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 走って乱れた呼吸を整える。温かな笑顔で迎えてくれた彼の胸に飛びつきたい衝動をこらえ、笑顔で挨拶を返した。――いや、笑顔で挨拶を返したかった。気持ちとは裏腹に、つり上がっていく自分の眉毛に焦りを感じる。

「待ち合わせなんてしてないのに、幸村って本当に律儀だよねー」

 ああ、こんなことを言うつもりではないのに。いつも待ってくれてありがとうって今日こそ伝えるつもりだったのに。幸せだった気持ちが萎みそうになったとき、右手が温もりに包まれる。手に馴染む温もりは幸村のもので、頬が熱を持つ。ピンク色になっているだろう顔を見られたくなくて俯くと、腕を引っ張られた。反射的に顔を上げると幸村の笑顔が視界に映り、胸一杯に幸せが広がる。

「大丈夫、わかってる」

 柔らかく、包み込むような声音で幸村は言った。意味深に囁く幸村は、その言葉が口癖で、いつも心が読まれていると錯覚しそうになるが、そんなわけはないだろう。
 遠慮がちに彼の手を握り締めると、強く握り返された。絡んでいく指に文句を言う暇もなく、幸村は歩き出す。置いて行かれないよう慌てて足を動かし、幸村の隣に並んだ。私に合わせて歩みを進める幸村は今日も紳士的である。

130228
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