03 幸村と一緒に歩いていると時間が短く感じる。気づけば目の前に学校があり、別れの時が近づいていた。 「この間、飼い猫の首輪が欲しいと言ってただろう?」 「ん、」 「今度の休みに駅前のペットショップへさ、」 「うん」 「……ヘンリー?」 「うん」 「ヘンリー」 「っ、へ? あ、なに?」 覗き込むように私をうかがう幸村に、目を見開く。考え込んで幸村との会話を疎かにしてしまうなんて、なにをしているのだろう。眉を下げると、それを見た幸村がクスリと笑う。 クスクス笑い続ける幸村に今度は眉をつり上げると、繋がっていた手が離れていく。温もりがなくなった手から、少しずつ熱が消えていった。……ああ、どうしよう、とうとう嫌われてしまったかもしれない。いつも素直なことは言えないし、喜ぶようなことなんてしてあげられないし、あれ、むしろ、今まで幸村はなんで私に愛想を尽かさなかったのだろうか。 考えれば考えるほど思考は悪い方向に進み、ついには目頭が熱くなってきたとき、大きな手のひらが頭に乗る。さらりさらりとなだめるように優しく頭を撫でる幸村に、気持ちが落ち着く。 「今日の昼も、一緒に食べようか」 私の不安を消し去る約束に、胸が温かくなった。 130301 目次/しおりを挟む [top] |