08

 どうやらおじさんは頭がおかしくなったようだ。あれからしつこく送り付けられる“まともじゃない”手紙なんて無視をすればいいのに、私の視界に手紙が入るのすら許せないのか顔を真っ赤にして唾を撒き散らし、ついに自分の家から逃げ出したのだ。それでも追いかけてくる手紙に狂ったように怯えたバーノンおじさんは、まともな人間が絶対に住まない離れ小島に逃げ隠れた。食料を確保することができないこの小島ではろくに食事をすることもできなくて、お腹の中でなにかがゴロゴロと怒っている。いや、食料を確保できないというのは少し違う。この小島では、食料を確保する必要がないのだ。だって人間どころか動物ですら、この小島には住んでいないのだから。
 今にも底が抜けてしまいそうな家の中をダドリーが恐る恐る歩く。家の外は大雨で、雷が落ちる度にダドリーは震え上がった。ペチュニアおばさんはそんなダドリーを哀れんで、あれこれ世話をしている。いつもならバーノンおじさんだってダドリーを気にするのはずだが、お腹が空いたと嘘泣きをするダドリーにすら見向きもしない。

「ここなら手紙が届くことはあるまい」

 手紙どころか食料も届かない、と言いたそうなダドリーだが寸前のところで言葉を飲み込んだ。考える前に口が動く彼にしては珍しいことで、おじさんの機嫌が悪くなったらもっととんでもない場所に放り込まれると思ったのだろう。

「ダドリーとハリーはこの部屋で寝なさい」

 思春期の男女を同じ部屋で寝かせるなんてどうなんだ、と思った人は正常だろう。しかし、私のことを家畜以下と認識しているダーズリー家にそんなことを言ったら、この大雨の中、外で寝ろと言われるに決まっている。なので口に頑丈なチャックをした。丸坊主にされた次の日には髪が元通りになるまともでない私でも、この大雨の中で一晩を過ごしたらただではすまないだろう。

 いつも通りにダドリーのお下がりの寝巻きに袖を通し、おんぼろマットの敷いてある床に寝転がる。ダドリーは私に配られたポテトチップスを横取りしてからすぐに就寝したようで、ソファーの上で暢気に鼾をかいていた。窓を打ち付ける雨はおばさんの金切り声より耳に響いていて、よくこんな煩いところで眠りに就けるな、とむにゃむにゃ口を動かすダドリーを見て思わず感心する。私が彼に感心したのは、数年前、当時のダドリーと同じ身長のバースデーケーキを一人で食べきった時以来だ。……とかなんとか考えているうちに私も夢の中へ旅立ったのだが。子供は遊ぶのと寝るのが仕事だもの、仕方ないわね。

150710

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