朝日で目が覚め体を起こすと、隣で人の気配がした。私を抱き締めている人物が新妻くんだということに驚き、昨日の記憶を掘り返して絶望する。服は着ているので最悪の事態には至っていないみたいだ。ベッドを抜け出してもピクリとも反応しない新妻くんはいつも通り深く長い眠りに就いているらしい。

「昨日のことはなかったことにしよう、うん」

 新妻くんも話せばわかってくれるだろうと、昨日のことを頭から追い出して荷物と原稿を手に持つ。一度家に戻ってからじゃないと出社もできないな、と時間を確認し出勤時間まで随分と余裕があることに安堵しながら帰路についた。
 支度を整え原稿を預かる約束をしている先生を訪ねてから昼頃に出社する。会社でしなければならないことを一通り済ませ、福田くんとの打ち合わせのために重い腰を上げた。

「ヘンリーさん、今日は元気ないですね」
「ちょっと昨日飲み過ぎちゃって」
「珍しいですね。今度僕とも飲みにいきましょうよ」
「奢りなら喜んで」

 ひらひらと手を振って同じ部署の仲間と別れる。女が少ない職場なので大事にしてくれるのは嬉しいがプライベートの時間を一緒にしたくはない。まあ、ただ飲みできるなら別だけど。
 電車で向かった先は福田くんの仕事場で、相変わらず汚い部屋を簡単に整理しながらなにか不都合はないか尋ねる。

「やっぱりバイク描ける人が欲しいです」
「うん、今探してるとこなんだけどなかなか見つからなくて……それなりの人じゃ嫌でしょ?」
「嫌です」
「打ち合わせ終わったら、また探してみるね」

 福田くんの真向かいに置いてある椅子に腰を下ろしネームに目を通していく。相変わらず表現が荒いので訂正を入れるよう注意をしながら打ち合わせを進めていき、二時間程話し合いすぐにネームの書き直しをするように言い渡した。

「そうだこれ、きちんと食べなさいよ」

 青色の三角巾で包んだ弁当箱を作業台に乗せて次に約束をしている人の元に向かう。今日は何時に終わるのかしらとげっそりしている私には、福田くんが弁当を手にして固まっているなんて知る由もなかった。

190710
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