天使 「貴女はきっと、天の使者なのね」 「?」 「はじめはあんなに疎まれていたのに、今では皆の人気者。おまけに、嫌われ者のトム・リドルをみんなと仲良くさせてしまうなんて、普通は出来ないわ」 マザーの言葉に首を傾げると「わからないならいいのよ」と頭を撫でられた。 「ヘンリーは、トムのことが好きかしら?」 「うん!」 「そう。……なら、話しておかなければならないわね」 わたしの両肩に手を乗せ、キュッと口元を結んだマザーはゆっくり話始めた。 トムが、魔法使いであること。魔法を学ぶための学校に行かなければならないこと。――それは、近い未来に別れることを示唆していた。孤児院は引き取り手のいない子どもを育てる場所であり、身よりのある子どもを置いていくわけにはいかない。 トムの通う魔法学校は全寮制度を導入しているのだとかよくわからない説明をされ、トムが孤児院から除名することを教えられた。 「トムと、もう会えないの?」 「いいえ、貴女が会いたいと思うならいつでも会えるわよ」 「……本当? パパやママみたいに、ヘンリーを嫌いになったんじゃない?」 「誰も貴女を嫌いになんてならないわ。ヘンリー、貴女はみんなに愛されているのよ」 「なら、なんでもう会えないの?」 「だからね、ヘンリー、」 「どうして! どうして会えないの!」 「……ヘンリー」 ソファーから立ち上がり、机の上に両手を置くとつんのめりそうになりながらも限界まで体をマザーに近付ける。 「トムとお話してきなさい。そうすればわかるわ」 「……会いたくないわ。わたし、部屋に行く」 困り顔をしたマザーを気にする余裕もなく一心不乱に走った。 120506 目次/しおりを挟む [top] |