少しだけつづいた物語 何度も髪を弄りながら落ち着きなく視線を動かしていると、真ん前に座っている自分よりも年下の子に笑われてしまった。頬を赤くして座席に座り直し、窓の外の変わり行く景色を見ていると流れていく景色に酔ってしまい今度は顔を青くして壁に寄りかかる。 目的地に着くまで心配してくれた黒のローブを着た女の子に礼を言い、列車を降りると見覚えのある男性が出迎えてくれた。赤い瞳が特徴的な彼は、間違いなく七年前に魔法学校へ入学して行ったトム・リドルだ。 久しぶりの再会にどう接していいかわからずもじもじしていると、ククッと馬鹿にしたように笑ったトムに抱き締められる。前は何度もした行為のはずなのに恥ずかしくなって顔を染めるとさらに瞼にキスをされた。心臓が爆発してしまいそうだ。 「と、トム……久しぶり」 「久しぶり。随分おとなしくなったんだね」 「私も大人になったもの」 「そうは見えないけどね」 トムと手を繋ぎ、案内されたのは見上げるほど大きなお城だった。ここが七年間トムの過ごしてきた場所なのかと観察していると、腕を引っ張られて中に連れ込まれる。もう少し見ていたかったが、お城の中にも十分に興味をそそるものがあった。体の透けた人間や、動く階段、生きているかのように動く絵画……一つ一つに夢中になり、そのたびにトムに呆れられる。 「さっさと行きたいんだけど」 「いいじゃない、もうちょっとだけ」 「まったく……これからここで暮らすって言うのに」 「だからこそよく知っておかなきゃ」 「駄目だ」 トムに無理矢理手を引かれ絵画とのお喋りが中途半端に終わってしまい残念に思うが、絵画の中の婦人にもらった花を見て笑みを浮かべる。黄色の見たことのない花をクルクル回していると「なにをしているんだ?」とトムに変な顔をされたので、婦人にプレゼントされたのだと自慢する。するとトムの顔が険しくなった。 「どうしたの?」 「普通、絵画の中のものは持ち出せない。本当に絵画の中の婦人からもらったのか?」 「うん。……返した方がいい?」 あまりにも花を睨むので残念に思いながらもそう問いかけると「いや」とトムは首を振って私の頭に手を乗せる。このことは誰にも言っては駄目だよと言うトムに頷き、潰れてしまわないよう気をつけながら花を両手で隠す。 トムが案内してくれた部屋はガランとしていて寂しかったが、トムが杖を振るたびに家具が現れあっという間に部屋らしくなった。テーブルに飾られている空っぽの花瓶に花を生けるとトムが魔法で水を出してくれたのでお礼を言う。 「授業の内容は決めたのかい?」 「うん。トムが送ってくれた本を参考に進めてこうと思ってるの。……でも本当に私が教えられるのかしら?」 「暫くの間は合同授業をしても構わないと、狸……新しく校長に就任されたダンブルドア先生が言っていたからそこまで心配しなくていいよ」 「駄目よ。トムに頼ってばかりは嫌」 「……へえ、昔は僕がいなきゃ喚き散らしていたのにね」 本当にヘンリーか、と疑うような目をしているトムに「大人になったのよ」と再度言うと少しは納得してくれたのか神妙な顔で頷いた。 たぶんつづかないです。 120629 目次/しおりを挟む [top] |