金色の女神
帰ってきたわたしの家  [ 57/83 ]


アイシクルエリアの港に到着するとセフィロスはすぐにスノーバイクの手配をした。

「すごいね…手早い…」
「ここのエリアはたまに任務で来ることがあった。徒歩での移動は地獄を見る」

セフィロスはもうだいぶ前からソルジャーとして戦地に赴いている。
それこそ子どものころから世界中のあちこちに飛んでいるのだ。
自分よりも雪国のことを理解しているのかもしれない。

バイクに跨り、手を引かれる。

「しっかり捕まってろよ」
「うん」

セフィロスの腹部に両手を巻きつけてその背中に密着する。
サラサラの髪の毛がくすぐったい。

「うちはアイシクルロッジから少し外れたところにあるから、とりあえず今日はアイシクルロッジの宿に泊まろう」
「わかった。あと、名前」
「ん?」
「俺だということがバレたら色々と面倒だ。俺は常に顔を隠して移動する。人前で俺の名前も呼ぶな」
「りょーかい」

確かにこの小さな町であの英雄が来たとなれば騒がしい3日間になってしまうに違いない。
せっかく二人きりの旅行なのだからそれだけは勘弁してほしい。

街に着くころには日も沈んで辺りは真っ暗になっていた。
宿に到着し、3日分の宿泊をお願いし、3日後の帰りの船も予約しておいた。
行きはコスタからであったため一日で来れたが、帰りはコスタで乗り換えてジュノンへ。
ジュノンからは車で長時間の移動でやはり二日間は帰りのために取っておいたほうがいい。

頭からマントをすっぽりとかぶり、セフィロスは名前の後ろについていた。
宿屋の亭主から鍵を受け取り、部屋に入るとくしゃみを一つする。

「うー寒い」

セフィロスはそんな名前に笑い、マントを脱いで部屋にかけると暖炉に魔法を放った。
その暖炉へ駆け寄って冷え切った自分の体を抱きしめた。

「こっちに来い。暖めてやる」

暖炉の傍にあるベッドに腰掛けているセフィロスの膝の間に腰かけると、布団を肩にかけたセフィロスに包み込まれるように抱きしめられる。

「確かにあったかい…」
「裸でくっつけばもっと暖まる」
「…もうちょっと暖まったらシャワー浴びる」
「一緒にか?」
「絶対嫌!」

恋人となって一年が過ぎたというのに頑なに一緒に浴室へ入らせてくれない名前に苦笑する。
行為が終わった後の気絶した名前を連れて行ったことはあったが、意識がはっきりしているうちは一緒に行こうとしない。
もちろんお互いに裸をはっきり見せ合っている仲なのだが。

「なぜそんな嫌がる」
「何でって…やっぱ恥ずかしいし…」
「くくく…今更恥ずかしがるか」
「浴室は明るいし…」
「初めてした時もカーテンを閉めていたとはいえ、明るかったけどな」

名前は盛大に溜息をついた。
その日のことを今でもはっきりと覚えている。

「まさかあの場で戦闘訓練のような指導を受けるとは思わなかったけどね」
「お前には一番わかりやすかっただろ」
「だってライブラをするかって…今考えれば戦闘とエッチは全然違うし」

暖炉の火がパチッと音を立てて中の木を燃やしていく。
暖炉の火の所為か、この会話の所為か、名前は顔に熱が集まってきた気がした。
セフィロスの冷たい手を取り、自分の頬に触れさせた。

「…でも、本当に初めてセフィロスのものを見た時は衝撃を受けたなぁ…」
「今では自分から口に咥えるぐらいになったのにな」
「そういうこと言わんでいい!」

ほんとストレートに…涼しい顔して下ネタを言えるわ。
暖まってきた体にセフィロスから離れて、笑いかけた。

「シャワー行ってくるよ」
「ああ。その間に夕食買ってくる」
「やったあ!お腹空いてたの!」
「お前はほんと、色気より食い気だな」

セフィロスは苦笑しながらマントを頭まで被り、部屋を後にした。







翌日になり、背中に当たる温もりに、自分を抱え込むようにする腕と、絡んでいる足に笑ってしまった。
セフィロスは寒いのが嫌いだとか言っていたが、ここまで密着して寝ると自分としては少し暑いくらいだ。
雪国の布団はとても暖かく、ベッドにもポカポカのマットが引いてあるため十分暖かいはずなのだが。
まして、いつものようにお互いに裸ではなく、服も着込んでいる状態だ。

昨夜はさすがにお互いに遠征での疲れが溜まっていたのか、触れるだけのキスをしてすぐに眠ってしまった。
久しぶりのベッドでのたっぷりと取った睡眠に、体が軽く感じた。

名前は起き上がろうと体を動かすと、背中から絡まる腕と足に力が入った。

「起きてるんなら離してよ」
「離れるな、寒い」
「だから私は湯たんぽじゃないんだから」
「同じようなものだ」

寝返りをうって、目の前の整った顔をマジマジと見つめた。
まだ眠いのか、瞳は閉じていて長い睫がはっきり見える。

「セフィロスって顔小さいし、睫長いし、肌白くて綺麗で、女泣かせだよね」
「…お前に言われたくない」
「全く分かってないなあ」
「どっちがだ」

名前は自分から唇を寄せると、エメラルドグリーンに輝く猫のような瞳を目が合った。

「以前から言っているが」
「ん?」
「キスはこうするんだ」

途端に塞がれて温まる口内。
熱いセフィロスの舌が名前の舌を追いかけ、絡めて、息苦しさに瞳を閉じる。
卑猥な音が口内から聞こえ、耳までを犯す。
ゆっくりと離れて、目を開くと楽しそうに口角を上げている恋人の顔。

「やってみろ」
「できるか!」

もう一年もこの甘いキスに翻弄されている。
年月がたってもセフィロスからされるキスにはなすがままになってしまう。
そういえば、以前サクランボの蔕でキスの上手さを表すとかいうことがあったけど。
本当にキスの上手い人なのだと実感してしまう。尤も、セフィロス以外とこんなキスをしないから比べようがないが。

やっと起きる気になったのか、拘束する腕と足が離れ、名前とセフィロスは体を起こした。
朝食も簡単に取り、防寒具を身にまとっていく。

「家までは歩いていくしかないんだけど…」
「雪深いとこなのか?」
「うん。大氷河の方に向かっていく途中にポツンとあるはずだから」

緊張してきた。
もう何十年も前の事なのだ。
雪に埋もれているか…モンスターの棲家になっているか…どんな状態かも想像がつかない。

ふと、唇に温もりが触れたと思えば、くくくっと笑うセフィロス。

「せっかくの帰省だろ?楽しめ」

その言葉に笑ってしまい、緊張もほぐれる。

「セフィロスありがと。私、一人で来なくてよかった、セフィロスと一緒で良かった」

セフィロスの優しさに、名前は幸せを噛みしめてその逞しい腕に自分の腕を絡めた。
外に出ると空気の冷たさが顔を突き刺す。
アイシクルロッジから歩きながら目的の場所を目指した。

途中でモンスターが現れたりしたが、自分が動くよりも素早くセフィロスが斬りこみ、時には魔法で焼き払った。
頼もしい同行者に足も進んでいく。

大氷河の入り口より入り組んだところ、森の中に隠されるようにして進んでいく。

「…随分と…隠れるように住んでいたんだな」
「うん…小さいときは分からなかったけど、本当にそうだね」

覚えていると思わなかった道は、勝手に足が進んでいくように迷わず進む。
名前の足が止まり、二人で息を呑んだ。

雪に埋もれることなく、屋根はないにしても柱や床、全てが残っており、不思議と雪がその上に積もっていないのだ。

「何で…」
「…」

茫然と立ち尽くす名前の横を通り過ぎ、セフィロスはその土地に踏み込み、柱に触れる。

「魔法が残っている…?」

熱いとまではいかないが、柱も床も熱をもっている。
空から雪が静かに降り注ぐが、床に落ちる前に消えていく。

「…こんな現象初めて見たな…」
「セフィロス…」

名前は震える足に力を入れて床に足を踏み入れた。
靴底がじんわりと暖まり、中へ進んでいった。

「お、かあ、さん…」

奥には白骨が横たわっている。
燃え尽きることなく、雪に隠れることなく、当時のまま残されている。
ここだけ時が止まったかのように感じられた。


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