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 ようやく涙が枯れて、嗚咽もおさまった。そう、おさまった、のだけれど泣き姿を見られたことがどうしようもないくらい恥ずかしくて背後にいる人物を確認出来ないでいる。いっそこのまま走って逃げてしまおうと思ったけれど、相手は「ポッター」と私を呼んでいた。もし逃げたりしたら明日からもっと気まずい事になるかもしれない。黙って立ち去ってくれる事を期待していると、肩に置かれたままの手がすっと離れた。

「ミスポッター、こんな時間に出歩くとは関心しないな。ついてきたまえ」

 まるで私が情けなく泣いていた事などなかったかのようにそう言われた事に驚いて、反射的に振り返る。そこには私より一回り大きな黒が立っていて、彼はこちらに背を向け部屋の入口へ向かっていった。それをボンヤリとした気持ちで眺めていたのだが、私がついてこない事に気付いた彼はチラリとだけ振り向いて「ついてこい」と言い捨て部屋を出て行く。

「ま、待って下さい! スネイプ先生!」

 慌ててスネイプ先生が消えた方向へ走り出すと「廊下は走るな」と注意される。仕方がないので競歩でスネイプ先生を追い掛けて、見失わないように四苦八苦していると一つの扉に辿り着いた。ここは何処だろうと首を傾げるも、スネイプ先生の様子を見るにこの部屋は彼の私室らしい。いつものスネイプ先生よりリラックスした様子だ。
 スネイプ先生に指示されて椅子に腰をかけると、スネイプ先生はさらに奥の部屋に引っ込んだ。どこに行ったのだろうと首を傾げた時、くたびれた椅子がギィ……と嫌な音を立てた。座り心地最悪だ。スネイプ先生の部屋はスネイプ先生らしいというかなんというか、暗くじめっとした印象の強い部屋である。薄暗くて、湿気が強い。壁にそって並ぶ棚には魔法薬学で使うであろう薬品がズラリと並んでいて、埃を被っているものも多くある。ドクロマークの書かれている薬品はなんだろう、と勘繰っていると、脇にある机がコトンと音を立てた。
 スネイプ先生は私を椅子に座らせたら奥の部屋に引っ込んだので、この部屋には誰もいないとすっかり思い込んでおり、その小さな音にも大袈裟に驚く。肩を跳ねさせた私を見て鼻で笑うのはスネイプ先生で、いつの間にか戻ってきたらしい。戻ってきた事に気付かないなんてどれだけ思考に没頭していたのだろうと、なんだか恥ずかしくなり顔をうつむける。
 スネイプ先生は私に一切目を向ける事なく机の上の資料整理を始めたので、モジモジするのを止めて「どうして私は此処に連れて来られたのだろう」と再び思考の波にのまれた。

150903

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