金色の女神
あなたとずっと一緒に居たい  [ 61/83 ]


起きる予定の時間よりもだいぶ早い明け方に、部屋に電子音が鳴り響いた。
こんな時間に呼び出すのは大抵仕事の電話。
ぐっすり眠る名前を片手に抱きかかえたまま二人の携帯に手を伸ばす。

鳴っていたのは名前の方だったが、セフィロスはそのまま体を起こして通話ボタンを押した。

「何だ」

『…名前の携帯にかけたはずだが…』

「寝てる。何の用だヴェルド」

『…帰りにコスタで一件、任務を任せたい』

「休暇中だったはずだが」

『緊急だ。新人が負傷してその新人の保護と遂行できなかった任務を遂行してほしい』

「内容は」

『反神羅組織の殲滅だ。ソルジャー部門にも依頼するからセフィロスも同行すればいい』

「…相変わらず精鋭部隊の名が聞いて呆れる。いい加減、新人もしっかり育てろ」

『…分かっている。だから今回の負傷した新人に教育も兼ねて任務を遂行しろと伝えておいてくれ』

「明日の昼にはコスタに着く。その新人に港で待っているように伝えておけ」

盛大に溜息をついてから、そう言って電話を切った。
相変わらず、タークスはレミに頼り切っているところがある。
暗殺任務もそうだが、緊急で呼び出すのは一緒に居るうちに何度もあった。
そのたびに嫌味の一つや二つ言ってやるが、響いたためしがない。

目が覚めてしまったため、名前にキスをし、布団を肩までかけるとシャワー室へ向かった。



名前は瞳を開けるとふと連日感じていた温もりがないことに気が付いた。
自分を捨てて去ってしまったのではないかと漠然とした不安を感じた。
ガバッと体を起こし、部屋を見渡し、裸のままシャワー室のドアを開けた。

「はぁ…はぁ…」
「どうした?」

髪がまだ濡れたまま、タオルを肩にかけて驚いた顔でセフィロスが見てきた。

「あ、その…居なくなっちゃったかと思って…」

慌てた自分が恥ずかしくて視線を逸らしながら言って、ふと自分が裸であったことに気が付いた。

「あ、やだ、ひゃあっ」
「俺が居なくて不安になったのか」

後ろからシャンプーの香りがふわりと鼻をくすぐり、抱きしめられた。
頷いて返事をし、胸元を両手で隠した。

「ちょっとだけ…驚いただけ…」
「可愛い奴だな、お前は」
「っ」

耳元で囁かれ、体は素直に反応してしまう。
緩くなった腕を解いて、ベッドへ潜り込んだ。

「なんでそんな早起きなの。ここのところ私のが早起きだったのに」
「ヴェルドから電話があった」
「え?!嘘!全然気が付かなかった」
「帰りにコスタで仕事しろとな」
「そっかあ…。まあ、この3日間連絡がなかっただけ驚きだよ」

でも、ヴェルドも嫌だったろうな。
まさかセフィロスが電話に出るとは思いもしなかっただろうに。
今まで、会話中にセフィロスに電話を取り上げられたことはたくさんあるけど、電話に出たのがそもそもセフィロスって。
いやー、ほんと何でもありだなこの英雄様様は。

「…何だ」
「ふふふ、さすが英雄様様はやることが違うなぁって。まさか人の電話に勝手に出て任務内容聞くとか…主任もよく話したな」
「…」

顔を顰めたセフィロスに笑みが零れる。
セフィロスは英雄と言われることにあまり快く思っていないのも知ってるし、欲しくもない称号とも言っていた。
けど、つい先ほどの出来事でお返しをしたくなってしまった。

「英雄…か」
「ん?」

あれ、ちょっと雲行きが怪しくなってきた。
セフィロスの笑みに、名前は身の危険を感じ、頭まで布団をかぶった。

「さて、その英雄とやらが直々に訓練に付き合ってやろう」
「な、何の訓練ですか!」
「全身の運動だな。気持ちよくもなって一石二鳥」
「っ!もうそんな時間ないです!」
「すぐに済ませる」

布団を剥ぎ取られて開始される愛撫に、抵抗する術はなかった。






故郷を後にし、船に乗り込むとセフィロスはマントを脱ぎ捨てた。
名前はタークスの制服を持ってきてはいなかったため、ソルジャーの制服に袖を通した。
セフィロスもいつもの戦闘服で、溜息をついた。

「結局、休暇は3日だったな」
「でも、すごい幸せな3日だったから私は大満足」

へらっと笑うと、鼻で笑われた。

「喧嘩もしたけどな」
「ま、まあそれもいい思い出。また来よう?次は雪遊びしに」
「雪遊び?」
「スノボーとか、雪合戦とか…今度はザックスとか連れて」
「…キャンキャン煩そうだな」
「子犬って雪好きだもんね」

笑って雪景色が遠くなるのを眺めた。

「改めて…セフィロス、これからもよろしくお願いします」
「ああ。後はお前が堂々と恋人宣言すれば満足だけどな」
「それとこれとは話が違います。タークスの新人の前では…」

言いかけて思い出した。
この人、そういえばタークス課に乱入してその時にほとんどのタークスに知れ渡ったとか。

「…あまりタークス課に来ないでいただけますか?ソルジャー1stさん」
「お前がタークスをやめたらな」
「出来たらとっくにやめてますとも!」

好きで兼用してるんじゃないっての!
溜息をついて、笑ってるセフィロスを睨みつけた。






怪我をしている見慣れたスーツ姿を見つけて名前は急いで駆け寄った。
その姿は自分の可愛がっている最年少の子だったからだ。

「シスネのことだったんだ!大丈夫?!」
「すいません名前さん、休暇中なのに…」
「全然気にしなくていいよ!可愛そうに、殴られたの?」
「はい…」

頬を腫らして唇が切れている。
顔でこれなのだから、体にも痣があるに違いない。

「とにかく、部屋で話を聞こうか!」
「同行ソルジャーはもしかして…」

二人分の荷物を持ったセフィロスが名前の後ろから歩いてきて、シスネが驚いている。

「英雄セフィロス!」
「あー…そうなんだよね」
「なぜ名前さんと一緒に?!」
「え…」

あれ、シスネは知らないのか。
名前は慌てて口を開いた。

「ちょっとアイシクルロッジに任務でね!ソルジャーの任務で!ほら、私の指導者だから!」
「そうでしたね、お疲れ様です」
「…」

何か言いたそうな表情でセフィロスが見てくる。
その視線に気が付かないフリをして、シスネの背中を押した。

「まずは任務について話を聞こうかね」


シスネがとっている宿の部屋へ行き、詳細を聞いた。

「コスタの外れに廃屋があり、そこを拠点にしている組織です。人数は少数と聞いていたのですが…思ったより多くて」
「最近そういうのが多いわね…全く…調査は誰が行っているの」
「新人みたいなんです…」
「あー…潜入捜査がまだ経験浅いからか…」
「先輩が行った調査は正確ですが…やはりまだ新人には…」

「そう言いながらこいつに頼りっきりになったら新人は育たない」

ずっと黙っていたセフィロスが長い足を組みながら、書類を片手に不機嫌そうに口を出した。

「そうですよね…」
「うーん…まあ、このことは置いといて。とりあえず、シスネが出向いて人数はどうだったの」
「30人は超えるぐらいかと…」
「ええ?!よく生きて出られたね…」
「先輩のおかげです」
「私?」
「以前、一緒に任務をしたときに時には女を使えって教えてくれましたね。見張りは男性だったので」
「あー…そんなこと言ったかなー…」

セフィロスの鋭い視線が痛い。
確かに以前、女なのだから見張りが男の時には誘惑気味に誘い、裏をつけと教えた。
まだ幼さを残すこの少女に教えるのは酷かと思ったが、意外にも使えたらしい。

「逆上した男に犯されなくて良かったな」
「そうですね…」
「男を見くびらない方がいい。女を使うようになるにはそれなりに経験を積んでからにするんだな」
「ま、まあ、今回はそれで助かったから良かった良かった。じゃあ、準備したら出発しようか」
「はい」
「あ、シスネ。戦闘は私とセフィロスさんでやるから、貴女は補佐として私の傍に居てね」

怪我の具合も心配だが、もし捕虜として捉えられたらちょっと面倒だ。
シスネが素直に頷く姿に胸が締め付けられ、思わず抱きしめる。

「ああ、いつもシスネは可愛いね」
「名前さん!もう!いつもからかって!」
「さっさと行くぞ」

引きはがされるように腕を引っ張られ、部屋を後にする。
廃屋に到着するなり、さっさと突撃したセフィロスにあっという間に制圧された組織。
そもそも、向こうもなぜ英雄がこの小さな組織相手に駆り出されたのか衝撃だったらしい。
名前も少しだけ刀を振り回しただけで、不機嫌なセフィロスの手によって任務を終えた。


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