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 胸に蛇のエンブレムを掲げ、クィディッチ競技場に乗り込んだ。観客席からキャーキャーワーワー聞こえる歓声が、はるか遠くの出来事であるかのように錯覚するこの現象をなんと呼ぶのだろう。
 足が地面に乗っているかを確認して、愛用の箒に跨がる。リドル先生に貰ったこのニンバス2000との相性は抜群で、ニンバス2000がこれから行われる初めての試合に興奮していることはもちろん知っていた。ニンバス2000も、私が緊張していることを知っているだろう。なにせ敵も味方も上級生しかいないという尻込みしてしまいそうな状況でありながら、少しでも失敗をしたらリドル先生に五時間は説教を受けることになるので、初っぱなから飛ばしていかなければならない。というか「飛ばせ」とリドル先生に命令された。リドル先生に逆らえる人なんているのだろうか。いや、いない。少なくも私には無理だ。

「正々堂々と闘うように!」

 私が自問自答している間に試合は開始したようで慌てて地面を蹴り上げたのだが、勢い余ってぐるんと横に一回転する。脳ミソがふわっとした。

「今回スリザリンが新たな選手を参戦させてるのは、みんなも知っているだろう! 最年少選手、ハリー・ポッターだ! 可憐な回転で観客にアピールしているポッター! 熱い声援で迎え入れよう!!」

 そうだ、今のはアピールなんだ、と言い訳をしてからふわふわ飛んでいると真横に二人、敵が飛んできた。目に優しくない真っ赤なユニホームに、これまた真っ赤な髪をした二人の顔は見分けがつかないほどそっくりで、ロンの双子の兄であることに気付くまでそう時間はかからない。

「残念だな、ハリー! 初めての試合が負け試合になっちまって!」
「初戦でグリフィンドールに当たるとは運がない!」

 自信満々に言ってのけた双子はパチンとウインクをしてから飛んでいく。運がないのはそっちよ、とあっかんべーをしてからスニッチを探すためにその場を飛び去った。試合はもちろんスリザリンが勝利を掴み、双子に散々八つ当たりをされたがご機嫌だった私にダメージはゼロだ。ちなみにリドル先生からは、なんで出遅れたの? と笑顔で一時間程詰め寄られた。負けていたらどうなっていたかなんて考えたくもない。
 リドル先生と毎回こんなやり取りをしなければならないならクィディッチチームをクビになりたいと思ったが、クィディッチの魅力にとりつかれた私は自分から辞退を申し出ることは出来ないのだろう。ニンバス2000、私がクビになるまでよろしくね。

150820

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