七年の約束

 簡易ベッドの上で膝を抱え込んでいると部屋のドアがノックされたが、動く気にならず床のシミを見つめる。
 何度目になるかわからないノックの後「アロホモラ」というトムの声が聞こえカチリと音をたてて鍵が開いた。トムが魔法を使ったのだとわかるとますます嫌な気持ちになる、魔法なんて使えなければトムはいなくなることはないのに。

「ヘンリー。君は忙しい人だね」

 スプリングが役割を果たしていない固いベッドに腰を下ろしたトムは、私の髪を一束掬いとってそこにキスをした。あまりにも優しい目をするものだから堪らずに抱きつくと、いつもとは違う女性を扱うような手付きで抱き締めてくれる。

「わたし、わたし、」
「よく聞いて。君の両親は君を嫌いになったからいなくなったんじゃないんだ。僕だって、ヘンリーが好きだ」
「……なら、どうしていなくなるの?」
「大人にならなきゃいけないからさ。僕はまだこの魔力というものを扱えない、髭狸に教えを乞わなければ鍵の一つも開けられないくらいね。君の両親には、ヘンリーが大人になって、幸せでいっぱいの人生を過ごしたら、また会えるさ」
「また、会えるの?」
「ああ。僕が間違ったことを言うとでも?」

 首を横に振るとトムは満足そうに笑い「僕が大人になったらヘンリーを迎えにくる」と誓いのキスをしてくれた。トムに手を引かれて部屋を出ると、みんなに口々に声を掛けられマザーに抱き締められる。
 それから数週間後、トムは施設を去った。たっぷりの髭を蓄えたお爺さんが、泣き喚くわたしに「長期休暇に会うことも出来る」と言ったけれど、トムは長期休暇になっても帰ってくることはないと思う。わたしたちは大人になったら再会すると約束したから。





 ディアー ヘンリー

 あれから七年の月日が流れたね。君の煩い声が懐かしいよ。

 卒業後はホグワーツで働くことになったよ。髭狸がどうしてもっていうから仕方なくね。

 そうそう、髭狸が君をホグワーツのマグル学講師として歓迎したいと言っていたから近いうちに手紙が届くと思うよ。

120507
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