どうして?どうして?

 いつものようにトムのところに行くと驚いた顔をされた。

「トム、今日は何を教えてくれるの?」
「……君は鳥頭なのか?」
「鳥頭? いいえ、違うわ」
「なら、何故話し掛けてくる」

 怒ったような声を出すトムに首を傾げていると、突然何かに突き飛ばされた。何か、という明確なものはないが、確かに突き飛ばされたのだ。
 転んだわたしを心配してみんなが声を掛けてくれる。そのうちの何人かはトムを睨み付けていた。

「また、お前だろ?」
「ヘンリーに近付くな!」
「……そいつが勝手についてくるんだ」
「そんな言い方ねえだろ!」

 口論はどんどん激しくなっていく。

 どうして喧嘩をしてるの?
 わたしがいけないの?

 険悪な雰囲気に堪えきれず「うわああん!」と大声を出して泣くと、みんながぎょっとした顔をする。

「トム、トムっ!」
「ヘンリー、あんなやつに関わるな」
「ど、っどうして? わたし、トムといたい」

 わんわんと泣き喚くわたしを抱き締めてくれたのは、トムだった。
 頭を撫でてくれるトムの手付きはとても優しい。まるで、壊れ物を扱うかのように。
 みんなはさっきよりも、もっと驚いた顔でトムを見ている。
 ヒックヒックと段々泣き止んでいくわたしを見て、思わずといった様子で拍手が鳴り響いた。

「ヘンリー、泣くな」
「う、うん」
「返事だけはいつもいい」

 呆れたような声で言うトムの背中に腕を回し、胸に顔を押し付ける。
 トムの体温が心地好く、こっくりこっくりしていると抱き上げられた。

「本当にヘンリーはお前に懐いてるよな」
「ヘンリーが泣くところを見たの、ヘンリーが施設に来たとき以来だ」
「とてもあやすのが上手なのね」
「ふふ、安心しきってるわ」

 温かい声に包まれ、眠りに就いた。

120505
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