どっちも幼馴染
KID side
いつも一番に目を覚める。今日も隣で寝てる幼馴染2人はまだ寝てる。
朝食作るか。
そう思い体を起こして隣で幸せそうに眠り呆けてる愛しい方の幼馴染にキスをする。
「ん、ろぉ、早いね」
薄く目を開けてすぐに目を閉じた。
トラファルガーの奴と間違えやがって、舌入れてキスすんぞ。そう思い、再び唇を塞ごうとしてその先に赤色が見えた。
「は?」
布団から出ている髪色が赤い。腐れ縁の方の幼馴染の髪色は紺のはず。ありえない。
恐る恐る布団を捲ると、おれは息を飲んだ。
愛しい幼馴染の隣に寝ていたのはおれ自身だった。
「どうなって…あ?なんでトラファルガーの奴の声、は?ちょ、いや、待て、俺の体はこんな細くねェ!!」
「もぉ…ロー煩いよ…」
すぐにベッドから降りて鏡の前へ駆け出した。
「トラファルガーの体じゃねェか…」
呆然と立ち尽くしたが、どうにもならない事実だ。頬を試しに、日々の恨みも込めて思いっ切り引っ張ったが、激痛が走った。
「いってぇ!夢じゃねェ!!」
とりあえず自分の体を見下ろして、名前を起こさないようにベッドから引っ張り下ろした。
ドサっと勢いよく落ちて、おれの顔がもの凄い不機嫌な顔で睨みつけてきた。我が顔ながら、なかなか怖い。
「ユースタス屋、殺されてェのか…あ?…」
固まったトラファルガーは、おれを見て、自分の体を見て、再びおれを見た。
「…夢か」
「夢じゃねェよ、トラファルガー。おれが痛めつけて確かめた」
「人の体に傷つけてんじゃねェ」
ゆっくり立ち上がったトラファルガーは、ため息をつきおれを見上げた。
「…」
「…」
おれは未だかつてないぐらい、自分の顔を見つめた。それでも何も変わらないし、時計がカチカチ聞こえ、時間を刻むだけだ。
今日が休日で良かった。医学部に行くことになったら一切理解できねェし、授業は速攻で眠れる自信がある。
「とりあえず、てめェは飯作れ」
「名前には何て説明すんだよ」
「…いや、言わずに様子見る。親に連絡されてもめんどくせェ」
「トラファルガーに成り切れってことか」
「馬鹿丸出しすんなよ、いつもみたいに」
ほんっとに腹立つくらい冷静でいつも通りだな、コイツ。この体を全裸でウロウロしてやろうか。
いや、んなことしたら倍で返ってくるな。コイツの仕返しはえげつねェ。
おれは諦めて寝室を後にするとキッチンへ向かうと料理をし始めた。
コイツの体でのメリットなんて、顔ぐらいだろ。外歩きてェ。そこら中の女引っ掛けて名前に嫌われればいい。…いや、それこそ仕返しが怖いし、名前が悲しんだら自分も嫌だ。
「おはよ、ロー。キッドから聞いたけど、いつも大変だからって変わってあげたんだね。優しいね、ローは」
いや、ちげぇ。おれはキッドだ。
あいつわざとそう言ったんだろ。さりげなく自分だけ株を上げやがって。
「…」
「ん?あ、いつものね」
そう言って名前が踵を上げて背伸びしながらおれの唇、いやトラファルガーの唇に自分のそれを触れさせた。
おれが固まってると、名前が首を傾げてもう一度ぶつけてきた。
「?いつもと反応違う?ロー大丈夫?」
「…ああ。まだ寝ぼけてるみてェだな、おれがしろって言ったっけ?」
「ローが毎朝やらないと課題二度と見てやらないって言ったんだよ」
トラファルガー殺す!いつの間にコイツとそんな約束してやがったのか!
つか、中学ん時からコイツにちょっかい出してたんだよな、アイツ。おれが毎日触れたくて悶えてるところを、アイツはコイツにちゅっちゅっと…
考えたら腹立ってきた。
「ちょっ、なんかロー怖いんだけど」
「んなキスじゃ足りねェよ」
「は?え?待って!」
「朝っぱらから盛ってんなよ」
おれの声が聞こえてきて、名前がおれの体…トラファルガーの奴の後ろに隠れやがった。
「ねぇキッド、ローが少しおかしいよ。やっぱり寝足りないんじゃないかな?」
「そうかもな。トラファルガー、寝てもいいぞ」
「てめ…トラ…ユースタス、屋、いいから朝飯運べ」
だー!イライラする!呼び方もめんどくせーし!なんであいつ屋号で人の名前呼んでんだよ!おれがトラファルガーと言いかけると睨みつけてくるしよ。朝食に洗剤でも混ぜてやろうか。いや、おれの体が死ぬ。
「今日、二人の予定はー?」
「…」
「…」
「なに、二人で黙りあっちゃって。なんか疎外感を感じるぞ」
名前が少しいじけたように言ってくる。クッソ可愛いな、コイツ。マジで。
「どっか行きてェのか」
「まあ…てか、ローが聞いてくるの珍しいね。出かけるのめんどくさいからいつも私がこう言っても我関せずって感じだったのに」
「…どっか行きてェのか」
「…キッドが今更言い直しても…なんかやっぱり二人ともおかしい」
おれは内心ぎくっとした。
おれ達三人は小さい時からずっと一緒に過ごしてきて、下手したら親よりも長い時間を過ごしている。おれらのことに敏感な名前のことだ。もしかして分かっちまうんじゃねェのか。
「私に何か隠してるでしょ、二人とも」
「「隠してねェよ」」
「二人が声揃った!おかしい!やっぱり隠してる!!」
トラファルガーがおれを睨みつけてきた。
いや、てめェのせいでもあんだろ。
「馬鹿なこと言ってねェで食え。ドライブ連れて行かないぞ」
「え?!キッド、ドライブ連れてってくれるの?!」
「だからそう言ってんだろ」
「さっすがキッド!ローも行く?」
「当たり前だろ!どこ行くか、やっぱ海沿いか?!」
「…」
「…」
名前が口を開けて間抜けな顔をしておれを凝視している。
おれは意味も分からず、トラファルガーを見たらテーブルの下でおれの足を踏んできた。
「…トラファルガー、テンションおかしいぞ。馬鹿なのか」
「ばっ…」
「…何か、ローがキッドみたい。キッドも今日はローみたいだよ」
「…」
「…何馬鹿みてェなこと言ってんだよ。ほら!さっさと支度しねェとお前だけ置いてくぞ」
「ええ!キッドそりゃないよ!すぐ支度する!片付けよろしく!」
トラファルガーの言葉に慌ててリビングを出て行った名前の姿が見えなくなったところで、おれのスエットの胸倉を掴んできた。
「てめェいい加減にしろよ。おれはあんなハイテンションにならねェだろ」
「めんどくせェキャラしてんじゃねェ!」
「何年一緒に居るんだよ。ったく、おれの脳なはずなのに何でそんな馬鹿なんだよ」
「…お前こそおれに成りきれてねェし」
「成りきってやるよ。頭空っぽにして何も考えずに発言すりゃあいい」
「ぶん殴るぞてめェ!」
おれの顔で呆れたように溜息をつくトラファルガー。
くっそ、本当にいちいち腹立つ野郎だな。
「どっちがあいつに違和感を抱かせないでいられるか勝負するか」
「メリットは?」
「元の体に戻った時にあいつと二人きりで寝られる権限」
「乗った」
トラファルガーの提案におれはそう答えるとお互いに片手を叩きあった。
「え、二人とも今日は仲いいね」
「たまにはな」
「ふふ!わーい!今日のドライブは楽しくなりそう!」
「ほんとにな」
「くくく、楽しみだな。ユースタス屋」
LAW side
あまりにボロを出し続ける馬鹿に挑発してやると、見事に乗ってきた。
昔っから変わらず単純で馬鹿な奴だ。
車を運転している自分の体を見て溜息をつきたくなって、ぐっと堪えた。
朝起きて、どういうことか自分の体がおれを見下ろしていた。
痛む体が現実だと思い知らされて、なんでこんなことになったのか知らねェが、喚いても何も変わらないのは分かってる。
まあ、そのうち治るだろと思うことにして、ただ名前に知らされるのはパニックになりそう…いや、親のところに連れてかれそうな予感がするから黙ってろと言った。
だが、ユースタス屋があまりに馬鹿すぎてフォローのしようがねェ。
何年も一緒に居てお互いの真似が出来ないって、どんだけ普段頭空っぽにして過ごしてんだよと、怒りを通り越して呆れた。
「キッド、お菓子食べる?」
「おう。ポッキーくれ」
「キッドはほんとポッキー好きだね」
「お前は相変わらず可愛いな」
「ぐふっ…いつものキッドだ…」
あいつがコイツに手を出してからこういうことをズバズバ言うようになったのは知っている。それにいちいち顔を赤くする名前に…ああ、悪くねェな。
「と…ユースタス屋…そいつ口説くんだったら運転代われ」
「いつも通りのことを言ってるだけだろ。おれは」
「…」
不機嫌そうに顔を顰めているおれの顔がルームミラー越しに見えて、思わず笑いそうになる。本当に分かりやすい馬鹿だな、あいつ。
海が見えてくると名前が嬉しそうに声を上げた。
三人とも海が大好きだからこそ、週末はこうしてドライブで海沿いを走ることが多いがいつ見ても、海も、嬉しそうな名前の横顔も飽きねェな。
「ちょっと寒いけど、降りるか!」
「キッドに賛成!ロー!車どっかに止めて降りよう!」
「仕方ねェな」
海沿いを三人で歩きながら、自販機で飲み物を買ってユースタス屋に投げて渡した。
「帰りはおれが運転してやろうか」
「くくく、馬鹿言ってんじゃねェよ。てめェの運転は荒いんだよ」
「相変わらず一言多いな、クソファルガー」
「くくく」
ちゃんと成りきれてんじゃねェか。
思わずそう言ってしまいそうになって笑って誤魔化した。
名前がおれとユースタス屋の手を掴んで、波打ち際まで来ると嬉しそうに笑い始める。
「今日はほんっと、楽しいね!」
「くくく、そうか」
「連れてきた甲斐があったな、トラファルガー」
「そうだな、ユースタス屋」
帰りもユースタス屋が運転として、いつも以上に楽しそうにしている名前におれもユースタス屋も満足だった。
体の交換とかめんどくせェことになったが、何年も腐れ縁の付き合いをしてきたおかげで、お互いに成りきるのはどうやら簡単だったらしい。
夜、いつもより簡単に眠りについたおれは朝、名前に起こされてその後ろにいつもの物騒な面に赤い髪がおれを見下ろしてるのが見えて、体が戻ったことを知った。
名前がおれに乗りかかりながら「あ、戻ったんだ」と呟いた。
思わず、おれとユースタス屋で顔を見合わせた。
「入れ替わってたんでしょ?昨日」
「は?」
「…」
「私、何年二人の幼馴染してると思ってるの。二人の違いなんてすぐ分かるよ」
そういう名前は笑っておれ達を抱きしめた。
「ごめんね。あまりに2人してお互いに成りきってるから、やっぱり二人ともお互いをよく知ってるんだなあって思ったら嬉しくなっちゃって。でも、どっちがどっちでも、私はどっちも大好きだからさ。変わらないよ」
ユースタス屋と顔を見合わせて、苦笑した。
おれもコイツも、名前には敵わねェらしい。
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