06

 時間は心の薬なのかもしれない。
 すっかり調子の戻った私は、勉強に精を出している。今日の授業でも十五の得点をもぎ取った。

「今度のホグズミード、一緒に行かないかい?」

 談話室のボードに魔法でくっつけられている羊皮紙を見ると「ホグズミード 次の土曜日」と書かれている。土曜日に予定は入っていなかったので首を縦に振ると、ポッターが両手を挙げて喜ぶ。あまりにも嬉しそうにするものだから、思わずクスクス笑う。

「名前の笑顔、久々に見た気がするよ」
「そう? ポッターはいつも笑顔ね」
「名前の傍にいれて、幸せだからね!」

 ファミリーネームを呼んだ瞬間、僅かに顔を歪めたポッター。
 ポッターたちをファーストネームで呼ばなくなったのは、セブルスとの件があったせいだと皆は思っている。でも、そうではない。

 ハリーの母親。

 その言葉が胸に引っ掛かっていた。「ハリーポッター」に出てくるポッター夫婦は、学生のころに出会い結婚をしていた。つまり、ジェームズは学生のうちに結婚相手と出会うのだろう。なのに、何年経ってもハリーの母親が現れる様子はない。唯一、そのポジションに近いのが私。……私が居るから、ハリーの母親は居なくなってしまったの?
 ポッターに関わると、確信に触れてしまう気がして怖い。けれど、ポッターから離れることも出来ない。ファミリーネームを呼ぶことで距離を置くことしかできない私は、卑怯者だ。





「名前、眉間に皺が寄ってるよ」
「あら、いけない。考え事をしていたせいね」
「悩み事かい? 僕に話してごらん」
「ポッターには、理解出来ないことよ」

 同じものを共有しているアルファッサにすら受け入れて貰えない。それが、知らず知らずに私を絶望させていたのかもしれない。魔法界においても特殊である「私の秘密」を理解して貰うことは諦めた。
 そう、諦めたはずなのに――

「そんな顔をしないで、名前。恐れることなんて、何もない。僕を、信じて」

 ポッターを、信じる?
 自分でもなんでポッターに秘密を話そうと思ったのかわからない。彼を信じたからだろうか? 長く、理解しがたい、夢物語を話し終えると、涙が零れる。
 それを隠すように、受け止めるようにポッターが抱き締めた。

「アイラブユー」

 綺麗だね、素敵だよ、という言葉は飽きるくらい聞いたけれど、初めて告げられた愛。

「私も、好き」

 認めたくなかった言葉を、初めて口にした。

120321
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