金色の女神
あなたの考えが分からない  [ 53/83 ]


アンジールとセフィロスは本当に明日の予定を話していた。
アンジールからの提案で、明日は正面から全員で攻め込み一気に終わらせる。
確かに、だいぶ減った敵兵を考えるとそれも可能だと思われる。

作戦の話しも終わり、アンジールがコーヒーを入れてくれると言っていたのでザックスとセフィロスと名前は椅子に座りながら待つ。

「そういや、名前は今日もここで寝るだろ?」
「だから寝ないって」
「…」

名前の発言にセフィロスの眉間に皺が寄った。

「もし、ここで寝るならザックスも一緒ならいいよ」
「あんで俺も?」
「だって一人でここに来るより、ザックスも一緒だったら作戦たてながらそのまま寝ちゃったとか言い訳できるし」
「お前なぁ…さっきもそうだけど…いい加減、旦那と付き合ってること公表したほうがいいぞ」
「ざ、ザックスなに言うの!」
「恋人居ないって言いふらしてっとお前を口説く男が増え続けるっての!」

ザックスの言葉にぴくっとセフィロスが反応した。

「そういうことか…」
「うわ!ちょっと、離して!」

強引にレミを引き寄せて鎖骨に吸い付く。

「うっ!…こんなとこに!」
「それで2ndのテントに戻れるか?」
「もう!いいよ!先に寝るから!」

セフィロスから離れて、布団に入り込み頭まで布団をかぶった。
ザックスは溜息をついて椅子に座りなおした。

「…2ndのテントで、あいつらが盛り上がってたから」
「全く。任務中に口説こうとするとは…余裕のある奴らだ」
「いや任務中にキスマークつける奴が言えるか」
「アンジールあんがと」

コーヒーを片手にセフィロスに突っ込みを入れるアンジール。
ザックスはコーヒーを飲みながら名前を見た。

「口説くのもそうだけど…なんかさっきテントで寝てるときに行き成りレミが起き上がったんだけどよ…。怯えてたんだよな、寝起き」
「…」
「戦場の雰囲気で魘される3rdは居るけど、名前は戦場で魘されたわけでもなさそうだけど…」
「最近、顔色が悪いのはそのせいか?」

アンジール自身も時折会社で見る名前の顔色が悪いのに気が付いた。
タークスで連日任務をこなしているせいだと思っていたが、セフィロスの顔を見ると違うようだ。

「遠征前にタークスの暗殺任務をしてから魘される様になった」
「ええ!そんな前からかよ!」
「ああ。俺と寝ていれば見ないようだが…」
「うーん…大丈夫かよ…名前」
「遠征が終わったらあいつの故郷に行って、色々と確認するつもりだ」
「アイシクルロッジまで行くのか…」
「それで魘されなくなるのかわからんが、何もしないよりはいい」

そう言うと、セフィロスは立ち上がり、寝息を立ててすでに夢の世界へと旅立っている名前の顔を布団から出した。

「んじゃ、寝ますか。アンジール一緒に寝てくれよ」
「やめろ気持ち悪い。隣に布団引け」
「ん?旦那達は一つの布団で二人で寝る気?ひいてやろっか?」
「必要ない」
「あーそうですか」

名前の体を抱きかかえてセフィロスも眠りについた。



□□□



翌日は任務を大詰め。
全員でそれぞれの武器を抱え、緊迫した雰囲気で突き進んだ。
アンジールの考えた作戦は上手く進み、制圧をすることができた。


帰り支度のために野営地に戻り、休憩をして、明日の朝に帰還することとなった。
それぞれのテントを片付けたりしていたが、3rdが森に遊びに行ったと聞き、名前とザックスで急いで追いかけた。

まだ残党もいる可能性もあるし、3rdがたったの三人で森に入ったというのだから焦る気持ちに足が早まる。

「ザックス!声が聞こえる!」
「あっちか!」

二人で武器を構えながら進むと、吹き矢が体中にささった状態でうめき声をあげている三人を見つけた。
ザックスが駆け寄り、名前は残党を銃で撃っていった。

「ソルジャーに女が混じってるって本当だったんだな!」
「戦地に女とは笑わせる!お前だけでも殺してやる!」

そんな罵声はもう慣れた。
名前は口角を上げて刀を振りかざし、切り裂いていく。

ふと、上から殺気を感じ見上げるとザックスに向かって今にも飛びかかりそうな敵兵をみつけた。

「ザックス!」

体が反射的に動き、3rdを庇っているザックスの前に立ち左腕を出して吹き矢を受け止める。
視界が歪む中、銃を連射してその残党の息の根を止めた。

「名前!名前!」
「大丈夫、鎮静剤かな…」

手足に力が入りづらく、視界が歪み、地面に膝をついた。

「くそっ!お前ら歩けないか?!」
「な、何とか歩きます…」

ザックスは名前を背中に抱え、3rd二人に肩を貸し、一人は気の枝を杖にしてもらい歩かせた。
キャンプに着くと、全員が中央テントへ集合していたため、ザックスは中央テントへ運んだ。

「セフィロスとアンジール呼んできて!」
「わかった!」

同僚の2ndへザックスは声をかけ、興奮剤を3rdに飲ませる様指示した。

「名前、矢を抜くからな」
「うん…いっつ!!」

上空からの攻撃であったため深く突き刺さり、抜くとかなりの痛みがあった。
名前は唇を噛みしめながら叫びたくなる声を押し殺した。

「名前!大丈夫か?!薬飲めそうか?!」

興奮剤の入ったビンを差し出されるが、震える手には持てそうもない。
ザックスが名前を抱えたままビンを口に入れようとするが咳き込んで、薬が出てきてしまう。
外から荒々しく走る音が聞こえ、セフィロスとアンジールがやってきた。

「怪我人は?」
「3rd達は興奮剤を飲んで落ち着いたけど、名前は矢が結構な量刺さって」
「ちっ」

セフィロスが名前を抱きかかえ、腕にケアルガをかける。

「ザックス、寄越せ」

ザックスは慌てて興奮剤をセフィロスに渡すと、それをセフィロスが口にする。
アンジールはハッとして止めようとしたがセフィロスはすぐに名前の唇を自分の唇で塞ぎ、流し込んだ。

「んっ…」

ごくっと流し込まれたものを飲み込むと、みるみるうちに名前は覚醒していく。
そして自分の状況に驚いた。

「んんー!!!!」

セフィロスの後ろ髪を引っ張り、離させると荒い呼吸のまま睨みつけた。

「な、何を」
「飲ませてやっただけだ」
「ザックス、状況を報告しろ」

冷静なアンジールの言葉にザックスが報告を始め、名前はすぐにセフィロスから離れた。
そして、俯きながらも横目で周りを見渡した。

そこにはもちろん今回の任務で一緒になった3rdと2ndが驚きの表情のまま名前を見つめている。
これはもうどうしたら…。

ズキンと痛む腕を押さえて、必死に頭を回転させる。

いや、仕方なかったんだ。
そう、人工呼吸と一緒。
うん。それで行こう。

名前が俯きながらそう考えていると、目の前にふと影が出来て見上げた。

「ザックスもお前も、なぜ先に俺かアンジールに声を掛けなかった」

いきなり不機嫌そうに低い声で言われ、少しムッとして視線を外しながら謝罪を述べた。

「…申し訳ありません」
「ちゃんと目を見て言ったらどうなんだ」

顎をぐいっと掴まれて上を向かせられる。
鋭い眼光は私の目を貫くように睨まれている。

怒っているセフィロスに少し焦りながらも、もう一度謝罪を述べた。

「申し訳ございません」
「…人を庇う前に自分の力量を考えて庇うんだな。庇って怪我を負うぐらいなら3rdや一般兵にだってできる。それでも2ndか」
「…」

冷笑するセフィロスの顔を睨みつけながら唇を噛んだ。

「何だ。文句があるなら言ってみろクラス2nd、名前」

何も言い返せないから悔しい。
セフィロスはきっと怪我をして帰ってきたことに怒っているんだろうけど、そんなことここで言わなくてもいいじゃない。
3rdや2nd達も指揮官の不機嫌なオーラにテント内は静かになった。
アンジールが咳払いをし、セフィロスの肩を掴んだ。

「セフィロスそのくらいにしておけ」
「…謝罪の言葉を言うくらいなら誰にでもできる」
「っ!」

ほんっとうに悔しくて泣きたくもないのに涙が滲んできた。
泣き顔を見られなくて、すぐに1st二人に頭を下げて中央テントを出ていった。

ボロボロと涙を零しながら、誰も居ない2ndのテントに入りまとめてある枕に顔を押しつけた。
こんな泣くなんてみっともないし、子どもみたいで本当に嫌だ。
けれど、あまりの正論に返す言葉もない。

あの場で言われて周りもバッチリ聞いていたし、あんな雰囲気にさせたのは自分だ。
ふと、静かにテントへ入ってくる人物に背中を向けたまま履き捨てる様に言った。

「…何の用ですか。追い打ちに来られたならもう勘弁してほしいのですが」
「全く反省をしていないようだな」
「してます。だからもう放っといてください」
「…分かった。勝手にしろ」

すぐに立ち去る気配がして、名前はその場にずるずると座り込んだ。
疲れた、もう寝よう。

「あ、名前ここに居たのか!」
「ザックス」

顔を上げてニカッと笑う友人につられてへらっと笑う。

「旦那も心配性だなー。あんな怒って」
「しんぱい?」
「だってあれが名前じゃなかったらなーんも言わなかったと思うぞ、旦那」
「…」
「3rd達にも怒ってたけど…名前に怒るような言い方では叱ってなかったぞ」
「私だからって…そりゃあ私には言いやすいからでしょ」
「そーじゃねーって。名前が大切だから、もう二度としてほしくなくて言ったんだろ」

そう言われると黙ってしまう。

「そりゃあ、心配してたのにお前全然悪かったって思ってなかったろ?そりゃあ、セフィロスじゃなくても怒るぞ」
「…」
「まあ、俺を庇ってくれたのはありがといんだけど…」

ザックスが頭をガシガシとかきながら、名前の腕を掴んで引っ張った。

「わっ、ちょっとどこ行くの」
「旦那のとこ!喧嘩してないでさっさと仲直りしろって!お前が素直になればいいことなの!」
「…」

1stのテントに着くと、ザックスが溜息をついた。

「名前、逆に喧嘩したまんまでいいのか?もし関係が終わったら」
「嫌」

ザックスの顔をまっすぐ見つめてそれだけは伝えた。
セフィロスと別れるなんてことだけは絶対に嫌だ。

「だったら、行ってこい」
「うん…」


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