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 つい先程まで確かに会話をしていたロンとハーマイオニーだが、完全に意識がないようだ。彼らは指一本すら動かすことなく、意識を失う前の体勢を忠実に保っている。まるで、かの有名な神話に登場するメドゥーサにより石に変えられたかのようだ。

 少し手を伸ばせば届く距離にいるハーマイオニーの肩に触ろうとしたのだが、触れた瞬間に崩れてしまわないかという不安が頭をよぎる。杞憂に過ぎないだろうが一度不安に思うとますます不安になっていき、試しにとクィレル先生の肩を叩く。すると、クィレル先生は力なく地面に倒れ込んだ。決して強い力ではないというのに糸が切れたマリオネットのように転がったクィレル先生に慌てて近寄る。嫌な汗がヒヤリと背中を伝ったが、頭に巻いていたターバンが解けたこと以外の外傷はないようだ。彼が石のように砕けなくてよかった。
 クィレル先生のターバンを手に取りどうやって彼の頭に巻き直そうかと首をひねったのだが、クィレル先生の後頭部にある顔に気が付き思わずガン見する。あれ、クィレル先生って顔が二つあるの? これも魔法が関係しているのかしらと思ったが、頭に生えている顔に覚えがあった。いや、顔自体に見覚えはないのだが、頭に顔が生えているということに覚えがあったのだ。確か闇の帝王が――……そこまで考えて、ブンブン頭を振る。この世界には、名前を言ってはいけないあの人なんて存在していない。ヴォルデモートって人知ってる? という問いにハーマイオニーもロンも知らないと答えていたもの。

 とにかく、まずはハーマイオニーとロンを助けなければと、ロンに近付いた。ロンの額に杖の先を向けて目を閉じる。
 ハーマイオニーやロン、挙句には教師であるクィレル先生までこんな状態にした魔法の正体を、私は理解していた。だからこそ、私だけがこの魔法にかからなかったのだ。

「アシィマーレェイシャン」

 “同化”魔法を私に教えたのは、リドル先生だ。閉心術を覚える時に教わった呪文なのだが、杖の先を同化したい相手に向けながら呪文「アシィマーレェイシャン」を唱えるという比較的簡単な魔法である。簡単ではあるが、同化したい相手が“開心術”を受けているときにのみ発動する限定呪文であった。
 この呪文が効くということはつまり、ロン、ハーマイオニー、クィレル先生は開心術を受けているということだ。ちなみに私は開心術を受けた時に閉心術で魔法を防いだわけだが――――しかし不可解な点がある。私の知っている開心術は人の記憶や感情を覗くだけであり、無理矢理引きずり出された記憶と感情の波に支配されて一時的に硬直することはあっても、石のように固まるなんてことはないはずだ。さらに付け加えるなら、近距離で魔法をかけないとリドル先生ですら開心術は使えないと言っていた。この部屋には私達四人以外に人は見当たらない、いったい誰が魔法をかけた犯人だろうか。

190423

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