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 名前の言っていた通り、あの人が忍び込んできた。どこかでピーターが裏切るはずがないと信じていたのかもしれない、胸がキシキシ痛む。
 けれど、死ぬことに対しての恐怖はなかった。名前と一緒に逝けるのなら素敵なことにさえ思える。

「名前、逃げるんだ!」

 打ち合わせをしていたかのように二手に分かれると、杖を構えあの人と対峙する。だが――

「逃げるとは、往生際の悪いやつめ」

 あの人は、まるで僕が見えていないかのように名前を追っていく。慌てて呪文を唱えたけれど、ただの棒切れのように杖は黙ってる。わけがわからない状況にパニックになった。
 ドアの隙間から名前が見える。戸惑う僕に彼女は柔らかく微笑みかけた。
 名前が呪文を唱え終わるとき、緑色の閃光が光った。





 肩に置かれた手に顔を上げると、ダンブルドア先生が悲しそうな顔をして立っていた。その後ろには、シリウスとリーマス、そして僕たちを裏切りあの人の元へ行ったはずの、ピーター。
 状況を理解していないのは僕だけではないらしい。シリウスもリーマスも、ピーターさえも不思議そうな顔をしている。
 僕たち一人一人を確認したダンブルドア先生が、ゆっくりと語りだした。

「名前・ポッターは、とんでもない嘘を吐いた。最後までその嘘を気付かれることなく生涯を終えることが出来れば、幸せだと言っておった」

「彼女はまず、ピーター・ペティグリューの心を動かした。彼にグリフィンドールに見合う勇気を授けたのじゃ」

「そして、リーマス・ルーピンにジェームズの居場所を隠すよう頼み」

「最後に、シリウス・ブラックにジェームズから拝借した杖を託したのじゃ」

 シリウスが手に持っていた杖を落とした音がやけに響く。今まで混乱していたせいで気付かなかったが、手にしているものは杖ではなく本当の棒切れだった。
 ――絶望の波が、押し寄せてくる。何故、自分は生きているのだ。一緒にいると約束したのに。

「名前・エバンズは、愛する息子にプレゼントをしたのじゃよ。父親という、掛け替えのないものを」

 どう生きていけというのだろう。
 死ぬことすら許してくれない名前を恨んだ。

120331
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