に作れ!」
「彼女できたらぜってー抱きしめながらゲームすんだ!」

ザックスの儚い願望に少し可愛そうに思ってしまう。
同情なんてされたくないだろうけど、ゲームに負けている悔しさから毒をはきたくなる。

「可愛そうね」
「哀れだな」
「なっ?!バカにすんなバカップルめ!!」

時計を見るともう深夜を回っていた。
名前は慌てて二人に声をかける。

「ね、ねえ。もうこんな時間だよ、泊まっていく?」
「いいの?!わーい!」
「ダメだ。歩いてさっさと帰れ」
「でも、セフィロスこんな時間だと電車もないし…」

アンジールは何か考えているようだったが、ザックスは泊まる気満々で居る。
一つだけ問題があるが、こんだけ仲のいい二人だったらいいよね。

「シングルの布団が一枚しかないけど、二人とも仲いいからいいよね」
「やっぱりか…」

アンジールが黙って考えていたのはやはり布団のことだったらしい。
でも、ザックスは布団なくても寝られそうだよ。

それを察してなのかもう帰るのを諦めている二人はコンビニで買い物してくると出て行った。

「…」
「いじけないでよ…」

二人が泊まることに納得のいってないセフィロスは先ほどから黙ってベッドで側臥位になり、肘をついて片手に頭をのせている。
不機嫌なセフィロスの唇に触れるだけのキスをして、微笑んでみる。

「好きだから、ね?」
「…」

なかなか機嫌治らないな。
今度は自分も横になって胸板に頬を寄せた。

「セフィ、今のうちにいっぱいキスしよ?」
「…あいつらが居てもする」
「それは勘弁して!んっ」

どこでも誰がいてもキスするんだろうけど。
それにしても相変わらずキスうまいよね、セフィロス。
口の中を優しく撫でまわすように動く舌に、逃げても逃げても追いかけられて。

「はっ…はぁ…」
「考え事とは余裕だな。ほんの一年前はこのキスだけで体をこわばらせていたのに」
「顔を合わせるたびにこんなキスされれば慣れるよ」
「あの頃の初々しい女はどこ行ったのやら」
「…あの頃の優しい男はどこ行ったのやら。キスだけでしっかり我慢してくれてたのに」

一年前のセフィロスが強引に泊まった日を思い出した。
よく考えればよくあそこまでしといてストップできたな。
あの時は何も思わなかったけど、きっとセフィロスの下半身は反応していたに違いないのに。
今では二人きりで濃厚なキスをすれば、ほぼ最後までヤられるのに。

「禁欲に挑戦してみたら?」
「我慢する必要がどこにある」
「アンジールの説教はまったく聞いてなかったのね…」

ドアの開く音が聞こえて慌てて体を起こした。
セフィロスの体から離れて、ベッドサイドに座り直す。
ザックスが嬉しそうに一つのDVDを差し出してきて、名前は受け取った。

「見るの?」
「こえーの借りてきた!」
「へえ!みんな怖いの大丈夫なんだ」
「ソルジャーで幽霊が怖いなんて冗談じゃない」

こんな時でもアンジールは真面目だなぁ。
名前はテーブルをどかして、布団を引き、その隣に敷布団はないため一応掛布団で隙間を埋めた。
こうすれば一応、シングル布団が二枚みたいなもんだもんね。
そしてそれぞれの布団に座ったところでDVDをつけた。

ザックスの提案で電気も消し、名前はベッドに腰掛け、セフィロスは先程の姿勢のまま、側臥位で立て肘で見ることにした。
ホラーDVDを見るのは初めてだが、いつもモンスターや暗殺任務では人間の遺体を目にしているのだから何も怖くはないだろう。
そう思いながら、その映像に集中した。


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