55

 お尻で地面に華麗な着地を決めたロンは、情けない声を上げた。そんな彼を見下ろしている私とハーマイオニーの存在に気付いたロンは、一仕事終えたと言うように額の汗を拭うフリをする。そして自分の手柄のように「ふう、なんとか撃退できたな」と言うので、ハーマイオニーが悪魔の罠の弱点を知っていたおかげだよと突っ込もうとしたのだが、ハーマイオニーがほっとけと視線で会話してきたので生ぬるい視線を送るに留めておいた。

「それにしても、ここはいったいなんの部屋かしら。こんな危ない場所が学校にあるなんて、信じられない」
「あの三頭犬、扉を守っているようだったわ。この悪魔の罠も侵入者を防ぐトラップのようだし、きっとなにか重要なものがあるのよ」
「それって、宝ってことかい?」

 ブルーの瞳がキラリ光る。ハーマイオニーがすかさず「宝探しなんかしないわよ」とロンの言葉を先回りして阻止したのだが、こんな時ばかり口が良く回るロンに言いくるめられていた。流石、あの双子の弟だ。しかしここまでして厳重に護られているお宝とやらに興味があるのは、ロンだけではない。

 三人で慎重に足を進めていると、虫が飛び回る部屋に辿り着いた。数えきれない虫達をよく観るとみんな鍵の形をしている。そして、次の部屋へと続く扉は施錠されていて開かない。つまり、この数えきれない鍵達の中からこの扉の鍵を見つけなければならないのだろう。

「見て、箒がある」

 そう言ってロンが箒を寄越してくるので受け取ると「あそこに一つだけくたびれた鍵があるわ。ハリー、取ってきて」とハーマイオニーが気軽に言う。くたびれた鍵ってどれかしらとハーマイオニーの指の先を探りながら箒に乗ったのだが、箒に跨った瞬間、部屋中の鍵が私目掛けて襲いかかってきた。親指程度の大きさしかない鍵だが、束となって襲ってくる様は一匹の獣のようだ。「ハリー逃げて!」と言う言葉より早く箒で浮かび上がると一匹の鍵に狙いを定める。――この時、鍵を一匹追い掛けるくらい余裕だと思っていた。しかし、この箒には速度制限がかけられているのか、鍵達からギリギリ逃げられるスピードしか出すことができない。つまり、鍵を追い掛けてもギリギリ追い付けないスピードしか出ないのだ。早く走れと箒を叩くと、振り落とされそうになる。なんだこの鬼畜仕様はと涙を浮かべていた五分間がやけに長く感じた。

「ハリー頑張って!」

 ハーマイオニーのその声を合図に、上空目指して飛び上がる。天井まで勢い良く飛ぶと、そのままの勢いで今度は地上目指し急降下した。鍵が方向転換するタイムロスと重力による僅かなスピードアップにより手にすることができた鍵を、すぐさまロンに投げ渡す。いや、ロンだと思ったがもしかしたらハーマイオニーかもしれない。鍵の束が追い掛けてくるので止まることのできない私はどちらかが開けた扉に飛び込んだ。勢い良く飛び込んだにも関わらず、見事な着地を決めた自分を褒め讃えたい。

190420

次のページを開く→

目次/しおりを挟む
[top]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -