2 ベッドに腰を下ろしたジェームズは私の胸に顔を埋めて黙り込んでいる。久々の温もりを幸せに感じながらジェームズの髪を梳くとビクリと彼の肩が跳ね上がった。 頬に手を添えて顔を上げさせると、ジェームズの瞳が不安そうに揺れる。私とは違い、時が流れるにつれ老いていくジェームズの顔には生きている証として皺が刻まれていた。 「……人間、老いには適わないね」 「当たり前じゃない。私だって見た目こそ変わらないけれど、確実に老いてるわ」 「いいや、君は昔と変わらず美しい。いつも誰かを惹きつけてる」 「そんなことないわ」 「いいや、学生の頃からそうだった。シリウスもスネイプも……他にもたくさんいた」 目元を手のひらで覆いジェームズは続ける。 「シリウスが……親友が君を好きなのは知っていたけど、どうしても譲れなかった。今だって魔力を与えることで君を縛り付けている」 「……ジェームズは、馬鹿ね。大馬鹿よ」 「ああ、そうかもしれない……少し、休むよ」 布団に潜り込んだジェームズの背中が小さく見えたのは気のせいだろうか。 思い返せばここ数ヶ月のジェームズはおかしい。おかしな書物を読みあさったり突然仕事を休んで遠くまで出かけたり……私たちが共に過ごす時間は減っていた。 「母さん、父さんは?」 「寝たわよ。……まったくジェームズったら、どうしたのかしら」 「父さんは、母さんが誰かに奪われてしまわないか不安なんだよ」 「……私の愛ってそんなに伝わりにくいかしら」 「いいや、父さんがおかしいだけだから母さんが気に病むことじゃない」 暖炉から帰っていくダドリーを見送りハリーと夜遅くまで話し込んだ。私を心配してくれるハリーはもうすっかり中身も大人で、なんだか寂しい気持ちになる。 「ねえハリー、私、少し旅に出ようと思うの」 「……え?」 「お父さんったら私が他の人と話すのを見るたびに機嫌悪くなるじゃない? 私がいない方が落ち着くんじゃないかと思って」 「いや、それは……」 「本当はもう暫く様子を見ようと思ったんだけど、止めたわ。お父さんのこと頼んだわよ」 「ちょっ……今から行くの!?」 「じゃあね」 くるりと回転する私をハリーが止めたが構わずに姿を消した。 次に目を開けたときに飛び込んできた景色は久しく見ていない、どこにでもありそうなマグルの家だった。夜中にも関わらず家主はまだ眠りについていなかったらしく――ペチュニア・ダーズリーは目を見開いて駆け寄ってくる。 「どうしたの?」 「ごめんなさい、突然来てしまって。バーノンさんはもうお休みになってるかしら?」 「あの人、今日は帰って来ないのよ。仕事がピークで」 「なら、ちょうど良かったわ。一晩泊めてもらえないかしら?」 「私は構わないけど……旦那はいいの?」 ペチュニアのいれてくれたココアを飲みながら事情を説明すると、呆れたように溜息を吐かれた。 「ちゃんと話し合うべきよ」 「ええ。そのうちね」 「…………明日には帰るのよ」 空になったマグカップをシンクに置くとペチュニアが寝室に案内をしてくれる。子どもの頃のように一緒のベッドに入りお互いの近況に花を咲かせた。 バーノンさんが私の透けた体を見ると痙攣を起こすので暫くペチュニアと会っていなかったが、相変わらず彼女とは仲が良い。 「まあ、ダドリーちゃんが来たの? 実家にも月に一回帰ってくるかわからないのに」 「そうなの? てっきりペチュニアの家の暖炉から来てるのだと思ってたわ」 「バーノンがそんなこと許すわけないじゃない」 「確かに……」 じゃあダドリーはどう私の家まで来ているのだろうと首を傾げるも、すぐに話題は変わっていきいつの間にか眠りに就いてしまった。 120602 目次/しおりを挟む [top] |